旅の扉
- 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
- 2021年7月6日更新
- よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子
沖縄・離島ホッピングの旅 #06 「星のや竹富島」で過ごす島時間
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- 見晴台から眺める「星のや竹富島」の全景。奥に見える島影が石垣島。わずか10分の船旅で、沖縄の原風景がそのまま残る島へ。
- 石垣港離島ターミナルから船でわずか10分。周囲9.2kmの竹富島は、人口360人ほどのとても小さな島。自転車や徒歩でも一周できることもあり、石垣島から日帰りで訪れる人が多いのですが、ここには宿泊してこそ初めてわかる魅力があります。
夏休みの昼下がりを思い起こさせる、ちょっと気だるくてのんびりした午後、空いっぱいに星が瞬く夜の静寂、ドラマチックな夜明けから迎える朝、それらの一つひとつに魅了された島時間はとても心地よく、そして濃密なものでした。
小さな島の風景に馴染む、竹富島第4の集落
琉球赤瓦の屋根がある家屋と、グックと呼ばれる珊瑚石灰岩を積んだ石垣が続き、沖縄の伝統的な町並みが残る竹富島。島には、西集落、東集落、仲筋集落の3つの集落があり、いずれも国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。
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- ずっと昔からこの島にある集落のように馴染んで見える石垣は、珊瑚石灰岩を手で積み上げたグックと呼ばれる。
- 竹富島には過去に数回訪れ、地元の人が営む民宿に滞在したことがありますが、誕生してから10年目を迎えた「星のや竹富島」に足を踏み入れるのは初めて。到着してまず、敷地内をとひと回りしてみました。まっ白なサンゴの砂が敷き詰められた小路を歩くと、鳥の声と木々を揺らす風の音、そしてザクッ、ザクッと砂を踏みしめる自分の足音だけが響きます。手積みの石垣(グック)もずっと前からこの島にあった集落の一部のように馴染んでいて、ここが“竹富島第4の集落”と呼ばれている理由がわかってきました。
シンボルツリーを映すプールがリゾートへと誘う
島に古くからある集落と同じ空気を醸しながら、間違いなくリゾートであることを感じさせてくれるのが、「ゆんたくラウンジ」をはじめとしたパブリックスペース。“ゆんたく”とは竹富島の言葉で“おしゃべり”のこと。宿泊ゲストは滞在中いつでも利用でき、島に伝わるハーブのお茶を飲んだり、ショップでは沖縄の手仕事による民芸品を手に取って眺めたり、夜には泡盛のカクテルも楽しめます。
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- 全長46mの楕円形プール。正面がシンボリツリーのガジュマル。夜、芝生の上で「てぃんぬ深呼吸」を行えば、ぐっすりと眠れる。
- ラウンジの一面を占める窓から見渡すことができるのが、楕円形のプール。グックに囲まれた客室棟が並ぶ小路からは見えず、集落のどこにこれだけ開放的な空間があったのかと驚きました。すり鉢状の窪みの中心にあるため、プールからも集落はほとんど見えません。プールに浮かびながら見上げる空に視界を遮るものはなく、別の時間がここに流れていることに気づきます。
ラウンジからプールに向かって張り出したウッドデッキでは、夕刻になると三線の演奏が披露されます。どこかのんびりとした音色に耳を傾けながら過ごす夕刻のひとときは、とても心地よい時間。
就寝前に、プールサイドの芝生に寝っ転がって星空を眺めながら行われるストレッチが「てぃんぬ深呼吸」。プールを囲む森から聞こえてくる「ホー、ホー」という鳴き声は、リュウキュウコノハズクのもの。1羽が鳴き始めると、それに呼応するように別の方向からも鳴き声が聞こえてきて、森の中に迷い込んだ錯覚に。月明かりが少ない夜には、空に架かる天の川がくっきりみえることもあるのだとか。普段、街で暮らしているとわからない暗闇と静寂の心地よさは、島で夜を過ごさなければ体験できないことのひとつです。
シーサーが守る客室棟は、幸せを呼ぶ南風(ぱいかじ)が吹き抜ける場所
48ある客室は、1棟1棟が独立した木造平屋作り。琉球赤瓦の屋根にはそれぞれ異なる表情のシーサーが鎮座して、訪れるゲストを迎えてくれます。
入り口正面の衝立が「ヒンプン」と呼ばれ、沖縄の伝統的な民家には必ずあるもの。台風などによる風の直撃を避けるとともに目隠しの役割があります。さらに、家の中によくないものが入ってくるのを防ぐ、魔除けの意味もあるのだとか。沖縄の魔物は、勢いよく直進はできるけれど、角を曲がるのが苦手だと信じられているのだそう。台風が多い島で、人々の暮らしに根付いた意識なのかもしれません。
そういえば沖縄の集落はどこも、台風の強い風が吹きつける衝撃を弱めるため、交差点で交わる道を少しずつずらしてあると聞いたことを思い出しました。
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- 上/沖縄の伝統建築を踏襲した木造平屋作りの客室。琉球赤瓦の屋根の上から見守るシーサーは、すべての客室棟で異なる表情。下左/窓の外の正面に見えるのが、ヒンプン。下右/バスルームの開放的なこと! ここにも心地よい風が吹き抜ける。
- 南向きに建てらた客室は、リビングの窓を開放すると南から北へ風が通るつくり。竹富島がある八重山地方で、南風は“ぱいかじ”と呼び、幸せを呼ぶ風といわれています。窓を全開にしてくつろいでいても、ヒンプンのおかげで外から見える心配はなく、幸せを呼ぶ風にたくさん吹かれて過ごしたいものです。
贅沢な朝食も、島に宿泊した人だけが味わえる特権です。島食材をたっぷり使った和洋のメニューのほか、朝焼けが美しい夏の間だけ提供しているのが「夏暁(なつあけ)ブレックファスト」。早朝のプールを貸し切り、浅瀬にテーブルをセッティングして過ごすブレックファストタイムは、1日1組限定。記念日やお祝いの席に利用したり、ここでプロボーズをした男性もいるそうです。
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- 左・右上/「夏暁ブレックファスト」(7/1~8/31、1日1組限定)はフルーツ中心のメニューにシャンパン付きの贅沢なもの(ひとり14,520円)。右下/レギュラーメニュー「島人の朝ごはん」の琉球朝食4,235円。
- 小さな島の畑文化に触れる、食いしん坊の芋掘り体験
客室とプールエリアを行き来しながら、な~んにもしないで過ごす時間はこの上ない贅沢。
とはいえ、竹富島ならではの伝統文化に親しむ時間も作りたいものです。
竹富島名物といえば、水牛車観光。「星のや竹富島」宿泊ゲストのために用意されたコースでは、早朝の静かな時間に楽しむことができます。ほかにもシーサー作り体験、島で採れた植物で民具を作る「手業(てぃわざ)体験」などの島遊びが用意されているなか、食いしん坊の私は敷地内の畑で芋堀りを体験してみました。
海に囲まれ、サンゴ礁が隆起してできたこの島には川がなく、石垣島から水道が引かれるまでは共同井戸と雨水に頼って暮らしていました。その厳しい条件下でさまざまな工夫をしながら野菜や薬草を栽培してきたため、他の島とは異なる畑文化が形成されてきたのだそうです。最近では失われつつある、その畑文化と農作物を継承するために立ち上げられたのが、「畑プロジェクト」です。
島のおじいやおばあの家に通いながら文化や歴史、昔ながらの野菜や薬草の栽培法を学び、敷地内の畑で実践しているのが、プロジェクトリーダーの小山隼人さん。その小山さんに、芋、粟やモチキビなどの穀物、薬草などを栽培する畑を案内してもらいました。
島には水田がない代わり、芋や薬草の種類が豊富です。それらの名前を一つひとつ教わりながら畑を巡っていると、ここに島の人たちの暮らしと食の原点があるように思えてきました。
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- 「畑プロジェクト」のリーダー、小山さんの案内で芋堀りを体験。その場でポテトフライとチップスにして味わう。
- 小さな島に歴史や文化がギュッと凝縮された竹富島。「星のや竹富島」は、この島で一番新しい集落でありながら、昔ながらの島の暮らしや文化を紡いでいる場所かもしれません。素朴な民宿でおじいやおばあと過ごす夜はもちろん楽しく、味わい深いものですが、ここにしかない体験の数々はとても貴重。1泊2日ではとても時間が足りず、多くの人が2泊以上の連泊プランで訪れると聞き納得です。
星のや竹富島
沖縄県八重山郡竹富町竹富
TEL 0570-073-066(星のや総合予約)
URL:https://hoshinoya.com/