旅の扉

  • 【連載コラム】こだわり×オタク心
  • 2023年5月20日更新
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コラムニスト:Tomoko Nishio

キッチュなドタバタオペラ『セビリアの理髪師』、英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2022/23

©2016 ROH. Photograph by Mark Douetzoom
©2016 ROH. Photograph by Mark Douet
映画館で世界最高峰のオペラ・バレエが楽しめる英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2022/23。2023年5月19日からはロッシーニの名作『セビリアの理髪師』が上映されている。1816年にロッシーニがフランスのカロン・ド・ボーマルシェ(1732-1799)の戯曲を元に作った喜劇オペラで、ロッシーニの代表作のひとつとして上演され続けている人気作品だ。今回英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演される作品は2005年に初演し再演を繰り返しているプロダクション。今回は2016年以来の久々の再演となる。
出演者も「新生ネトレプコ」と言われるロジーナ役のアイグル・アクメチーナ、理髪師フィガロは陽気なキャラクターで人気の若手、アンドレイ・フィロンチク。また音楽師バジリオに世界的スターであり、去る3月に来日しその美声を披露したブリン・ターフェルが配されている。舞台はカラフルでキッチュな色彩に溢れ、絵本世界のおとぎ話のよう。世界中で上演され、旅の途中で巡り合ったオペラ劇場でも上演されている確立の高い人気作、ぜひこの機会にふれておいてはいかがだろう。モーツァルトの『フィガロの結婚』と同じキャラクターが登場するシリーズ作品でもあるので、こちらを見たことがある人ならぜひ『セビリアの理髪師』も見ておきたい。
© Bill Cooper zoom
© Bill Cooper
■時を超えても変わらない恋や金欲のリアリティ

この物語はロジーナとアルマヴィーヴァ伯爵との恋物語。ロジーナに一目惚れしてしまった伯爵が、床屋にして何でも屋のフィガロの知恵を借りながら、なんとかロジーナとの恋を成就させようとするところに、ロジーナの遺産目当てで近づくバルトロが妨害を企てるも最後は丸く収まり、ハッピーエンドとなる。

キーマンとなるのは何でも屋フィガロ。オーバーオールに赤白の縞々シャツ、赤い帽子をかぶった理髪師はスーパーマリオを連想させるようないでたちだ。「床屋であるが、何でも屋」というのは、この戯曲の原作者であるボーマルシェをどことなく彷彿させる。というのもこのボーマルシェ、パリの平民で時計職人の息子であったが、いろいろ良くも悪くも紆余曲折を経て当時の国王ルイ15世の宮廷に入り込み、国王の寵姫ポンパドゥール夫人のための指輪時計を作るなど次第に地位と名声と財産を確立し、さらには職人だけにとどまらず音楽師、森林開発の実業家や官吏、そして劇作家などとして様々な経歴を積み重ねた人物なのだ。まさに「小知恵を働かせながら世渡りをする何でも屋」フィガロである一方、このボーマルシェ自身は恋愛沙汰、金銭沙汰の問題や裁判も多く、そうした一種ヤバめな部分も、この物語には反映されてもいるようだ。

結果的に、ボーマルシェのそうした生々しい体験があればこそ、この物語は時を経ても変わらぬ恋や金銭絡みのリアリティを持つのかもしれない。そして恋する伯爵、欲まみれの後見人の間を軽快に飛び交う庶民フィガロは、なるほどスーパーマリオっぽいなとも思えたりもするのだ。
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■未来の大スター!?ロジーナ役のアクメチーナは注目

このオペラは、ロジーナ役のアイグル・アクメチーナにも注目していただきたい。ロシア出身、まだ20代後半という若さながら、今世界の歌劇場で活躍し「新生ネトレプコ」とも称される逸材だ。この『セビリアの理髪師』のロジーナ役も彼女の持ち役の一つで、実ののびのびと演じている。いたずらっぽいまなざしに伸びのある艶っぽい歌声など、この先どう成長していくのだろうと思わせる歌手である。

フィガロ役のアンドレイ・フィロンチクも明るく朗々とした歌声がこの役によくハマる。また伯爵役のブラウンリーは、この伯爵役だけで23種もの『セビリアの理髪師』に出演しているという、まさにこの役を代表するアーティスト。映像では指揮者パヤーレの音楽づくりの舞台裏も見られ、興味深い。
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© Bill Cooper
音楽教師バジリオ役のブリン・ターフェルは日本でも非常に人気の高い世界的トップスターで、『さまよえるオランダ人』『ワルキューレ』『フィガロの結婚』など、大作で主演を張るアーティストで、何をいまさらこんな「脇役」を……という、そんなクラスの歌手だ。しかも今回のバジリオは実は彼にとっては初役なのだが、他役を喰ってしまいそうな、そのぎりぎりのところで、しかし出過ぎず、アンサンブルに溶け込んでいるところは絶妙としかいいようがない。非常に奇怪な、ヤバ味満載の音楽教師ではあるのだが、実に彼も楽しそうに演じているのが画面を通して伝わってくる。ファンにとってはめったに見られないターフェル様を拝める絶好の機会でもあるので、ぜひお見逃しなきよう。
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■実は三部作の『セビリアの理髪師』『フィガロの結婚』

さて、冒頭に少しふれたが、このボーマルシェの戯曲『セビリアの理髪師』は「フィガロ三部作」と呼ばれるシリーズ作品で、第一部『セビリアの理髪師』(1775)、第二部『フィガロの結婚』(1784)、第三部『罪ある母』(1792)で構成される。

オペラとしてはジョヴァンニ・パイジエッロ『セビリアの理髪師』(1782)、モーツァルト『フィガロの結婚』(1786)と発表されたが、『セビリアの理髪師』は1816年のロッシーニの作品の方が成功したために、残念ながらパイジェッロのものはすっかり忘れ去られてしまっている(三作目『罪ある母』はフランスの作曲家ダリウス・ミヨーが1966年に作曲しているが上演機会は極めて少ない)。

現在上演されている第一部、第二部の『セビリアの理髪師』『フィガロの結婚』は我らがスーパー・フィガロにアルマヴィーヴァ伯爵、ロジーナ、バルトロ、バジリオなど、同じキャラクターが登場し、やはりドタバタを繰り広げる、作曲家は違えども、物語としては2作であり、かつ2作で一つ、というものでもあるのだ。英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンでは2023年7月から『フィガロの結婚』も上映するので、ぜひこちらもあわせご覧いただきたい。
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© Bill Cooper
英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2022/23『セビリアの理髪師』

【音楽】:ジョアキーノ・ロッシーニ
【台本】:チェーザレ・ステルビーニ (原作:ボーマルシェによる戯曲「セビーリャの理髪師」)
【指揮】:ラファエル・パヤーレ
【演出】:モッシュ・ライザー、パトリス・コーリエ
【美術】:クリスティアン・フェヌイヤ
【衣裳】:アゴスティーノ・カヴァルカ
【照明】:クリストフ・フォレ
ロイヤル・オペラ合唱団(合唱指揮:ウィリアム・スポールディング)
ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団(ゲスト・コンサートマスター:ベンジャミン・マーキス・ギルモア)
フォルテピアノ:マーク・パックウッド


【出演】
ロジーナ:アイグル・アクメチーナ
フィガロ:アンドレイ・フィロンチク
アルマヴィーヴァ伯爵:ローレンス・ブラウンリー
ドン・バジーリオ:ブリン・ターフェル
バルトロ:グラント・ドイル(歌)/ファビオ・カピタヌッチ(演技)
ベルタ:エイリッシュ・タイナン
アンブロージオ:チャーベル・マター
隊長:ダヴィッド・キンバーグ
公証人:アンドリュー・マックネイル


【上映劇場】
北海道 札幌シネマフロンティア 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
宮城 フォーラム仙台 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
東京 TOHOシネマズ 日本橋 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
東京 イオンシネマ シアタス調布 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
千葉 TOHOシネマズ 流山おおたかの森 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
神奈川 TOHOシネマズ ららぽーと横浜 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
愛知 ミッドランドスクエア シネマ 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
京都 イオンシネマ 京都桂川 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
大阪 大阪ステーションシティシネマ 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
兵庫 TOHOシネマズ 西宮OS 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
福岡 中洲大洋映画劇場 2023/5/19(金)~2023/5/25(木)
※上映時間は劇場へ直接問い合わせのこと。


http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=the_barber_of_seville2022
コラムニスト:Tomoko Nishio
旅行業界・旅&芸術文化ライター、動物好き。旅行業界誌記者・編集者を経てフリーの旅行ライターに。南仏中世と「三銃士」オタク。歴史とアートに軸を置きつつ、絵画、バレエ、音楽、物語、映画、漫画のロケ地・聖地巡り、海外旅行や小さなお散歩まで、様々な視点で旅を発信。「旅」は生活のなかにもあり。

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