旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年9月11日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

謎の黒い食材、正体は水族館の人気者… シリーズ「北海道より大きいカナダの島」【14】

△セントジョンズ近郊にあるニューファンドランド・メモリアル大学の水産研究施設で飼育されているオスのアザラシ。関係者は「食用ではない」と強調した(2022年7月、筆者撮影)zoom
△セントジョンズ近郊にあるニューファンドランド・メモリアル大学の水産研究施設で飼育されているオスのアザラシ。関係者は「食用ではない」と強調した(2022年7月、筆者撮影)

 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【13】」からの続き)
 カナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島のホエールウオッチングを楽しめる遊覧船で、愛らしい外見の鳥、ニシツノメドリが「食料事情が厳しい時代」に食べられていたことを地元在住の女性から聞いた。それだけでも驚きだったが、滞在中に出てきた謎の黒い食材の正体は水族館の人気者だった…。

△タラを捕まえるのに使われていた釣り針を見せる料理研究家のロリー・マッカーシーさん(7月、セントジョンズ近郊で筆者撮影)zoom
△タラを捕まえるのに使われていた釣り針を見せる料理研究家のロリー・マッカーシーさん(7月、セントジョンズ近郊で筆者撮影)

 ▽波音が響く浜辺の“即席レストラン”
 「本日の昼食を味わっていただくのはここです」と案内されたのは、波音が響くオーシャンビューの会場だった。そう記すとレストランの海辺に突き出たテラスをイメージされるかもしれない。ところが、実際に案内されたのは主要都市セントジョンズ近郊の大西洋岸の浜辺に敷いたマットの上という“即席レストラン”だった。

△タラとジャガイモを鍋で煮た料理は、ホタテの貝の皿で振る舞われた(7月、セントジョンズ近郊で筆者撮影)zoom
△タラとジャガイモを鍋で煮た料理は、ホタテの貝の皿で振る舞われた(7月、セントジョンズ近郊で筆者撮影)

 ▽素朴ながら味わい深い料理
 ニューファンドランド島ではピクニックのように自然を散策し、地元食材で作った料理を振る舞ってくれるツアーが盛んだ。私が参加した料理研究家のロリー・マッカーシーさんが案内するツアーでは無造作に石が敷かれたマットの上に腰かけると、ガスこんろを使って鍋で煮たタラとジャガイモをホタテの貝に美しく盛り付けて出してくれた。作り方は素朴なのに、実に味わい深いのは食材が新鮮だからに違いない。

△カナダ東部プリンスエドワード島の名所となっているフレンチリバー地区(18年6月、筆者撮影)zoom
△カナダ東部プリンスエドワード島の名所となっているフレンチリバー地区(18年6月、筆者撮影)

 ▽ジャガイモの来し方に疑問
 タラはニューファンドランド島の名物なので、地元産なのは疑う余地がない。しかし、ジャガイモと言えば国内一の産地は東部プリンスエドワード島(PEI)だ。小説「赤毛のアン」の舞台として日本人にも人気のあるPEIは農業も盛んで、PEI当局によるとカナダのジャガイモ消費量のうち約25%を供給している。そこで、「このジャガイモはプリンスエドワード島産ですか?」と尋ねた。
 すると、それまでに料理のことを穏やかな口調で説明していたマッカーシーさんが「違います。お出しする料理は全て地元産です!」ときっぱりと否定してPEIへの対抗心をにじませた。一緒に振る舞ってくれたキノコのスープも「これがキノコの味」という直球ストレートの味を醸し出しており、香りも自然だ。
 「実においしいです」と伝えると、マッカーシーさんはほほ笑んで「これが地元の食材の味なのです」と“ドヤ顔”で返答した。

△アザラシのステーキ(22年7月、セントジョンズ近郊で筆者撮影)zoom
△アザラシのステーキ(22年7月、セントジョンズ近郊で筆者撮影)

 ▽まるで鶏肉のレバー?
 マッカーシーさんはフライパンを取り出すとバターを敷き、ガスこんろの上で肉のような物を焼き始めた。肉はどこか黒く、明らかに私たちがよく目にする牛肉や豚肉、鶏肉ではない。しばらく焼くとコショウで味付けし、「どうぞ」と提供してくれた。
 口に入れると焼き鳥のレバーに似た食感だが、よりマイルドな味だと思った。すると、一緒に参加した男性も「これは鶏肉のレバーのようだけど、より食べやすいね」と言うので、「僕も全く同じ意見だよ」と言って握手した。
 その様子を見てマッカーシーさんは満足そうに「アザラシのステーキを気に入ってもらって良かったわ」と食材の正体を明かした。

△浜辺に姿を見せたウミガラス(7月、セントジョンズ近郊で筆者撮影)zoom
△浜辺に姿を見せたウミガラス(7月、セントジョンズ近郊で筆者撮影)

 ▽ウミガラスを眺める鋭い視線
 マッカーシーさんは「アザラシは地元の一部のスーパーや食料品店で売られているけれども、広くは食べられていないの」と説明し、「今年秋に『2022年アザラシサミット』がセントジョンズで開かれるから、アザラシを食用でも広めることを提案するわ!」と満足そうな表情で語った。
 どうやら私たちの反応が、食に対する飽くなき情熱を抱く料理研究家の背中を押したようだ。私は「アザラシ料理を振る舞うレストランができれば、セントジョンズを再訪した際に間違いなく訪れますね」とも言ったが、「妻はそのレストランに絶対に同行しないと思います」と補足するのを忘れていたのでここに記しておきたい(苦笑)。
 自然な豊かな浜辺の“即席レストラン”だけに、鳥が悠々と泳いでいる姿も目に入った。腹黒ではなく、腹は白くて背が黒色のためピュアな鳥なのだろうか。
 「おや、あそこにウミガラスがいますね。1羽しか見えませんが、仲間とはぐれてしまったのでしょうか」と鳥を追跡するマッカーシーさんの視線が鋭く見えた。
 その理由はこの先のツアーで明らかになる…。
 (「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【15】」に続く)
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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