旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2023年1月15日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

カタールで食すアラブ料理 定番からミシュラン・シェフのおしゃれレストランまで ~アートなカタール #07

アラブ料理&レストランの数々。野菜とスパイスがたっぷり使われ、女性好みの内容。zoom
アラブ料理&レストランの数々。野菜とスパイスがたっぷり使われ、女性好みの内容。
日本ではまだまだポピュラーではないアラブ料理。1週間のカタールの旅では1日1食、ランチかディナーで必ず食べる機会がありました。メニュー構成を紹介すると、「メッゼ(meze)」と呼ばれる前菜、サラダやスープ、メインの肉料理に、「ホブズ(khubz)」という平たいパンが付くのが一般的。
カタールの最新アートシーンを紹介してきた本コラムの最終回では、代表的なレストランと料理をピックアップしてご紹介します。

定番中の定番は、スーク・ワキーフの人気レストラン
代表的な料理をひと通り味わえるのがここ。首都ドーハで最も賑わう観光地、スーク・ワキーフの中心にあるレストランです。“団体さん御用達”みたいな雰囲気ですが、スーク散策の合間に立ち寄れるから便利。周辺が賑やかなので、夜でも安心して出かけられます。
※料理名はお店によって呼び名が変わることがあります。
手軽にアラブ料理を味わうなら、スーク・ワキーフの「Damasca Restaurant」へ。メッゼと呼ばれる前菜が次々と出てきて、ショータイムも楽しいお店です。zoom
手軽にアラブ料理を味わうなら、スーク・ワキーフの「Damasca Restaurant」へ。メッゼと呼ばれる前菜が次々と出てきて、ショータイムも楽しいお店です。
前菜のメッゼに登場するのが、ひよこ豆のペーストの「フムス(hummus)」と、焼きナスのペーストにヨーグルトやニンニクを混ぜた「ムッタバル(mutabal)」。水切りヨーグルトにニンニク、ミントやスパイスを利かせた「レブネマエーズ(labneh Maez)」、サラダではパセリ、トマト、タマネギなどを細かく刻み、レモン汁とオリーブオイルで和えた「タブーレ(tabbouleh)」が定番です。

写真のように、よく似た前菜が次々と出てきて、そろそろお腹がいっぱい!……になった頃に登場するのがメイン料理の「チキンカブサ(chicken kabsah)」。サフランなどの香辛料をたっぷり加えて炊き上げたご飯に、こんがり焼いたお肉がのっています。デザートは、あま~いオートミールのようなもの。
デザートを除き料理はすべて大皿で提供され、各自が自分のお皿に取り分けて食べます。ちなみに、日本のようにお皿を交換してくれるサービスはありません。替えのお皿がほしいときは、リクエストしましょう。
このお店では、アラブの伝統舞踏「タンヌーラダンス」のショータイムがありました。“タンヌーラ”とはアラビア語で“スカート”という意味。大きなスカートをはいた男性が高速でクルクルと回る様はなかなか迫力があり、「目が回らないのかしら?」と心配になるほど。ステージ上でのパフォーマンス後は、各テーブルの近くまで来てクルクルと回ってくれるので、なかなか楽しいですよ。

ちょっと高級なレストランのアラブ料理
お次はもう少し高級なレストランのアラブ料理。フムスやレブネマエーズ、タブーレなどのメニューはほとんど変わりませんが、盛り付けが洗練されていますよね。
リゾートエリアにあるレストランのランチメニュー(一部)。ヨーグルト味の温かいスープを初めて食べました(下・中央の写真)。zoom
リゾートエリアにあるレストランのランチメニュー(一部)。ヨーグルト味の温かいスープを初めて食べました(下・中央の写真)。
葉っぱに包まれているのは、「ドルマ(deokmak)」。ブドウの葉で挽き肉を包んであります。“ドルマ”とは、トルコ語で“詰める”という意味。これがヨーロッパに伝わり、ロールキャベツになったといわれています。
白いスープは、ヨーグルト味のスープに、羊肉のミンチを包んだパオズのようなお団子を浮かべたもの。温かいヨーグルト味を想像するのは難しいですが、柔らかい酸味と少しクセのある羊肉がよく合います。メインは、角切り肉を串に刺して焼いた「ケバブ(kebap)」。チキン、ビーフ、羊肉のミンチの3種類があり、塩とクミン、コリアンダーなどのスパイスだけのシンプルな味つけで、肉本来の旨みがよくわかる料理です。
ほかに、ひよこ豆のコロッケ「ファラフェル(falaafil)」、「ファットゥーシュ(fattoush)」という、ざく切りにしたレタスやトマトをオリーブオイルで和えたサラダがありました。
どのお店でも感じたのは、ホブズというパンが美味しいこと。ピタパンのような平たいパンで、焼きたての温かいものが提供されます。

さらに高級なレストランでは……
ドーハ中心部の高級レストランでいただいたランチがこちら。お客さんは、「高級官僚のビジネスランチ」みたいな男性グループが中心。そもそもカタールのレストランで、ローカルの女性だけで食事をしている風景はほとんど見かけませんでした。これもお国柄かもしれません。
ドーハ市内の海岸線にある「Orient Pearl Restaurant」のランチメニュー。zoom
ドーハ市内の海岸線にある「Orient Pearl Restaurant」のランチメニュー。
このお店は、前菜が一口で食べられるフィンガーサイズで提供されます。ソフトクリームみたいに見えるのがフムス。メインの肉料理、カブサはチキンとビーフの2種類、デザートもシュークリームとクリームブリュレののようなプレートの2種類ずつ。フィンガーサイズの前菜以外はすべて大皿で提供され、数人で取り分けて食べます。高級なレストランでも取り分け用のスプーンやトングはなくて、各自のスプーンで自分のお皿にとって食べる、日本でいうなら「直箸(じかばし)」方式。これもまた、アラブ料理のスタイルのようです。

ミシュラン・シェフ、アラン・デュカスの手にかかるとこうなる!
フレンチ風にアレンジを加えたアラブ料理を味わえるのは、第4回のコラムでご紹介した「カタール国立博物館(Qatar National Museum)」内の「ジワン・レストラン(Jiwan Restaurant)」。アラン・デュカスが監修を務めるレストランです。
アラン・デュカスが手がける「Jiwan Restaurant」のランチメニュー。ザクロジュースが美味しい!zoom
アラン・デュカスが手がける「Jiwan Restaurant」のランチメニュー。ザクロジュースが美味しい!
さすがに美しく、ボリュームもちょうどよくて、取り分け用のスプーンやフォークも各お皿に添えられて……、とおもいきや。最初のプレートだけで、あとは同じスプーンを使い回します(笑)。
店名の“ジワン”とは、カタールの言葉で“完璧な真珠”という意味だそう。かつてこの国の経済は真珠交易により成り立っていました。カタールの豊かな遺産をリスペクトする意味で名づけられたのかもしれません。レストランの設計は日本人建築家、高田浩一が手がけています。テラス席から一望できるドーハの湾岸地帯の景色も楽しめるので、博物館と併せぜひ訪れてみたいレストランです。

カタールのカフェはこんな感じ
最後に、カタールで見つけたカフェをご紹介します。

デザートツアー(砂漠ツアー)で立ち寄る休憩スポットでは、コーヒーや紅茶のほか、冷たいモロッカンティー(ミントティー)が振る舞われます。お茶菓子に必ず添えられているのが、デーツ(ナツメヤシ)のドライフルーツ。食物繊維とともに、亜鉛やマグネシウム、鉄分などを豊富に含み、貧血予防の効果が高いとされているものなので、特に女性におすすめ。中東諸国では定番のお土産としても人気があります。
写真・下は、ホテル街で見つけたコーヒースタンド。夕刻、オフィス帰りらしき女性がおしゃべりを楽しんでいる姿が見られました。
デザート(砂漠)エリアのカフェ(上)。右のプレートがデーツ。ホテル街の一角で見つけたコーヒースタンド(下)。どちらも素晴らしく開放的!zoom
デザート(砂漠)エリアのカフェ(上)。右のプレートがデーツ。ホテル街の一角で見つけたコーヒースタンド(下)。どちらも素晴らしく開放的!
アラブ料理の特徴は、野菜をたっぷり食べられ、ヨーグルトやチーズといった乳製品を使ったメニューが多いこと。北アフリカやトルコなど近隣諸国の影響を受けながら発展してきたものなので、スパイスや調理法からいろいろな国の気配のようなものが感じられます。ヘルシーな料理が多く、1週間の滞在中は体調もおなかの調子もすこぶる良好。毎日食べていても、食べ飽きることはありませんでした。

旅のデスティネーションとしてはまだまだ発展途上のカタール。FIFAワールドカップに向けた大規模な開発や建築は終了しましたが、進行中のアートプロジェクトがあるほか、今後は環境配慮型の国家を目指すとしています。この国の取り組みに、しばらくは目が離せそうにありません。
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
risvel facebook