旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2022年9月5日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

日本茶の味わいが増す「合組(ごうぐみ)」とは? ~お茶を識る、駿河の旅①~

いつでも美味しいお茶を味わえるのは、茶葉を組み合わせる「合組」があるからこそ。zoom
いつでも美味しいお茶を味わえるのは、茶葉を組み合わせる「合組」があるからこそ。
日本茶の生産量・日本一を誇る静岡県。
なかでも、お茶の生産量とともに消費量が日本トップクラスを誇るのが、中部地域の駿河です。この夏、お茶のくに・駿河を訪ねる旅に出ました。
「お茶といえば、新茶の季節じゃないの?」
はい、確かに5~6月に各地の茶処で見られる茶摘み風景は、日本の季節の風物詩。でも、お茶を知って味わう旅に、季節は問いません。秋に向かい少しずつ涼しくなって、ゆっくりとお茶を味わいたくなる時間が増えるこれから。そんなとき、旅のプランの参考にしてみてください。

日本中のお茶が集まる、駿河は“お茶界のハブ”
東は熱海から、南の伊豆半島、北に富士山があり、西は愛知県と接する東西に長い静岡県。その中部に位置する静岡市、島田市、焼津市、藤枝市、牧之原市、吉田町、川根本町の5市2町が駿河と呼ばれる地域です。
富士山を筆頭に3000m級の山々が連なる山岳地帯と海岸線に囲まれた駿河の地では、異なるテロワールのお茶を味わえる。zoom
富士山を筆頭に3000m級の山々が連なる山岳地帯と海岸線に囲まれた駿河の地では、異なるテロワールのお茶を味わえる。
富士山のふもとから水深日本一の駿河湾を望む台地、住宅街のちょっとした合間、東名高速道路の高架下まで、至るところに茶畑が広がる駿河の地。茶畑がある場所ごとにテロワールが異なり、生産者によっても味わいが変わってくる。その多彩さも、駿河茶の魅力です。
さらに、この地には日本全国の産地から、半製品状態のお茶である「荒茶(あらちゃ)」が集まり、茶商たちに取引されて全国に出荷されていきます。いわば”お茶界のハブ”。それゆえ、茶葉の品質を見極めるエキスパートが多くいて、彼らの鑑識眼に叶ったお茶が流通しているのです。

「合組(ごうぐみ)」とは、茶葉のいいとこどりのブレンド技術
味とともに品質の優れたお茶を流通させるために欠かせないのが「合組」。簡単にいうと異なる数種類の茶葉を組み合わせること。私たちが通常飲んでいる日本茶のほとんどが、合組によって作られています。もちろん、特定の茶畑で栽培された単一品種のお茶(ウイスキーやコーヒーでいう、シングルオリジン)もあるけれど、その量はとても希少。年間を通じて味と品質が安定した美味しいお茶を提供するためには、この工程が欠かせません。
「丸玉園」の製茶工場。最新の火入れ機(焙煎機)、合組機とともに、昔ながらの木箱やザルも現役で活躍中。zoom
「丸玉園」の製茶工場。最新の火入れ機(焙煎機)、合組機とともに、昔ながらの木箱やザルも現役で活躍中。
その合組がどんな風に行われるのか知るため訪れたのは、焼津市にある1950年創業の老舗茶舗「茶匠 丸玉園」。ここでは自社工場を持ち、荒茶の火入れ(焙煎)、合組、製品化まで行っています。三代目社長の増田啓介さんが、実際の工程を見せてくれました。
合組は、ブレンドする荒茶を選ぶところから始まります。荒茶とは、お茶農家が摘んだ茶葉を荒茶工場で蒸して揉んだ後、乾燥させた状態のもの。お茶の問屋や茶商は荒茶の状態で仕入れた茶葉で合組を行います。
合組に使う荒茶は3~8種類。この日は5種類を使った合組が行われました。荒茶には味がよくコクがあるもの、香りが高いもの、水色(すいしょく;カップに入れたときの色)が美しいものなど、個性があります。それぞれのよいところを引き出し、ひとつの製品に仕上げていく、いわば“いいとこどり”が合組なのです。
より味わい深い日本茶を作るための合組は、手触りから視覚、嗅覚、味覚を駆使し、全神経を集中して行う。zoom
より味わい深い日本茶を作るための合組は、手触りから視覚、嗅覚、味覚を駆使し、全神経を集中して行う。
まず、選んだ荒茶を同量ずつ量ります。これを白いお茶碗に入れて熱湯を注ぎ、水色を見ます。
「熱湯でお茶を淹れると、欠点がよくわかるんですよ」と増田さん。
次に、網目のスプーンを使って香りを確認した後、テイスティング。この時、勢いよく吸って舌の上で転がすのがポイント。実際に体験させてもらったところ、茶葉によって見た目の水色が明らかに違うし、香りと甘み、コクが少しずつ異なることがわかりました。こうして個性が異なる荒茶をバランスよく調和させ比率を決定。大きな機械でまとまった量の合組を行い、ようやく製品になります。
合組の流れ。荒茶を3gずつ量り、熱湯を注いでそれぞれの個性を見極める。その後、それぞれのお茶の配合比率を決め合組する。茶葉は色みがわかるよう、黒い「拝見盆」の中でブレンド。zoom
合組の流れ。荒茶を3gずつ量り、熱湯を注いでそれぞれの個性を見極める。その後、それぞれのお茶の配合比率を決め合組する。茶葉は色みがわかるよう、黒い「拝見盆」の中でブレンド。
「荒茶を仕入れる段階で、どんなお茶にしたいかイメージはできあがっています。合組はそれを形にするための最終作業」と話す増田さんによると、丸玉園のように仕入れから合組、製品化まで行う「茶匠」にとって、毎年4月下旬から5月の新茶の仕入れ時期が勝負。この時、仕入れる荒茶によってその年、イメージしたお茶にどれだけ近い商品を提供できるかが決まるのだとか。そのため仕入れには万全の体調で臨むといいます。
「この時期の体調管理にはかなり気を遣います。数日前からカレーなどの刺激物や味が濃いものは食べません。舌が荒れるからアメ類も口にしないし、手荒れにも注意します」(増田さん)

まるで、大切な決戦に臨むアスリートのようではありませんか。普段、何気なく飲んでいる日本茶が、これだけの想いを込めて作られていることを知って、胸が熱くなりました。以来、自宅でちょっといいお茶を飲むときには、丁寧に淹れるようになりました。すると、製茶工場に入った瞬間に感じた熱気とお茶の香りが蘇ってくるのです。

お土産探しにぴったりの「SANOWA(さのわ)」で味わいたい、季節限定のかき氷
丸玉園には自社工場を併設する焼津駅前通りの本店のほか、イートンスペースをもつ登呂田店「SANOWA(サノワ)」があります。白いパッケージの自社ブランド「SANOWA」は、若い世代や子育て世代の女性を意識して立ち上げたもの。煎茶のほか和紅茶、フレーバーティーなどがあり、お店にはお茶を淹れて味わうのが楽しくなるグッズもそろっています。ぜひ味わってみたいのが、かき氷です。茶処・静岡県内の製茶問屋やカフェでは「茶氷プロジェクト」と題し、7月から9月末までそれぞれの店オリジナルのかき氷を提供しています。2022年の参加店は57軒。「SANOWA」で味わえるのは、ユニークな体験型かき氷「静岡抹茶づくし」です。
丸玉園 登呂田店内「SANOWA」で味わえる「静岡抹茶づくし」1,280円の提供は9月の最終日曜日まで。zoom
丸玉園 登呂田店内「SANOWA」で味わえる「静岡抹茶づくし」1,280円の提供は9月の最終日曜日まで。
このかき氷、自分で抹茶を点ててから味わうのがポイント。抹茶の半分はミルクに注いで「抹茶ラテ」に、もう半分は自家製カンロと混ぜ合わせ、かき氷にかけて食べます。自分好みの分量で味わえるのは、まさにかき氷の“合組”。味わってみると、抹茶の深い渋みとかすかな甘み、自家製カンロの上品な甘さが絶妙にミックスし、後味も爽やか。まだまだ残暑の日も続く今の季節におすすめの一品です。かき氷の提供は9月の最終日曜日までですが、10月からは抹茶パフェも登場するとのことで、お楽しみはまだまだ続きます。

●丸玉園 本店
静岡県焼津市栄町4-1-4
TEL 054-628-4020
9:00~18:00 日曜休
https://www.marutamaen-shop.com/
●丸玉園 登呂田店「SANIWA」
静岡県焼津市東小川5-9-17
TEL 054-621-5501
9:30~18:00 無休
https://sanowa-tea.jp/

★第2回は、一度は訪れてみたい、「絶景茶畑でティータイム」をご紹介ます。

写真/伊東武志 協力/するが企画観光局
駿河の旅の情報「VISIT SURUGA」 https://www.visit-suruga.com/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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