旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年11月21日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

北米最東端の灯台、ともすのに使っていた燃料の“正体”は シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【23】

△カナダ東部ニューファンドランド島のスピア岬灯台と大西洋(2022年7月、筆者撮影)zoom
△カナダ東部ニューファンドランド島のスピア岬灯台と大西洋(2022年7月、筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【22】」からの続き)
 「灯台の明かりをともすのに、最初はどんな動物の脂を使っていたのですか」。北海道より大きいカナダ東部の島、ニューファンドランド島にある北米最東端の灯台、スピア岬灯台で燃料に使っていた動物の油の“正体”を質問すると、女性案内員はやや当惑した様子を見せた―。

△初代スピア岬灯台と記念碑(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)zoom
△初代スピア岬灯台と記念碑(7月、ニューファンドランド島で筆者撮影)

 ▽120年近く活躍
 スピア岬灯台は国定史跡で、政府機関の国立公園管理局「パークスカナダ」が管理している。ガイドツアーで職員のトム・クロムウェルさんは、1836年に完成した初代スピア岬灯台へ私たちを案内してくれた。
 ドーム状の灯台部分を載せた2階建ての白い木造の建物は、1955年に現灯台が稼働を始めるまで船の“水先案内人”として120年近く活躍していた。

△初代スピア岬灯台の寝室(7月、筆者撮影)zoom
△初代スピア岬灯台の寝室(7月、筆者撮影)

 ▽ライトは中古品
 初代灯台で使われていたライトは、スコットランドのインチキース島の灯台で使われていた中古品だった。湾曲した反射鏡を回転させて光を遠くまで届けていたそうで、クロムウェルさんは「白色光が17秒間にわたって点滅し、その後の43秒間は暗くするように制御していました」と説明した。
 この初代灯台の建物では、ピーク時はカントウェル一家の総勢13~14人が住んでいたそうだ。「現在は灯台の管理人の暮らしが分かるように再現していますので、どうぞ中にお入りください」とクロムウェルさんは入館するように促した。

△初代スピア岬灯台の棚に飾られた絵皿(7月、筆者撮影)zoom
△初代スピア岬灯台の棚に飾られた絵皿(7月、筆者撮影)

 ▽まるでグリーン・ゲイブルズ・ハウス?
 中では女性案内員が待ち受けており、床に木を敷いた建物を説明してくれた。1階には寝室があり、隣にある台所にはまきをくべて火を付ければ鍋をつり下げて調理ができる暖炉がある。
 ダイニングテーブルを置いた部屋の棚に絵皿などを飾っているのを眺め、日本でも人気があるルーシー・モード・モンゴメリの小説「赤毛のアン」の舞台であるカナダ東部プリンスエドワード島にある緑の切妻屋根の家「グリーン・ゲイブルズ・ハウス」を見学した時のことを思い出した。
 1階のダイニングルームの卓上にはアンが憧れるバラのつぼみの模様が装飾されたティーセットが置かれ、台所の戸棚の2段目には赤い液体が入ったビンがあった。この液体はアンがお茶に親友のダイアナ・バリーを招いた際、養母のマリラから「イチゴ水」だと言われたのを信じて振る舞った。
 ところが、その正体はブドウ酒(ワイン)で、未成年だったため飲んではならないアルコールに口を付けたダイアナは千鳥足になってしまった(「連載「隠れた鉄道天国カナダ」第6回ご参照」ご参照)。

△初代スピア岬灯台の台所にある暖炉(7月、筆者撮影)zoom
△初代スピア岬灯台の台所にある暖炉(7月、筆者撮影)

 ▽明言を避けたのも同じ
 グリーン・ゲイブルズ・ハウスとスピア岬灯台は、ともにカナダ東部にある国定史跡だ。「赤毛のアン」は1880年代を舞台にしており、同じ19世紀に使われていた初代灯台の様子が似ているのは決して偶然ではあるまい。
 グリーン・ゲイブルズ・ハウスを見学時に台所にある戸棚の2段目にある赤い液体が入ったビンを見て、中身がイチゴ水か、ブドウ酒なのかを案内人の男性に尋ねると「ご想像にお任せします」と明言を避けた。同じような場面が初代灯台でも待ち受けていた。

△初代スピア岬灯台に陳列された木製たる。一部の中に入っている燃料の“正体”は…(7月、筆者撮影)zoom
△初代スピア岬灯台に陳列された木製たる。一部の中に入っている燃料の“正体”は…(7月、筆者撮影)

 ▽ランプをともした燃料とは…
 石の階段で2階に上がると、船に知らせるための旗といった灯台の運営に使う資材が置かれていた。十数本の木製たるが置かれており、案内員は「ランプをともすのに最初はこのたるに入れていた動物の油で点灯していましたが、1916年にアセチレンガスを使うようになり、30年からは電気へと切り替わりました」と教えてくれた。
 「最初はどんな動物の油を使っていたのですか?」と質問すると、案内員はやや戸惑った様子で「外にトム(・カントウェル)さんがいますので、詳しくは彼に聞いてください」と返答するのにとどめた。
 その言葉に従って外にいたカントウェルさんに質問すると、「最初は鯨油を使っていましたが、その後はもっと安く手に入るアザラシの油で代用されました」と教えてくれた。確かに私が撮影した写真を後からよく見ると、鯨油を意味する「SPERM OIL」と記したたるがいくつかあったので秘密のベールで覆っているわけではないらしい。
 ただ、それまでに展示物のことを流ちょうに説明していた案内員が説明するのをためらったのは紛れもない事実だ。セントジョンズ近郊を発着したホエールウォッチング((「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【12】」ご参照)
)の時と同じように、捕鯨文化のある一部先住民を除けば捕鯨文化が残されていないカナダの実情がここでも垣間見られた。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【24】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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