旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2022年4月5日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

米首都ワシントンの日米友好の桜、110周年を迎えて満開

△桜の木の上で休憩中のリス=いずれも2022年3月にワシントンで筆者撮影zoom
△桜の木の上で休憩中のリス=いずれも2022年3月にワシントンで筆者撮影

 アメリカ(米国)の首都ワシントンで、日本から贈られた桜の花が今年は3月21日月曜日に満開となった。今年は最初の植樹から110周年の節目。中心部を流れるポトマック川沿いの名所には大勢の米国人らが押し寄せ、美しく咲き誇る花々をめでていた。

△名所「タイダルベイスン」の桜並木とワシントン記念塔zoom
△名所「タイダルベイスン」の桜並木とワシントン記念塔

 ▽ワシントンの象徴に
 手始めに植えられたのは1912年、現在の東京都知事に当たる尾崎行雄・東京市長が贈ったソメイヨシノなどの約3千本の苗木だ。日米の友好関係発展の願いが込められ、両国が争った第二次世界大戦という不幸な歴史を乗り越えて毎年春に花を咲かせてきた。
 その後も植樹されて現在は3700本を超える桜の木がポトマック川の流域に連なり、ワシントンの象徴の一つとしてすっかり定着した。例年ならば150万人を超える人が花見に訪れるとされる。

△ワシントンメトロの現役最古参車両「2000系」と桜の花zoom
△ワシントンメトロの現役最古参車両「2000系」と桜の花

 ▽今年の満開は3月21日
 名所となっているのが「タイダルベイスン」と呼ばれる入り江で、国立公園局はここにある桜の花の7割以上が咲くと満開と判定する。2022年は、3月21日に満開を迎えた。
 ワシントンでは桜が開花する時期に合わせて「全米桜祭り」が開かれている。地元の多くの人たちは桜の木が日本から贈呈されたことを知っており、日米の絆を再確認する重要なイベントとなっている。

△日本から贈られた石灯籠の前では、記念撮影する親子連れらの姿もzoom
△日本から贈られた石灯籠の前では、記念撮影する親子連れらの姿も

 ▽新型コロナ禍を乗り越えて本格再開
 新型コロナウイルス流行のため20年と21年の全米桜祭りは行事の中止や、オンラインへの移行が相次いだ。公園の桜の木が多い区域は立ち入れないようにする規制が敷かれ、地元在住の女性は「桜の木々の下を歩くという毎年春の楽しみを失って肩を落とした」と打ち明ける。
 しかし、22年は新型コロナが収まってきたため3年ぶりに行事が本格再開した。3月20日に始まり、4月17日までの期間中にコンサートやたこ揚げ大会、パレードといった幅広い行事が順次催されている。

タイダルベイスン沿いで羽を休めるカモメやカナダガン。奥はリンカーン記念堂zoom
タイダルベイスン沿いで羽を休めるカモメやカナダガン。奥はリンカーン記念堂

 ▽お花見はメトロに乗って
 桜が咲く時期には多くの人がマイカーでポトマック川沿いに押しかけるため、周辺の道路はしばしば渋滞する。対策としてワシントン首都圏交通局の地下鉄「ワシントンメトロ」は電車の運転本数を増やしており、私はメトロに乗って訪れた。
 タイダルベイスンでは薄いピンク色の桜花が見事に咲き誇っており、散策中に話した元政府職員の女性は「桜は毎年春の楽しみで、東京に行った時も桜を見物したのよ」と話していた。桜のバックに撮影する定番はワシントンで最も高い建造物のワシントン記念塔(高さ169メートル)だ。その比較的近くにある重さ2トンの石灯籠も人気撮影スポットだ。
 これは17世紀に造られて東京・上野公園にあったもので、日本は1921年に贈る予定だった。しかし、日米関係の悪化で延期され、第2次大戦後の54年に日米友好と平和の象徴として贈られた。

アメリカン航空の機体と桜の花zoom
アメリカン航空の機体と桜の花

 ▽日米親善大使の「最高の形」
 1912年3月27日に2本の桜が植樹されたことに端を発するワシントンの桜は、ジョー・バイデン米国大統領夫人のジルさんが「桜の木は、象徴となっている日米の友情と同じように大きく育った」と評したようにすっかり大きく育った。
 私はワシントンの桜について今年3月29日火曜日のクロスエフエム(福岡県)の番組「Urban Dusk」でご説明した。当日ナビゲーターを務めたMASAKIさんが「桜が日米友好のシンボルになるといいですね」とお話になったのに対し、私は「ワシントンで桜は日米親善大使の最高の形ではないでしょうか」と申し上げた。
 他国に目を転じると、残念ながらロシアが侵攻したウクライナで戦火が勃発し、平和の大切さを改めて問いかけている。そんな時代だからこそ、日米友好と平和の象徴となっているワシントンの桜をめでることができることの貴重さを噛みしめるとともに、日米両国の友好という花も満開であり続けてほしいと強く思った。
 (連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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