(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【3】」からの続き)
「階段から歌声が聞こえたものの、そこには誰もいなかったそうです」。カナダの首都オタワの怪奇スポットを巡るツアーで、ガイドのモニカさんがそう耳打ちしたのが世界遺産のリドー運河のほとりにそびえる城のような風格あふれる外観の名門ホテル「ザ・フェアモント・シャトー・ローリエ」での出来事だった。怪談の舞台として再び登場した階段にいた「声の主」と目されているのは、豪華客船「タイタニック」の沈没事故で犠牲となった鉄道会社社長だとか…。
【ザ・フェアモント・シャトー・ローリエ】オタワを代表する名門ホテルで、1912年に開業した。建物は1981年にカナダの歴史的建造物に指定されており、33室のスイートルームを含めて426室の客室を備えている。現在はフランスのホテル大手、アコーホテルズのグループ会社が運営している。南アフリカでアパルトヘイト(人種隔離)撤廃闘争を率いた故ネルソン・マンデラ元同国大統領、映画「スター・ウォーズ」シリーズで「レイア姫」を演じたアメリカ人俳優の故キャリー・フィッシャーさん、カナダ出身の有名シンガーソングライターのブライアン・アダムスさんら多くの著名人が宿泊した。
▽「バリトンの澄んだ美声」
「バリトンの澄んだ美声だった」との証言がある声の主は、ホテルを建設したグランド・トランク鉄道(現在のカナディアン・ナショナル鉄道)の社長だったチャールズ・ヘイズではないかと想像されている。
現在のVIA鉄道カナダのオタワ駅は郊外にあるが、当時はザ・フェアモント・シャトー・ローリエの正面に旧オタワ・ユニオン駅が構えていた。カナダ東部モントリオールなどと結ぶ列車の鉄道利用者らの宿泊を見込んでホテルが建てられた。旧駅舎は現存しており、近くのカナダ連邦議会議事堂が2019年から31年までの予定で大規模改修中のため現在は議会下院が暫定的に入居している。
▽開業祝賀会が延期
ザ・フェアモント・シャトー・ローリエの開業祝賀会は1912年4月26日に予定されていたが、先延ばしになった。というのもヘイズが帰らぬ人になってしまったからだ。
タイタニックには乗客と乗員合わせて2224人が乗り込んでいたが、救命ボートが足りなかったため1513人もの犠牲者が出てヘイズもその1人だった。
▽「開業を心待ちに」とも
ザ・フェアモント・シャトー・ローリエは高級ホテルのため、怪奇スポットを巡るツアーの受け入れに積極的ではないのだろう。ガイドのモニカさんがこの話をしたのはリドー運河沿いのあまり人けがない遊歩道だった。
怪談の舞台が階段だったためか私たちを階段に座らせると、モニカさんが「ヘイズはホテルの開業を心待ちにしていたと言われている」と指摘した。だからこそ「生前に目の当たりにできなかったホテルの開業を、自身の歌声で祝い続けているのではないか」という見方があるのだそうだ。ただし、タイタニックの沈没現場までの距離は直線距離で2千キロを超えていることもあり、話半分で聞いた方が良いとは思う。
▽階段に怪談あり!?
「階段から歌声」の怪談をする前に、モニカさんは「この中でザ・フェアモント・シャトー・ローリエに宿泊中の方はいますか?」と質問した。誰も手を上げなかったのを確認して「ああ良かった、この話をすることで安心して眠れなくなると困りますので」と話した。
実を言うと私は以前のオタワ訪問で2回宿泊した。古い建物のため客室もややくたびれている印象だったが、「出たあ!」という体験はしていない。よって驚愕体験が待ち受けていることは保証しかねるが、「階段に怪談あり」というのは確かなようだ。
(シリーズ「「カナダの世界遺産でクルーズ体験」【5】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)