アメリカ(米国)を記録的な高インフレが襲っているのに加え、私を含めた給与が円払いの日本人駐在員は約32年ぶりの円安ドル高がダブルパンチとなって家計が圧迫されている。節約意識からマクドナルドへ足を運ぶと、日本で直近では2018年に一時販売されていた懐かしの「マックリブ」が期間限定で売られていた。倹約する中でのプチぜいたくを決め込んで注文したところ、かぶりついた味は日本とは異なっていた…。
▽食品は11・2%上昇
新型コロナウイルス禍からの景気回復と供給網の制約を背景に、米国の9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月より8・2%上昇した。6月の伸び率は9・1%と第二次石油危機後の不況期だった1981年11月以来、40年7カ月ぶりの大きさを記録し、高止まりしている。
サウジアラビアが主導する石油市場のカルテル集団、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が原油増産に消極的なのを背景に、2022年9月の米国でのガソリン価格は前年同月より18・2%も上がった。食品価格も11・2%上がり、スーパーの商品棚の値札は上昇に歯止めがかからない値上げラッシュ状態になっている。
▽インフレ抑制で利上げの米FRBと、できない日銀
米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)はインフレを抑えるために政策金利を急速なピッチで引き上げており、金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)の11月1、2両日の次回会合で通常の3倍となる0・75%の利上げを4会合連続で決めるのは確実な情勢だ。引き上げ後の政策金利は3・75~4%と約15年ぶりの高水準になる。
これに対して日本銀行は大規模な金融緩和を続けており、スイスの中央銀行が9月に大幅利上げを決めたことで日本は主要国唯一のマイナス金利政策国となった。
利上げを進める米国とマイナス金利にしがみつく日本との金利差拡大が意識され、投資家は外国為替市場で円を売り浴びせている。10月21日に一時1ドル=151円94銭と約32年ぶりの円安ドル高水準を付け、日本政府と日銀は円買いドル売りの為替介入で“抵抗”しているものの円安の流れを食い止められない始末だ。
▽店頭に“警告文”
そんな高インフレと円安ドル高による逆風にさらされた生活者の味方が米大手外食チェーン、マクドナルドだ。日曜日の昼下がりに首都ワシントン近郊のメリーランド州にある店舗に出かけると、店頭に懐かしいマックリブの写真のポスターが張り出されており「さよならツアー あなたが味わえる最後になるかもしれない」という“警告文”が添えられている。
この一文を読み、鉄道で言えば引退する車両や、廃線になる路線を乗り納めする「葬式鉄」に相当するかもしれない「大変な事態だ」と自覚した。米国で1981年に誕生したマックリブは一部で熱狂的な支持があるものの定番メニューではないため、再販希望が恒例行事になっている。
マクドナルドのアカウント運営担当者は2020年10月に短文投稿サイトのツイッターで「(投稿されるのは)『マックリブはいつ帰ってくるのか』ばかりで、『マクドナルドのアカウントを運営する人は元気かい』と尋ねてくれる人はいない」と嘆いたほどだ。
▽価格はハンバーガーの3倍
マックリブは骨なしの豚肉パティにバーベキューソースで味付けしているのが特色だ。マクドナルドのアプリを立ち上げると、この店での価格は5・39ドル(税別、約800円)と、普段注文することが多いハンバーガー(1・79ドル)の実に3倍だ。
しかも味の決め手のバーベキューソースを増量するには0・30ドル、小さくみじん切りしたタマネギを多めにすると0・10ドルそれぞれ追加料金がかかる。「追加料金を取るとはせこいなあ」と独り言をつぶやき、少額の追加料金を出し渋る当方もせこいのは否めない。追加料金がかからないピクルスの増量だけ設定して注文した。
▽日米の味の違いは…
店内でオーダーしていたマックリブを受け取り、箱を開けてみて驚いた。豚肉パティにバーベキューソースとタマネギを乗せているのは日本のマックリブと同じだが、日本では入っていたレタスとスイートレモンソースがない。その代わりに日本にはなかったピクルスは入っていた。上部にゴマが乗った細長いバンズは日本ではゴマの粒がそのままなのに対し、米国ではゴマを細かく砕いている。
味はバーベキューソースの味がよく効いており、どこか照り焼き味のハンバーガーと共通するような味付けだ。久しぶりに“再会”した豚肉パティに満足感を得られたものの、レタスが好きな者としては日本のようにレタスも入れてくれればより高評価だった。米国でもマックチキンなどにはレタスが入っているので可能だと思う。
しかし、米国の熱心なファンはレタスを入れると「オリジナルにはない余計な物を入れるな!」と噴飯ものに感じるのかもしれない。あちら立てればこちらが立たぬになりかねない食文化の奥深さを「B級グルメ」からも感じ取ることができた。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)