(「シリーズ『自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア』【5】」からの続き)
アメリカ(米国)東部のペンシルベニア州フィラデルフィア都市圏の公共交通機関を担う南東ペンシルベニア交通局(SEPTA)は通勤客らを運ぶ郊外鉄道も広く運行しており、日本には導入されていない韓国メーカー製の電車も走っている。モーター(主電動機)はうなりを上げることのない小気味よい音色で、快走する様子にうならされた。「もしや日本のあのメーカーが造ったモーターか?」と推理したところ、その通りだった。
▽隣接2州まで運行
SEPTAの郊外鉄道は州境を越え、隣接する2州まで運行されている。北はニュージャージー州(NJ州)の州都トレントンまで、南はデラウェア州ウィルミントンを経由して同州ニューアークまで走る。これらの区間は約120キロも離れている。
▽NJ州ではないニューアーク
ややこしいのは、ニューアークはNJ州にある都市の方が著名なため、NJ州とも結んでいるSEPTAのニューアーク行きがNJ州へ北上すると誤解を招きかねないことだ。
フィラデルフィアでユナイテッド航空の成田空港と結ぶ路線も発着しているニューアーク国際空港を目指して行き先を「NEWARK」と表示した電車に乗り込んでしまった場合、目的地とは反対の南へ向かってしまう。終点では航空機の影も形もない牧歌的な風景が待ち受けていることになる。
▽日本の通勤電車と異なる「両開き扉」
SEPTAの郊外鉄道で最も新しい車両が、韓国の現代ロテムが製造したステンレス製車両「シルバーライナー5」だ。車体は韓国・釜山の工場で製造され、フィラデルフィアで最終的に組み立てられた。
フィラデルフィア中心部から郊外へ向かうためSEPTAのシルバーライナー5に乗り込んだ際、早くも乗降口で戸惑った。2枚の扉が反対方向へ開く「両開き扉」ながらも、日本の通勤電車とは異なる面がある。
扉の間に柱があり、両方の扉が開いても全体が開放された状態にはならないのだ。特にラッシュ時間帯には柱が乗り降りの妨げになりかねないだけにない方が良さそうだ。
現代ロテムが同じくシルバーライナー5を納入した米国西部コロラド州デンバー都市圏のリージョナル・トランスポーテーション・ディストリクト(RTD)では、柱のない両開き扉の仕様になっている。
▽ロマンスカー仕様は「禁止」
私が期待していたのは先頭車両の進行方向の先頭にある座席に陣取ることだった。この車両は先頭部の中央に貫通扉があり、正面から見て左側に運転席がある。右側には進行方向に座るクロスシートがあるのだ。
ここに座れば、運転席を2階に設けることで1階に展望席を用意した小田急電鉄の特急用車両「ロマンスカーGSE」のような眺望を通常の運賃だけで楽しめるとの算段だったのだ。
ところがショックを受けたのは2列目の座席のところに規制線が張られており、先頭の座席への立ち入りを「禁止」していたことだ。関係者は「衝突事故が起きた場合に乗客が死傷するリスクを考え、先頭の座席を使用禁止にした」と打ち明ける。
運転席が手狭なため、運転士は自分の荷物を先頭の座席に置いていた。それならば通常の通勤電車と同じように先頭部全体を乗務員室にした方が良かったのではないか。
▽聞き覚えのあるモーターの音色
シルバーライナー5はスムーズに加速し、停車駅の手前での減速も含めて乗り心地が素晴らしい。運転士さんの力量も大きいのだが、前提として優れた駆動装置を積んでいることが不可欠だ。
具体的には電車を走らせるために電気を適切に制御してモーターを駆動させる制御装置「インバーター」と、モーターがよくできていることを意味する。そして何よりも、奏でる音色に聞き覚えがあった。
私は日本だけではなく、米国などの電車にも採用されている三菱電機のVVVFインバーターとモーターを搭載していると推察した。関連サイトで調べたところ、案の定そうだった。韓国メーカーの電車に乗っても感心させられた部品は日本メーカー製だったというのは、これまでに聞き覚えがある音による安心感からか、それとも日本人だからか?
(シリーズ「自由・芸術・交通の要衝フィラデルフィア」【6】に続く)
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