(「米国屈指の犯罪都市ボルティモア【8】」からの続き)
アメリカ(米国)で凶悪犯罪発生率4位の都市、メリーランド州ボルティモアから次世代型路面電車(LRT)で郊外へ向かった私は、ボルティモア・ワシントン国際空港(BWI空港)に隣接した終点のBWI空港停留所に着いた。周辺は郊外の住宅地のたたずまいだが、私は再びボルティモアの喧噪に飛び入り、またもや騒々しい出来事に直面する…。
▽23位の空港利用者数
BWI空港はボルティモア中心部から南西約16キロにあり、メリーランド州航空局が運営している。そう記すと地方空港の一つのようなイメージを持たれそうだが、滑走路が3本ある。航空便の有償旅客数は、ワシントン首都圏の「空の玄関口」で最大だ。米国連邦航空局(FAA)によると、新型コロナウイルス流行で落ち込んだ2020年の航空便の有償利用者数は545万2363人となり、米国の空港で23位だ。
一方、羽田空港と結んでいる全日本空輸便などが発着するワシントン首都圏のワシントン・ダレス国際空港(バージニア州)の386万2658人。米国の空港として29位で、拠点空港の中では最少だ。
▽けん引役はLCC
ダレス国際空港は米国大手のユナイテッド航空が拠点としており、文字通りの国際空港として幅広い国際線が発着する。これに対し、BWI空港の国際線はエアカナダのカナダ・トロント、モントリオールとそれぞれ結ぶ便や、ブリティッシュエアウェイズの英国の首都ロンドンとつなぐ便などごく一部。
けん引役となっているのは格安航空会社(LCC)の米国最大手、サウスウエスト航空だ。米国ボーイングの小型機737を使っており、青色を基調に赤とオレンジの帯が入った機体が特色だ。肩肘張らないフレンドリーな接客が持ち味で、出発前の安全上の注意事項をラップ調で説明する客室乗務員もいる。
▽郊外なのにボルティモア!?
ジョー・バイデン米国大統領が駐オーストラリア大使に指名すると報じられたキャロライン・ケネディ元駐日大使の父親で、第35代大統領のジョン・F・ケネディ(1917~63年)にちなんだニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港のように、米国では人名に由来する空港が多い。
BWI空港も「サーグッド・マーシャル空港」という別名を持つ。これは黒人初の連邦最高裁判所判事となったボルティモア出身の故サーグッド・マーシャル氏(1908~93年)にちなんでいる。
空港の周囲には、メリーランド州の州都アナポリスがあるアンアランデル郡の自治体が連なっている。だが、空港の所在地はボルティモア市なのだ。すなわち私はボルティモア中心部からLRTに乗って郊外にあるBWI空港へ足を踏み入れたにもかかわらず、ボルティモアの喧噪へと再び飛び入った格好だ。
▽「跳べ模型ヒコーキ」
LRTの停留所に隣接した旅客ターミナルビルは上空から見てU字型をしており、そこから連なるように航空機が発着する五つのコンコースがある。ターミナルに入ると吹き抜け構造になっており、2階に航空利用者の手続きカウンターと出発ゲートがあり、1階に到着口になっている。天井がガラス張りのドームのため太陽光が差し込む明るい雰囲気で、天井から模型が吊り下がっている。
これは往年の米国のフラッグ・シップ・キャリアーで、1991年12月に経営破綻したパン・アメリカン航空が飛ばしていた四つのプロペラエンジンを備えた飛行艇、マーチンM130だ。旅情をかき立ててくれる模型を眺めていると、渡辺美里さんの曲「跳(と)べ模型ヒコーキ」の始まりを思い出した。
曲の冒頭に登場する「路面電車の終点」にあるBWI空港で、入ってすぐの天井で「模型ヒコーキ」が飛ぼうとしている―。そんな歌詞さながらの光景が、日本から見て地球の反対側で繰り広げられているのは何という偶然だろうか!
▽万事休す!
ところがLRTとは異なり、メリーランド州運輸局所管の近郊鉄道「MARC」ペン線と全米鉄道旅客公社(アムトラック)が停車する駅は離れた場所にある。「BWIサーグッド・マーシャル・エアポート」という長い駅名で、無料のシャトルバスが空港ターミナルとつないでいる。
駅に隣接して空港利用者も使える立体駐車場があることもあり、バスは一日中走っている。午前5時から翌日午前1時までは12分おき、午前1~5時は25分おきに運転している。
私はターミナルの1階にあるバス停からシャトルバスに乗ると、8分で駅に着いた。すると、乗ろうとしているMARCペン線の首都ワシントンのユニオン駅へ向かう列車が停車しているではないか。しかも止まっているのは跨線橋を渡る必要がある反対側のプラットホームだ。万事休す!
さじを投げて次の列車まで待とうと思いかけた次の瞬間、バスを一緒に降りた男性客が大きな荷物を抱えながら跨線橋に向けて全速力で駆け出した。私も考えを改め、男性に従って走り出した。
この疾走は報われるのか、それとも徒労に終わるのだろうか?
(「米国屈指の犯罪都市ボルティモア【10】」に続く)
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)