旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年10月2日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

名物は、漫画「サザエさん」の登場人物の「あの魚」 シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【17】

△セバスチャン・ヒューイット君(右)と兄のマクレーン君(2022年7月、カナダ・ニューファンドランド島のキディビディ地区で筆者撮影)zoom
△セバスチャン・ヒューイット君(右)と兄のマクレーン君(2022年7月、カナダ・ニューファンドランド島のキディビディ地区で筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【16】」からの続き)
 水族館の人気者のアザラシや巨大なシカのヘラジカといった一風変わった肉をカナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島で味わった。しかし、主要都市セントジョンズの名物と言えば漫画「サザエさん」の登場人物の名前にもなっており、鮮魚店で「魚をください」と注文すると出てくるという「あの魚」だ。

△キディビディ地区の風景(7月、筆者撮影)zoom
△キディビディ地区の風景(7月、筆者撮影)

 ▽“3容疑者”の中で正解は?
 その魚とは何か。「サザエさん」の登場人物で魚と記したので、主人公のフグ田サザエさんの夫でマスに由来するマスオさん、長男で「タラちゃん」と呼ばれているタラオちゃん、ササエさんの弟の磯野カツオ君の“3容疑者”が浮上する。
 正解となる名物の魚を生きた状態で見たのは、奇しくも“3容疑者”のうち正解と雰囲気が似た少年がそれを抱えている時だった。「少年」と書いた段階で、“容疑者”はカツオ君とタラオちゃんの2人に絞り込まれた―。

△カナダ・プリンスエドワード島のフレンチリバー地区(18年6月、筆者撮影)zoom
△カナダ・プリンスエドワード島のフレンチリバー地区(18年6月、筆者撮影)

 ▽「氷山ビール」という名のビール
 セントジョンズ中心部から自動車で約10分の距離にあるキディビディ地区は、入り江に沿って赤や青、黄色といったカラフルな外壁の木造建物が並んだ名所だ。同じカナダ東部にあり、ニューファンドランド島がライバル視するプリンスエドワード島の名所で、水辺に色とりどりの木造の建物が並ぶフレンチリバー地区をほうふつとさせる景色だ。
 その一角にある緑色の2階建ての建物を構えた1996年創業のビール醸造会社「キディビディブリュワリー」で、名物の「氷山ビール(アイスバーグビール)」を飲んでいる時だった。

△ニューファンドランド島のキディビディブリュワリーの建物(22年7月、キディビディ地区で筆者撮影)zoom
△ニューファンドランド島のキディビディブリュワリーの建物(22年7月、キディビディ地区で筆者撮影)

 ▽正解に似た少年が披露
 「氷山ビール」はニューファンドランド島沖の大西洋を流れる氷山を溶かした水を使っているという触れ込みで、青いボトルのラベルには「2万年の氷山の水で生産」と記している。2階にあるビヤホールの窓辺であっさりとした味わいのビールの杯を傾けていると、窓外の小型船舶が止まった水辺で少年が身長の3分の2ほどある大きな魚を抱えているのを見つけた。
 それはおそらく、セントジョンズ中心部の目抜き通り、ウオーター通りにある飲食店「ビュー・レスト・バー」で前日夜に「ニューファンドランド島の名物です」と紹介されて注文した「あの魚」だと察しが付いた。
 建物を出た後に少年が同じ場所にいたため「やあ、君がさっきこの魚を持っていたのを見たんだ」と話しかけた。すると少年は笑みを浮かべて「そうだよ、僕たちが釣ってきたタラだよ」とタラを持って見せてくれた。

△ヒューイット兄弟と、右はタラを解体する兄弟のおじいさん(7月、キディビディ地区で筆者撮影)zoom
△ヒューイット兄弟と、右はタラを解体する兄弟のおじいさん(7月、キディビディ地区で筆者撮影)

 ▽釣りは1日に最大15匹まで
 「タラちゃん」に雰囲気が似た少年は地元のセバスチャン・ヒューイット君。セントジョンズでは7月から9月初めまでの夏季の土曜日から月曜日までに船があればタラを1人当たり5匹、1隻当たり最大15匹釣ることができます。セバスチャン君はおじいさん、両親、兄のマクレーン君と一緒に船舶でタラ釣りをしてきたそうで「10分で15匹釣れたよ」と入れ食い状態だったのを教えてくれた。
 マクレーン君は「僕は今日釣れた中で最も大きい35ポンド(約16キロ)のタラを釣ったんだ」と釣果を自慢する。すると、セバスチャン君は「僕が釣った20ポンド(約9キロ)のタラはおじいちゃんが解体すると、中から別の魚が出てきたんだ」とタラが食して消化し切れていなかった魚を見せてくれた。

△ニューファンドランド島のセントジョンズ中心部にある「ビュー・レスト・バー」のタラ料理(7月、筆者撮影)zoom
△ニューファンドランド島のセントジョンズ中心部にある「ビュー・レスト・バー」のタラ料理(7月、筆者撮影)

 ▽ガチョウならぬタラの舌は…
 夏の週末になると“家族対抗釣り大会”を楽しめるというのは実に贅沢だ。子どものうちから釣りに親しむことで、島の重要産業の一つである水産業の次世代の担い手たちが育つという効果もありそうだ。
 船の脇の水辺ではヒューイット兄弟のおじいさんがナイフでタラを解体しており、口元に刃先を入れていたのに気付いた。ノルウェーなどの北欧諸国と同じく、ニューファンドランド島でも「コッドタン」と呼ばれる通称「タラの舌」(実際にはタラの下あご)を料理するという。前日見た「ガチョウの舌」という意味のグースタングはオオバコ科の植物ハマオオバコだったが(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【16】」ご参照)、コッドタンはまさにタラの舌の部位だった。ただ、正確には下あごなので、やや舌足らずな表現かもしれないが…。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【18】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
risvel facebook