アメリカ(米国)のワシントン首都圏交通局は今月14日、運行している地下鉄「ワシントンメトロ」で、川崎重工業が製造した主力車両「7000系」の営業運転を再開すると発表した。2021年10月中旬に運用を離脱して以来、一時は大半の路線で30~40分間隔の運行となったことで通勤客らの足が乱れた。「川崎さん」の復帰により、約2カ月の混乱はようやく収拾へ向かってきた。
▽運用停止の理由
ワシントンメトロで最も新しい車両の7000系は2015年に営業運転を始め、計748両とワシントンメトロの約6割を占める。そんな最大勢力の7000系が今年10月18日に運用を外れたことで、一時は大半の路線が30~40分おきに間引きされて「まるでローカル線のようなダイヤ」(利用者の男性)になった。通常の6~10分おきの運行に慣れていた利用者は混乱に陥った。
7000系が運用の一時停止を迫られたのは、六つある路線の一つ「ブルーライン」で10月12日に脱線事故が起きたからだ。交通局は電車には187人の乗客がいたが、死傷者の報告は受けていないと説明している。
だが、幅1429ミリの線路にまたがる7000系の車輪同士の間隔で、規定となっている車輪内側同士の間隔1354ミリから外れている車軸の異常が見つかった。交通局によると、事故後の7000系の検査で20の車軸で異常があることが判明し、米運輸安全委員会(NTSB)が脱線事故との関連などを調べている。ワシントン首都圏の地下鉄の安全性を監督するワシントン地下鉄安全委員会は事態を重く見て、交通局に対して7000系の運用を10月18日から一時停止するように求めた。
▽7年前にタイムスリップ?
野球の試合で言えばエース投手がしばらく戦線を離脱するような事態となり、7000系が登場後は“脇役”に甘んじていた欧州メーカーの旧型車両を寄せ集められた。それでも全体の約6割を占める7000系が抜けた穴を埋められないため、通常は8両編成で走っているのを6両編成に短縮して運用。旧型車両ばかりが駆ける光景は、7000系が15年にデビューする前の14年にタイムマシンでさかのぼったかのようだ。
▽他の車両もかつて問題化
脱線事故を起こしたことで7000系が“謹慎”を余儀なくされたが、欧州メーカーが製造したワシントンメトロの旧型車両は故障が頻発して問題化してきた。しかも「メーカーが修理などに誠実に対応しなかったのにワシントン首都圏交通局側が業を煮やし、ニューヨークの地下鉄に多くの車両を導入してきた川重に白羽の矢が立った」(鉄道業界関係者)。
7000系の登場で引退した初代型車両の1000系や、4000系と比べると「7000系は1000系より信頼性が25%向上し、4000系と比べた信頼性は4倍、あるいは310%改善した」と交通局は説明している。
▽故障明けに、セミリタイアも
現在運用されている車両も、故障明けだったり、セミリタイアしたりしていた陣容だ。06年に登場した6000系は走行中に連結器が外れるトラブルが20年に相次いで起き、運用から長く外された後に復帰したばかり。現役で最古参の1982年登場の2000系は、信号のようにそれぞれの車両内に赤色、黄色、青色の座席があるカラフルな内装が特色だ。
しかし、7000系の導入後は出番が減って車両基地の片隅で眠っていた。7000系の代わりに急きょ引っ張り出されたため、運用後に乗ると車内に敷かれた赤いカーペットはシミや汚れが目立った。残る87年登場の3000系も運転士がマスコン操作に苦闘し、駅からの出発時に慌ただしく発進する場面も見られた。
▽使命の安全運行を
交通局は90日ごとに実施していた7000系の車両点検を7日ごとに短縮するなどの再発防止策を策定し、ワシントン地下鉄安全委員会から半分弱に当たる最大336両運用を順次再開することが認められた。約2カ月のブランクを経て最前線に復帰した7000系に乗り込むと、他の型式の車両に比べて加速も減速もスムーズで、乗り心地は安定している。
脱線事故で死傷者が全く出なかったのは不幸中の幸いだったが、NTSBは事故を起こした電車はその前にも2度にわたって脱線していたと指摘して「大惨事が起こる恐れもある深刻な問題だ」と警鐘を鳴らした。交通局には使命の安全運行を果たすため、車両や線路、施設などの徹底した点検と安全管理を強く求めたい。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)