旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2023年6月21日更新
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コラムニスト:Tomoko Nishio

夜の森で繰り広げられる幻想的なバレエの世界。第34回清里フィールドバレエ『くるみ割り人形』2023年7月28日から

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涼やかなステージが期待の『くるみ割り人形』
本物の森のざわめきや月の光、あるいは瞬く星々のもとで繰り広げられる幻想的な世界――。
「清里フィールドバレエ」は清里(山梨県・北杜市)の萌木の村・野外ステージで開催される日本で唯一、30余年にわたって継続して行われている野外バレエで、2023年の今年は34回目を迎える。屋内の劇場では決して味わうことのできない、野外ステージならではの解放感と高原の自然の舞台が生み出す幻想的な世界が魅力の一つだ。今回の演目は『くるみ割り人形』全幕と、そして『クララの夢』『ヴァルプルギスの夜』の二本立て。とくに初日『くるみ割り人形』の主演「金平糖の精」を、英国ロイヤル・バレエ団ソリストの佐々木万璃子とルーカス・ビヨネボ・ブレンツロが務めるとあって、話題を呼んでいる。バレエ作品は屋外の良さを利用した特別演出で、盛大な打ち上げ花火も野外公演ならではの見どころのひとつだ。(文章中敬称略)
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『くるみ割り人形』は清里ならではの演出となる
■清里の地に文化を。フランスで体験した野外バレエが根付いて30余年

「清里」と聞いて、もしかしたらある世代の方々の中には夏の観光地として、ある一時代の賑わいを思い起こす方々もいるかもしれない。今年で34回目を迎える清里フィールドバレエの誕生には、騒動ともいえるような賑わいの歴史を経て流行に左右されないまちづくり、「清里に本物の文化を根付かせたい」と考える地元の人たちの、強い思いがあった。一方、フィールドバレエの総監督であるバレエ・シャンブルウエスト(東京・八王子市)の今村博明、芸術監督の同川口ゆり子の両氏は、フランスで野外バレエを体験し、ぜひこれを日本でぜひ上演し、新たなバレエ文化を根付かせたいと考えていたという。清里フィールドバレエはそうした町とバレエ団双方の思いが結実し、1990年8月に第1回公演が開催されたのである。

2日間開催された第1回公演の観客動員数はわずか350人程度だったが、関係者らはコツコツと毎年上演を続けていく。今村総監督と川口芸術監督は野外ならではの「舞台セット」を生かしたさまざまな作品をクリエイト。野外公演ゆえ雨天中止対応への苦慮や、夜露で滑りやすくなり、ダンサーに転倒の危険が及ぶ舞台の床にはボイラーを仕込むなど、技術的な工夫もあった。八ヶ岳を望む清里高原は避暑地ではあるが、そこで踊るバレエダンサーらにとっては「高地トレーニングのよう。でも病みつきになるほど楽しい」ものでもあった。
ワルプルギスの夜zoom
ワルプルギスの夜
そうしたなかで地元の理解と応援も次第に増え、評判も広がっていく。そしてバレエ・シャンブルウエストのダンサーらに加え、在京バレエ団トップダンサーや元ボリショイバレエ団のプリンシパル(最高位ダンサー)、ニーナ・アナニアシヴィリといった豪華ゲストも出演するようになり、30周年を迎えた2019年には約2週間の上演期間で3万人を動員する公演にまで成長したのである。
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■シャンブルウエスト出身の佐々木の凱旋公演

第34回清里フィールドバレエの演目は『くるみ割り人形』全幕と、『くるみ割り人形』の抜粋である『クララの夢』、そしてゲーテの詩作『ファウスト』から題材をとった『ヴァルプルギスの夜』のミックスプログラムが組まれている。

初日開幕『くるみ割り人形』で主演を務める佐々木はバレエ・シャンブルウエスト出身のダンサーで、今村総監督と川口芸術監督の愛弟子の一人。恩師の薫陶を受けて英国へ渡り、英国ロイヤル・バレエ団に入団。2022年12月にソリストながら『くるみ割り人形』の「金平糖の精」で主演デビューを飾った。今回のフィールドバレエは、いわば凱旋公演とあって、地元はもとより、フィールドバレエファンの期待も高まっている。パートナーを務めるブレンツロはプロのバレエダンサーを目指す3人の少年を描いたドキュメンタリー映画『バレエボーイズ』の登場人物の一人で、彼もまた現在英国ロイヤル・バレエ団で将来を期待されている若手ダンサーだ。

このほか、主演には新国立劇場バレエ団プリンシパルの小野絢子と同福岡雄大、東京バレエ団ゲスト・プリンシパルの上野水香、Kバレエ・カンパニーの名誉プリンシパル遅沢佑介などの著名ダンサーが名を連ねるほか、バレエ・シャンブルウエストからも柴田実樹&江本拓、松村里沙&土方一生、川口まり&藤島光太、橋本尚美&山本帆介らが主演を務める。
盛大な打ち上げ花火も注目zoom
盛大な打ち上げ花火も注目
また野外ステージならではの演出、盛大な打ち上げ花火もフィールドバレエ名物のひとつ。隅田川の花火大会などにも参加している花火職人によるもので、見応えは満点。公演当日の萌木の村・野外ステージでは、昼間にリハーサルが行われており、見学は自由。さらに期間中には萌木の村のオルゴール館「ホール・オブ・ホールズ」でバレエの衣装展が開かれる。博物館が所蔵する1900年パリ万博で使用された巨大オルゴール「リモーネル1900」をはじめとするコレクションも必見だ。清里の清泉寮から望む八ヶ岳、小海線清里駅の手前の甲斐小泉には平山郁夫シルクロード美術館などを訪れるなど、バレエ色をまとった清里で爽やかなひと時を過ごしてはいかがだろう。
ゲネプロの見学は自由zoom
ゲネプロの見学は自由
第34回清里フィールドバレエ『くるみ割り人形』(全幕)/『クララの夢』『ワルプルギスの夜』

■開催期間:2023年7月27日(木)~2023年8月7日(月) ※8月2日(水)休演
■会場:萌木の村・野外特設ステージ


7月27日(木)くるみ割り人形(全幕)
金平糖の精:佐々木万璃子、チャーミング王子:ルーカス・ビヨネボ・ブレンツロ


7月28日(金)くるみ割り人形(全幕)
金平糖の精:小野絢子、チャーミング王子:福岡雄大


7月29日(土)くるみ割り人形(全幕)
金平糖の精:佐々木万璃子、チャーミング王子:ルーカス・ビヨネボ・ブレンツロ


7月30日(日)くるみ割り人形(全幕)
金平糖の精:小野絢子、チャーミング王子:福岡雄大


7月31日(月)
クララの夢 くるみ割り人形
金平糖の精:柴田実樹、チャーミング王子:江本拓
ワルプルギスの夜
巫女:吉本真由美、サチロス:藤島光太、祭司:バトムンク・チンゾリク


8月1日(火)
クララの夢 くるみ割り人形
金平糖の精:松村里沙、チャーミング王子:土方一生
ワルプルギスの夜
巫女:吉本真由美、サチロス:藤島光太、祭司:バトムンク・チンゾリク


8月3日(木)
クララの夢 くるみ割り人形
金平糖の精:橋本尚美、チャーミング王子:山本帆介
ワルプルギスの夜
巫女:川口まり、サチロス:藤島光太、祭司:逸見智彦


8月4日(金)
クララの夢 くるみ割り人形
金平糖の精:橋本尚美、チャーミング王子:山本帆介
ワルプルギスの夜
巫女:川口まり、サチロス:藤島光太、祭司:逸見智彦


8月5日(土)
くるみ割り人形(全幕)
金平糖の精:上野水香、チャーミング王子:遅沢佑介


8月6日(日)
くるみ割り人形(全幕)
金平糖の精:山田美友、チャーミング王子:早川侑希


8月7日(月)
くるみ割り人形(全幕)
金平糖の精:上野水香、チャーミング王子:遅沢佑介


公式サイト
https://www.fieldballet.com/
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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