(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【13】」からの続き)
カナダ東部の北海道より大きな島、ニューファンドランド島のホエールウオッチングを楽しめる遊覧船で、愛らしい外見の鳥、ニシツノメドリが「食料事情が厳しい時代」に食べられていたことを地元在住の女性から聞いた。それだけでも驚きだったが、滞在中に出てきた謎の黒い食材の正体は水族館の人気者だった…。
▽波音が響く浜辺の“即席レストラン”
「本日の昼食を味わっていただくのはここです」と案内されたのは、波音が響くオーシャンビューの会場だった。そう記すとレストランの海辺に突き出たテラスをイメージされるかもしれない。ところが、実際に案内されたのは主要都市セントジョンズ近郊の大西洋岸の浜辺に敷いたマットの上という“即席レストラン”だった。
▽素朴ながら味わい深い料理
ニューファンドランド島ではピクニックのように自然を散策し、地元食材で作った料理を振る舞ってくれるツアーが盛んだ。私が参加した料理研究家のロリー・マッカーシーさんが案内するツアーでは無造作に石が敷かれたマットの上に腰かけると、ガスこんろを使って鍋で煮たタラとジャガイモをホタテの貝に美しく盛り付けて出してくれた。作り方は素朴なのに、実に味わい深いのは食材が新鮮だからに違いない。
▽ジャガイモの来し方に疑問
タラはニューファンドランド島の名物なので、地元産なのは疑う余地がない。しかし、ジャガイモと言えば国内一の産地は東部プリンスエドワード島(PEI)だ。小説「赤毛のアン」の舞台として日本人にも人気のあるPEIは農業も盛んで、PEI当局によるとカナダのジャガイモ消費量のうち約25%を供給している。そこで、「このジャガイモはプリンスエドワード島産ですか?」と尋ねた。
すると、それまでに料理のことを穏やかな口調で説明していたマッカーシーさんが「違います。お出しする料理は全て地元産です!」ときっぱりと否定してPEIへの対抗心をにじませた。一緒に振る舞ってくれたキノコのスープも「これがキノコの味」という直球ストレートの味を醸し出しており、香りも自然だ。
「実においしいです」と伝えると、マッカーシーさんはほほ笑んで「これが地元の食材の味なのです」と“ドヤ顔”で返答した。
▽まるで鶏肉のレバー?
マッカーシーさんはフライパンを取り出すとバターを敷き、ガスこんろの上で肉のような物を焼き始めた。肉はどこか黒く、明らかに私たちがよく目にする牛肉や豚肉、鶏肉ではない。しばらく焼くとコショウで味付けし、「どうぞ」と提供してくれた。
口に入れると焼き鳥のレバーに似た食感だが、よりマイルドな味だと思った。すると、一緒に参加した男性も「これは鶏肉のレバーのようだけど、より食べやすいね」と言うので、「僕も全く同じ意見だよ」と言って握手した。
その様子を見てマッカーシーさんは満足そうに「アザラシのステーキを気に入ってもらって良かったわ」と食材の正体を明かした。
▽ウミガラスを眺める鋭い視線
マッカーシーさんは「アザラシは地元の一部のスーパーや食料品店で売られているけれども、広くは食べられていないの」と説明し、「今年秋に『2022年アザラシサミット』がセントジョンズで開かれるから、アザラシを食用でも広めることを提案するわ!」と満足そうな表情で語った。
どうやら私たちの反応が、食に対する飽くなき情熱を抱く料理研究家の背中を押したようだ。私は「アザラシ料理を振る舞うレストランができれば、セントジョンズを再訪した際に間違いなく訪れますね」とも言ったが、「妻はそのレストランに絶対に同行しないと思います」と補足するのを忘れていたのでここに記しておきたい(苦笑)。
自然な豊かな浜辺の“即席レストラン”だけに、鳥が悠々と泳いでいる姿も目に入った。腹黒ではなく、腹は白くて背が黒色のためピュアな鳥なのだろうか。
「おや、あそこにウミガラスがいますね。1羽しか見えませんが、仲間とはぐれてしまったのでしょうか」と鳥を追跡するマッカーシーさんの視線が鋭く見えた。
その理由はこの先のツアーで明らかになる…。
(「シリーズ『北海道より大きいカナダの島』【15】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)