旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2022年11月26日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

FIFAワールドカップ2022開催地、カタールってどんな国? ~アートなカタール #1

FIFAワールドカップ2022開催に湧くカタールに今、世界中が注目。zoom
FIFAワールドカップ2022開催に湧くカタールに今、世界中が注目。
中東で初めて開催されているサッカーのワールドカップ。初戦で強豪ドイツを撃破した日本代表の活躍に、にわかサッカーファンになっている人は多いはず。さらに、これまであまりなじみがなかった中東の小さな国に興味を抱いた人もいるのではないでしょうか。
そのカタールを、W杯開幕直前に訪れました。今、この国が取り組んでいるのが、スポーツとともに文化芸術活動。連日の熱戦に湧くカタールですが、このコラムでは最新のアートシーンを中心にご紹介していきます。

天然ガスと石油資源に恵まれた、世界有数のお金持ち国
アラビア半島からペルシャ湾にちょこんと突き出た国の大きさは、日本の秋田県とほぼ同じくらい。過去のワールドカップ開催国としては、最も小さい国なのだそうです。砂漠を開発して作られた首都ドーハ周辺を除き、国土の半分が平坦な砂丘地帯です。
W杯の会場のひとつ「スタジアム974」。輸送用コンテナとアップサイクル可能な鉄骨素材で造られ、大会終了後は解体される予定。  サステナブルな大会をアピールするのが目的とか。zoom
W杯の会場のひとつ「スタジアム974」。輸送用コンテナとアップサイクル可能な鉄骨素材で造られ、大会終了後は解体される予定。  サステナブルな大会をアピールするのが目的とか。
同じく中東のドバイと並び、世界有数のお金持ち国であるカタール。ではどのくらいお金持ちなのか、気になります。日本と比較してみると……
1人当たりのGDP(国内総生産)は、日本が3万9300ドルで世界第27位なのに対し、カタールは6万8600ドルで第8位。人口は約280万人ですが、その9割をアジアからの出稼ぎ労働者をはじめとした外国人居住者が占めているので、実質の国民の豊かさは数字以上。国民の医療費や教育費はすべて無料。大卒の初任給が2000万円を超える職種もあるのだとか。
今回のW杯の会場となっている競技場は、首都ドーハ周辺に8カ所。3カ所は既存の施設で、5カ所は本大会のために新設されました。灼熱の砂漠にあり、屋根が解放された競技場に空調設備を導入しているというのだから、電力不足が叫ばれている日本からは想像できない豊かさであることは間違いありません。
日本が対ドイツ戦で勝利を収めた「ハリファ・インターナショナル・スタジアム」には、世界最大級のオリンピック博物館を併設。zoom
日本が対ドイツ戦で勝利を収めた「ハリファ・インターナショナル・スタジアム」には、世界最大級のオリンピック博物館を併設。
イスラム教の戒律にとりわけ厳しいことで知られる
カタールはアラブ諸国のなかでも、特にイスラム教の戒律に厳しい国。豚肉を食べない、アルコールが飲めないことはよく知られていますが、持ち込むこともできません。数年前、訪れたドバイでは、入国時の空港で購入したお酒は持ち込みOKと聞きましたが、カタールではNG。見つかると没収されるだけでなく、拘束されることもあるそうです。
じつは、ホテルの部屋で飲むために、ペットボトル入りのワインをスーツケースに忍ばせて持ち込むことを考えていた私。実際には持ち込みはせず、あとからこのことを知り冷や汗をかきました(笑)。どうしてもお酒が飲みたい場合は、ホテルのバーへ。グラスワインが2000円程度で、日本より少々お高め、といったところでしょうか。

日本とカタールの意外な接点とは?
カタール人の先祖は、18世紀後半にアラビア半島から移住してきたアラブ人。現在は天然ガスと石油の生産が主要産業ですが、かつてはペルシャ湾における貿易の拠点として栄え、また漁業や真珠漁を行っていました。その歴史や自然、産業や文化に関する展示を行う「カタール国立博物館(National Museum of Qatar)」で出会ったのは、思いがけない人物の写真。真円真珠の養殖とブランド化に成功し、“世界の真珠王”と呼ばれた御木本幸吉です。
パネルには、1929年から始まった世界大恐慌により真珠の価格が暴落し、さらに養殖真珠が広まったことで、カタールの基幹産業であった真珠漁が大打撃を受けた……らしいことが書かれています。
「イスラム美術館」に展示された御木本幸吉の写真。カタールの真珠漁の歴史とともに紹介されています。zoom
「イスラム美術館」に展示された御木本幸吉の写真。カタールの真珠漁の歴史とともに紹介されています。
「日本人はカタールの人に恨まれていた時代があったのかしら……」と、少々不安になったところで、今度はこんな光景を目にしました。世界有数のイスラム芸術の博物館である「イスラム美術館(Museum of Islamic Art)」から公園に続くプロムナード。ピンクの水玉模様に包まれた街路樹に導かれて歩いていくと、その先には草間彌生の「花」をテーマにしたインスタレーションが展示されているではありませんか。
「KUSAMA YAYOI DORI」と私が勝手に名付けた遊歩道。その先に見える幾何学的なデザインの建物が「イスラム美術館」。zoom
「KUSAMA YAYOI DORI」と私が勝手に名付けた遊歩道。その先に見える幾何学的なデザインの建物が「イスラム美術館」。
カタールで世界のアートに出合う
この公園に立つイスラム美術館の建築デザインを手掛けたのは、中国系アメリカ人建築家で「建築のノーベル賞」といわれるプリツカー賞受賞のI・M・ペイ。ほかにもドーハ周辺では、世界中の芸術家や建築家など、クリエイターの作品に出合うことができます。そんなカタールでは、政府機関である「カタール・ミュージアムズ(Qatar Museums)」により文化的財産を保護しさらに発展させるため、「カタール・クリエイツ(Qatar Creates)」という国家プロジェクトのもと、さまざまな展覧会やイベントを開催しています。
夜のスーク・ワキーフ。「スーク」とは「市場」という意味。レストランや土産物店、夕方からは屋台も加わり大賑わいに。zoom
夜のスーク・ワキーフ。「スーク」とは「市場」という意味。レストランや土産物店、夕方からは屋台も加わり大賑わいに。
今回のW杯開催については、潤沢なオイルマネーによる巨額の設備投資に加え、イスラム的な価値感による人権問題などが一部で批判されていることは否めません。けれども実際に訪れてみると、文化芸術やスポーツを通じて国際的な知名度アップのため、試行錯誤している様子も伝わってきました。次回からはその見どころを一つひとつご紹介していきますね第2回は、『まるでSF映画の世界!? 砂漠に出現したオラファー・エリアソンの巨大インスタレーション』です。
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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