旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2021年5月11日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

沖縄・離島ホッピングの旅 #01 西表島で、ピーチパインの甘酸っぱさにキュン!

旬を迎え、収穫したばかりのピーチパインを味わえる「星野リゾート 西表島ホテル」の「ウェルカムパインの振る舞い」。zoom
旬を迎え、収穫したばかりのピーチパインを味わえる「星野リゾート 西表島ホテル」の「ウェルカムパインの振る舞い」。
日本に居ながらにして、南の島のリゾート気分を味わえる沖縄。本島とともに宮古島、石垣島には何度か訪れたことがありますが、約160の島々からなる沖縄には未踏の島がたくさんあります。まだ見ぬ魅力を知りたくて、八重山諸島の中心・石垣島からさらに船を乗り継ぎ、“離島の離島”をホッピングする旅に出ました。感染対策は万全。PCR検査を受け、人との接触を必要最低限にする、おひとり旅です。

そこで出会ったのは、島ごとに異なる自然の景観と、地元の農家さんが丹精込めて育てたフルーツに、心躍るような体験の数々。対岸に見えるくらい近い島々なのに、こんなにもいろいろな表情を見せてくれるとは!
贅沢なリゾートステイから、島の自然を丸ごと体感するアクティビティ、島名物の食べ物まで、この夏にぜひ体験してみたい離島めぐりの旅を連載でご紹介します。

季節限定のお楽しみ。西表島のパインは、今が旬!

最初に訪れたのは、石垣島の離島ターミナルから船で50分。特別天然記念物のイリオモテヤマネコをはじめとした希少な動物が生息し、世界自然遺産への登録が勧告されたばかりの西表島。沖縄諸島のなかでは本島の次に大きく、90%以上がジャングルに覆われています。その半分がいまだ手つかずのままであることから、“日本最後の秘境”と呼ばれている島です。
小ぶりで可愛らしいピーチパインは、これまで食べてきたパインのイメージが変わる味。zoom
小ぶりで可愛らしいピーチパインは、これまで食べてきたパインのイメージが変わる味。
西表島でのおもてなしは、旬の味から始まりました。島を代表するフルーツがパイナップル(パイン)。西表島では4~6月に収穫の最盛期を迎え、本島に比べ年間の平均気温が高いこと、豊富な降水量もあり、より高い糖度のものが育つのだそうです。今回滞在した「星野リゾート 西表島ホテル」では、そのパインが都市部の市場に出回るひと足前に味わうことができました。

パインのイメージが変わる!? 丸っこくてかわいいピーチパイン

地元のパイン農家さんと協力し、「春のパイン祭り」を開催中の西表島ホテル。ロビーのシェルフにはたくさんのパインが整列し、甘酸っぱい香りとともに迎えてくれます。
このパイン、よく見るとお店で見かける一般的なものよりやや小ぶりで、丸っこい姿が可愛い。沖縄原産のピーチパインという品種で、白い果肉とほんのりピンクがかった表皮、完熟の実からは桃のような香りがすることから、この名が付いたのだそう。芯まで美味しく食べられることもあり、人気急上昇中なのだとか。

眺めるだけではありません。チェックインタイムに合わせ催されているのが、ピーチパインと、その時期に旬を迎える異なる品種を目の前でカットし、食べ比べできる「ウェルカムパインの振る舞い」。甘い香りは、切り立てのパインから漂ってきたものだったのです。
カットされた状態でも、ピーチパインの違いは明らかです。白い果肉の切り口が蜜のようにねっとりとしたツヤで輝いていて、糖度が高いことが分かります。ほおばると口当たりがとてもなめらかで、濃厚な甘みと、その甘さを引き立てるほどよい酸味。時々、残念なパイナップルで遭遇する舌を刺すような酸っぱさやえぐみはまったくありません。さらに、驚いたのは芯の部分。筋っぽさがなく梨のようなシャキシャキした歯触りは、まるで別のフルーツを味わっているようでした。

ピーチパインの美味しさの秘密を知る

今まで食べたどのパインとも異なる美味しさのピーチパイン。その秘密を知りたくて、ロビーで開かれている「西表島パインの学校」をのぞいてみました。
ロビーで催される「西表島パインの学校」は、知らなかったパインのトリビアがいっぱい!zoom
ロビーで催される「西表島パインの学校」は、知らなかったパインのトリビアがいっぱい!
実際に農家で学んできたホテルスタッフによるレクチャーは、島での栽培の歴史や品種について学べる内容。それによると、この島では稲作や野菜栽培に不利な酸性の土壌が、逆にパイン栽培に適しているのだとか。島で栽培が始まった1950年代後半はカンヅメ用が中心でしたが、新たな品種の導入や栽培方法の改良を重ね、フレッシュなまま美味しく食べられる現在のパインに辿り着いたのだそうです。

植え付けから収穫まで2年かかることも初めて知りました。収穫後の畑は1年間、休ませなければならないため、実際には3年に一度しか収穫できません。どれだけ貴重なものであるかがよくわかり、レクチャー後にもう一度食べたパインが、さらに特別なものに感じられました。

女性にうれしい、パインづくし料理の効用とは?

ホテルの食事にも、パインがふんだんに取り入れられています。ディナービュッフェでは、前菜、主菜、副菜のそれぞれのコーナーにパインを使った料理が並びます。例えば、ゴロゴロ入った果肉とともに、果汁の甘酸っぱさを生かしたドレッシングのサラダ、エビとパインのケイジャン炒めやスペアリブ、甘さと辛さのバランスがちょうどいいパイン入りカレーなど。もちろん、デザートにもたっぷり。翌日の朝食では、パインとマンゴーをミックスしたスムージーも味わえます。
旬のパインをふんだんに使ったディナービュッフェの料理例。zoom
旬のパインをふんだんに使ったディナービュッフェの料理例。
一度にこれだけのパインを食べる機会は多くありません。すると、翌朝はおなかの調子がものすごくいいではないですか! 食物繊維が豊富で消化酵素をたくさん含むパインには、胃腸の働きをよくする働きがあります。疲労回復効果があるとされるクエン酸、ビタミンB1、A、Cも豊富と聞けば、お肌にもよさそう。島旅では積極的に食べたいフルーツですね。

初めてのパイン狩りに、畑へGO!

「春のパイン祭り」開催中は、収穫体験ができるアクティビティ(有料)も用意されています。ハワイなどでパイン畑は見たことがありますが、実際の収穫は体験したことがありません。これはぜひ!ということで、ホテルまで迎えに来てくれた農家さんの車で畑へ向かいました。畑に着くと用意されていたものは、胸まであるゴム長靴と軍手、収穫用のカマです。胸からは大きなカゴをぶら下げます。

お手本を見せてもらったら、いざ収穫へ!
パインの葉は想像以上に堅く鋭く、行きたい方向へ辿り着くのは容易ではありません。手を延ばせば食べ頃がすぐ目の前にあるのに、その一歩がなかなか進めないのです。そのうえ、小ぶりなピーチパインとはいえ1個の重さは500~700グラム。10個も採れば5キロ以上になります。20個くらいは軽く収穫できるだろうとタカをくくっていましたが、数個であえなくギブアップ……。

収穫体験の案内をしてくれた、パイン農家の平井伯享(のりゆき)さん。畑では採れたても味わえます。zoom
収穫体験の案内をしてくれた、パイン農家の平井伯享(のりゆき)さん。畑では採れたても味わえます。
収穫中にもうひとつ、新たに知ったことがあります。ピーチパインが芯まで美味しく食べられるのは、成長過程で葉の一番上の部分を抜き取ることで芯の成長を抑えているからなのだとか。1個1個手作業で行われ、採り損ねたものは葉が上に長く伸びるにつれ芯の部分も固く筋っぽくなってしまうのだそう。ピーチパインの美味しさは品種の違いだけではなく、鉄のフェンスのような葉をかき分けながら炎天下で毎日、作業を行う農家さんの手作業によって完成されたものだったのです。
農家さんの作業は早朝と夕方の涼しい時間帯が中心。朝、畑に着くと食べ頃のパインを狩り取り、朝食代わりに食べるといいます。自分で育てたパインをまっ先に味わう美味しさもまた、重労働の原動力になっているのでしょう。

国内で生食用に流通しているパインのほとんどは輸入品で、国内産の割合はわずか5%。その中で西表島産となると、出会える確率がどれほど低いかが想像できます。旅を終え東京に帰ってきてから、お店で売られているパインの産地が気になってついついチェックするようになりました。
秘境のような島を遊びつくすさまざまなアクティビティが用意され、西表島滞在の拠点にしたい「星野リゾート 西表島ホテル」。zoom
秘境のような島を遊びつくすさまざまなアクティビティが用意され、西表島滞在の拠点にしたい「星野リゾート 西表島ホテル」。
「パインの学校」と「パイン狩り」を体験できる、「春のパイン祭り」は、5月31日まで。開催期間はとても短いですが、この時期限定の味わいはとても貴重。6~7月には搾り立てのパインジュースも島内で味わえるそう。一度、飲んだことがあるかたからは、「味を均一化した大量生産のものと違い、その日のパインで少しずつ味が変わるジュースの美味しさが忘れられない」と聞きました。それを味わってみたくて、次にまた島へ出かける機会をうかがっています。

●星野リゾート 西表島ホテル
沖縄県八重山郡竹富町上原2-2
TEL 0570-073-022(星野リゾート予約センター)
客室数:139室
チェックイン/アウト:15:00/11:00
料金:1泊14,000円~(1室2名使用時・税サ込み・朝食付き)
URL: https://iriomotehotel.com
※「春のパイン祭り」は、5月31日までの開催です。
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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