(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【16】」からの続き)
水族館の人気者のアザラシや巨大なシカのヘラジカといった一風変わった肉をカナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島で味わった。しかし、主要都市セントジョンズの名物と言えば漫画「サザエさん」の登場人物の名前にもなっており、鮮魚店で「魚をください」と注文すると出てくるという「あの魚」だ。
▽“3容疑者”の中で正解は?
その魚とは何か。「サザエさん」の登場人物で魚と記したので、主人公のフグ田サザエさんの夫でマスに由来するマスオさん、長男で「タラちゃん」と呼ばれているタラオちゃん、ササエさんの弟の磯野カツオ君の“3容疑者”が浮上する。
正解となる名物の魚を生きた状態で見たのは、奇しくも“3容疑者”のうち正解と雰囲気が似た少年がそれを抱えている時だった。「少年」と書いた段階で、“容疑者”はカツオ君とタラオちゃんの2人に絞り込まれた―。
▽「氷山ビール」という名のビール
セントジョンズ中心部から自動車で約10分の距離にあるキディビディ地区は、入り江に沿って赤や青、黄色といったカラフルな外壁の木造建物が並んだ名所だ。同じカナダ東部にあり、ニューファンドランド島がライバル視するプリンスエドワード島の名所で、水辺に色とりどりの木造の建物が並ぶフレンチリバー地区をほうふつとさせる景色だ。
その一角にある緑色の2階建ての建物を構えた1996年創業のビール醸造会社「キディビディブリュワリー」で、名物の「氷山ビール(アイスバーグビール)」を飲んでいる時だった。
▽正解に似た少年が披露
「氷山ビール」はニューファンドランド島沖の大西洋を流れる氷山を溶かした水を使っているという触れ込みで、青いボトルのラベルには「2万年の氷山の水で生産」と記している。2階にあるビヤホールの窓辺であっさりとした味わいのビールの杯を傾けていると、窓外の小型船舶が止まった水辺で少年が身長の3分の2ほどある大きな魚を抱えているのを見つけた。
それはおそらく、セントジョンズ中心部の目抜き通り、ウオーター通りにある飲食店「ビュー・レスト・バー」で前日夜に「ニューファンドランド島の名物です」と紹介されて注文した「あの魚」だと察しが付いた。
建物を出た後に少年が同じ場所にいたため「やあ、君がさっきこの魚を持っていたのを見たんだ」と話しかけた。すると少年は笑みを浮かべて「そうだよ、僕たちが釣ってきたタラだよ」とタラを持って見せてくれた。
▽釣りは1日に最大15匹まで
「タラちゃん」に雰囲気が似た少年は地元のセバスチャン・ヒューイット君。セントジョンズでは7月から9月初めまでの夏季の土曜日から月曜日までに船があればタラを1人当たり5匹、1隻当たり最大15匹釣ることができます。セバスチャン君はおじいさん、両親、兄のマクレーン君と一緒に船舶でタラ釣りをしてきたそうで「10分で15匹釣れたよ」と入れ食い状態だったのを教えてくれた。
マクレーン君は「僕は今日釣れた中で最も大きい35ポンド(約16キロ)のタラを釣ったんだ」と釣果を自慢する。すると、セバスチャン君は「僕が釣った20ポンド(約9キロ)のタラはおじいちゃんが解体すると、中から別の魚が出てきたんだ」とタラが食して消化し切れていなかった魚を見せてくれた。
▽ガチョウならぬタラの舌は…
夏の週末になると“家族対抗釣り大会”を楽しめるというのは実に贅沢だ。子どものうちから釣りに親しむことで、島の重要産業の一つである水産業の次世代の担い手たちが育つという効果もありそうだ。
船の脇の水辺ではヒューイット兄弟のおじいさんがナイフでタラを解体しており、口元に刃先を入れていたのに気付いた。ノルウェーなどの北欧諸国と同じく、ニューファンドランド島でも「コッドタン」と呼ばれる通称「タラの舌」(実際にはタラの下あご)を料理するという。前日見た「ガチョウの舌」という意味のグースタングはオオバコ科の植物ハマオオバコだったが(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【16】」ご参照)、コッドタンはまさにタラの舌の部位だった。ただ、正確には下あごなので、やや舌足らずな表現かもしれないが…。
(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【18】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)