旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2025年10月1日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

【秋の沖縄旅②】プライベートサバニで幻のビーチをひとり占めする、竹富島の海遊び 

風と人力だけで航行するサバニは、資源が限られた離島で生活の知恵から生まれたエコロジカルな船。zoom
風と人力だけで航行するサバニは、資源が限られた離島で生活の知恵から生まれたエコロジカルな船。
「サバニ」は沖縄の伝統的な木造船。漁業や荷物の運搬、島間の移動などに古くから使われていたもので、エンジンはなく、帆に受ける風と櫂の操作のみで海にこぎ出します。
暮らすように過ごし、夏疲れを癒す「星のや竹富島」の島時間。今回は2泊3日のゆったりしたスケジュールで滞在し、日差しが和らいだ夕刻に出発するサバニのプライベートツアーを体験しました。

竹富島の海を知り尽くした島人が案内するプライベートツアー
案内役は竹富島で生まれ育ち、島の海をこよなく愛する上勢頭 輝(うえせど あきら)さん。大学卒業後は沖縄本島でカヤックガイドをしていましたが、竹富島の海洋文化を取り戻し、その魅力を伝えたいとサバニツアーを始めたのだそうです。
案内役の上勢頭さん。かつて島の暮らしに欠かせなかったサバニを復活させ、島の歴史や文化を後世に伝えるツアーを行っています。zoom
案内役の上勢頭さん。かつて島の暮らしに欠かせなかったサバニを復活させ、島の歴史や文化を後世に伝えるツアーを行っています。
琉球王朝時代の沖縄では、もともと大木をくりぬいた船が作られていましたが、森林資源を保護するために丸太船の製造が禁じられたのだそうです。そこで、複数の木材を継ぎ合わせて作られたのがサバニ。海に囲まれた離島で資源を有効に使うため、生活の知恵から考え出された船がサバニというわけです。漁業のほか、米などの物資や人を運ぶためにも使われ、島の暮らしの必需品でした。現在でも沖縄の伝統行事にサバニは欠かせず、毎年、旧暦の5月4日に海の神様へ豊漁祈願をする祭り「ハーリー」では、各地でサバニのレースが行われています。

竹富島の海を知れば、島の歴史と海洋文化が分かる
沖縄の各地で使われていたサバニですが、竹富島にはこの島ならではの事情があったといいます。上勢頭さんは巧みに船を操りながら、サバニと海にまつわる島の歴史を話してくれました。
竹富島を囲むサンゴ礁の海は、海底までくっきり見えるほど透明度抜群。船から足を出して浸すと気持ちいい!zoom
竹富島を囲むサンゴ礁の海は、海底までくっきり見えるほど透明度抜群。船から足を出して浸すと気持ちいい!
沖縄の離島のなかでもサンゴ礁が隆起してできた竹富島は、平坦で山も川もなく、雨が降っても海が濁ることはほとんどありません。その地質と地形が美しい海を創り出しているわけですが、農耕に不向きな土地で水も豊富ではないため、お米の栽培ができませんでした。そのため、島の人々は約15km離れた西表島までサバニで出かけて稲作をし、収穫したお米をサバニで島に持ち帰っていたのだそうです。先人たちにとって風や波、空や星が羅針盤。自然とともに暮らす日々から培われた生活の知恵や、島の人たちが大切にしている一致協力を意味する“うつぐみの島”の精神など、上勢頭さんはとても分かりやすく話してくれました。
沖縄の言葉で“ウニ”と呼ばれる砂だまりは、ほんの短い時間だけ沖に現れる幻のビーチ。竹富島の背後に見えるのが石垣島。zoom
沖縄の言葉で“ウニ”と呼ばれる砂だまりは、ほんの短い時間だけ沖に現れる幻のビーチ。竹富島の背後に見えるのが石垣島。
限られた時間にだけ現れる、幻のビーチに上陸
浜から漕ぎ出して約30分、目の前に見えてきたのは、まっ白い砂だまり。沖縄では“ユニ”と呼び、潮の満ち引きによって限られた時間にだけ現れる幻のビーチです。上勢頭さんはその日の干潮時刻や風向きによって砂だまりが現れるところを探し、サバニで乗りつけます。船を降りて上陸すると、そこは波と風の音だけの世界。島からほんの少し離れただけなのに、こんなに静かで美しい場所があったとは。波打ち際を歩き、景色に見とれていると、いつの間にか足元に波が上がってきて砂州が消え始めました。これが、寄港のタイミング。うっすらと茜色に染まる海を眺めながら、浜へと引き返します。
幻のビーチを貸し切りで過ごす、贅沢な時間。ひたひたと波が押し寄せてきたら、島へ帰る準備を始めます。zoom
幻のビーチを貸し切りで過ごす、贅沢な時間。ひたひたと波が押し寄せてきたら、島へ帰る準備を始めます。
上勢頭さんは、観光客を対象としたサバニツアーで竹富島の自然や歴史を伝えるだけでなく、島の子どもたちにも先人の知恵を伝え、後世に継承していくための活動をしています。サバニツアーを通してこの島に受け継がれてきた伝統や文化を知り、島の人たちの想いに触れたことで、この小さな島のことをもっと深く知りたくなってきました。
◎夕暮れプライベートサバニ
時間:17:00~19:00
料金:1名15,180円(税・サービス料込み)※2名から受け付け、1名の場合は応相談
プライベートサバニは星砂浜として知られるカイジ浜から出航。浜に帰ってきたら、島ネコが出迎えてくれました。zoom
プライベートサバニは星砂浜として知られるカイジ浜から出航。浜に帰ってきたら、島ネコが出迎えてくれました。
多くの人が石垣島や、西表島からの帰りに日帰りで訪れる竹富島。周囲約9kmの小さな島は、徒歩や自転車で半日もあれば回れますが、夕暮れに茜色に染まる海と空、夜の星空、早朝のビーチ、シマフクロウやアカショウビンの鳴き声など、滞在しなければ気づかない自然や魅力が数えきれないほどあります。海がきれいなリゾートは日本中、世界中にたくさんあるけれど、ここは唯一無二の島に違いありません。

竹富島では年間20以上の神事や祭礼が行われていて、島の人たちの生活の一部になっています。代表的なものに約600年の歴史をもつ重要無形民俗文化財の「種子取祭(タナドゥイ)」があり、今回滞在した「星のや竹富島」では、祭礼に合わせて奉納芸能や儀式の裏側を見ることができるプランを実施しています。いつか、そんな伝統芸能に触れる旅も体験してみたいと思い旅を終えました。

◆星のや竹富島
沖縄県八重山郡竹富町竹富1955
TEL 050-3134-8091(星のや総合予約)
48室・チェックイン15:00/チェックアウト12:00
1泊147,000円~(1室あたり、税・サービス料込・食事別)※通常予約は2泊より
☆2025年11月16日~18日は、「種子取祭滞在」プランを実施。
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyataketomijima/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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