旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年10月10日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

日本での高級海産物、島ではかつて「口にすると恥ずかしい」食材 シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【18】

△ニューファンドランド島のセントジョンズ中心部にある目抜き通り「ウオーター通り」(2022年7月、筆者撮影)zoom
△ニューファンドランド島のセントジョンズ中心部にある目抜き通り「ウオーター通り」(2022年7月、筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【17】」からの続き)
 北海道より大きいカナダ東部の島、ニューファンドランド島の主要都市セントジョンズでは幅広い新鮮な海産物も楽しむことができる。日本では高級品の海産物も堪能したが、かつてニューファンドランド島でその食材を口にしていると生活が厳しいと受け止められていたため「殻を庭に埋めていた」と聞いて目を丸くした。

△セントジョンズ中心部のシーフードレストラン「フィッシュ・エクスチェンジ」(7月、筆者撮影)zoom
△セントジョンズ中心部のシーフードレストラン「フィッシュ・エクスチェンジ」(7月、筆者撮影)

 ▽フィッシュ・アンド・チップスも
 セントジョンズはタラが名物で「鮮魚店やスーパーなどで『魚をください』と言うだけでタラが出てくる」(地元住民)。それだけに私はセントジョンズに足を踏み入れて以来、レストランでタラのムニエルや、揚げたタラとフライドポテトを組み合わせたフィッシュ・アンド・チップスといったタラづくしの料理を味わっていた。
 ただ、さすがにタラを連日食べていると他の海産物も恋しくなってきた。

△フィッシュ・エクスチェンジの「マグロのタルタル」(7月、筆者撮影)zoom
△フィッシュ・エクスチェンジの「マグロのタルタル」(7月、筆者撮影)

 ▽「日本に数年以内に」
 すると、セントジョンズから車で10分ほど行ったキディビディ地区で釣ったばかりのタラを見せてくれたヒューイット兄弟(詳しくは前回の「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【17】」ご参照)のうちお兄さんのマクレーン君から「僕はアニメと料理に興味があり、日本に数年以内に絶対に行くんだ」と言われた。
 訪日外国人旅行者数は2019年には過去最高の約3188万人に上っていたが、新型コロナウイルス感染拡大による渡航制限で激減してしまった。新型コロナ感染拡大防止に万全の注意を払いながらも外国人旅行者獲得で巻き返し、新型コロナ禍で大きな打撃を受けた経済活動を盛り上げることが重要だ。
 日本の文化に興味を持ち、訪れる意欲を持ってくれるのはありがたいことだ。私は「是非日本を訪れてください。その通りで日本には優れたアニメがあって、料理もおいしいので気に入るのは間違いないよ」と背中を押した。

△フィッシュ・エクスチェンジの生ガキ(7月、筆者撮影)zoom
△フィッシュ・エクスチェンジの生ガキ(7月、筆者撮影)

 ▽タラ以外も味わえる店は
 マクレーン君は続いて「魚介類はウオーター通りにあるレストランの『フィッシュ・エクスチェンジ』がお薦めだよ」と教えてくれた。フィッシュ・エクスチェンジを和訳すると「魚取引所」となるだけに、2018年の豊洲移転まで使われていた公設の魚介類の卸売市場、築地市場のセントジョンズ版のような趣の場所を思い浮かべた。
 翌日、飲食店や土産物店が並ぶ歩行者天国のウオーター通りを歩いてみると、確かに「フィッシュ・エクスチェンジ」の案内を記したビルを見つけた。ただ、普通の商業ビルで、ドアをくぐるとすぐに店の入り口が見つかった。通常のシーフードレストランで、卸売市場との混同を防ぐためか正式な店名は「セントジョンズ・フィッシュ・エクスチェンジ・キッチン・アンド・ウエット・バー」だった。

「グランド・セントラル・オイスター・バー・アンド・レストラン」品川店のスチームされたロブスター(17年12月、東京都港区で筆者撮影)zoom
「グランド・セントラル・オイスター・バー・アンド・レストラン」品川店のスチームされたロブスター(17年12月、東京都港区で筆者撮影)

 ▽満を持して出てきた「高級料理」
 特においしいと教えてもらった「マグロのタルタル」(19・75カナダドル、約2100円)は、サイコロ状に細かく切った生のマグロをキュウリやネギ、ごま、ソースで味付けした料理でとても美味だった。生ガキは12個で46カナダドルと高めだが、新鮮で素材の良さを存分に味わえた。
 満を持して出されたのが、日本では「高級料理」と呼ぶべきスチームされたロブスターだ。ロブスターはカナダ東部ノバスコシア州などで多く水揚げされており「ロブスター漁師は1年のうち7カ月は働き、稼いだお金で残る5カ月は遊んで過ごすことができる」(地元関係者)と言う。
 ニューヨーク中心部にある主要駅の一つで、ともに1世紀を超える歴史を持つ駅舎を抱える東京駅と「姉妹駅」姉妹提携しているグランドセントラル駅には有名シーフードレストラン「グランド・セントラル・オイスター・バー・アンド・レストラン」が入居している。東京・品川駅ビル「アトレ品川」にある品川店のスチームされたロブスターは時価だったが、2017年12月に訪れた際は1ポンド(約0・45キロ)当たり5200円(消費税、サービス料金を除く)だった。

△フィッシュ・エクスチェンジのスチームしたロブスター(22年7月、筆者撮影)zoom
△フィッシュ・エクスチェンジのスチームしたロブスター(22年7月、筆者撮影)

 ▽「殻を埋めていた」のは
 これに対してセントジョンズ・フィッシュ・エクスチェンジもロブスターは時価で22年7月時点の価格になるものの、3分の1ほど安い。ロブスターは殻から実を取り出すのに骨が折れるものの、その苦労が報われる絶妙な味わいだった。
 ところが、セントジョンズ観光局のジャネット・イエットマンさんは「かつてはこの島ではロブスターを食べていると、生活が苦しいと受け止められていた」と説明し、実際に家族で食べた時には「ゴミに出しているのを見られると恥ずかしかったため、殻はゴミに出さずに庭に埋めていた」と打ち明けた。
 食後に皿の上に残された深紅の殻を持ち帰りたいと思うほどロブスター料理をいとおしく思っていた私は、ニューファンドランド島ではそれがまるで厄介者のように扱われていた歴史にカルチャーショックを禁じ得なかった…。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【19】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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