旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2021年4月26日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

鉄道旅行賞日本一に「鉄印収集の旅」 鉄旅オブザイヤー、筆者推しのツアー“100%当選”

△東北新幹線E5系(筆者撮影)zoom
△東北新幹線E5系(筆者撮影)

 優れた鉄道旅行商品を選ぶ「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」の第10回となる2020年度の日本一の「グランプリ」が4月21日に発表され、東北地方の第三セクター鉄道を訪れて御朱印の鉄道版となる「鉄印」を集めるツアーが栄冠に輝いた。審査員の一人である筆者は決選投票でこのツアーに票を投じ、四つの部門賞もそれぞれ最高得点を付けた商品が全て受賞し、20年度に推したツアーが“100%当選”した。

△鉄旅オブザイヤー2020年度の授賞式=4月21日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー運営事務局提供)zoom
△鉄旅オブザイヤー2020年度の授賞式=4月21日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー運営事務局提供)

 ▽鉄道旅行賞の代表格
 鉄旅オブザイヤーは国内の鉄道旅行に贈られる賞の代表格で、「鉄道旅行のアカデミー賞」と紹介されたこともある。旅行会社がその年度の10月までに催行または開催を決めた国内の鉄道旅行を対象として応募を募り、日本一となるグランプリなどの賞を選ぶ。旅行業界でつくる鉄旅オブザイヤー実行委員会が主催し、後援にはJR北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州のJR旅客6社全てと、私鉄でつくる日本民営鉄道協会、日本旅行業協会といった鉄道・旅行業界の主要企業・団体がそろう。
 東日本大震災で落ち込んだ旅行需要の回復を目指して2011年度に始まって毎年実施。旅行会社に贈る賞は実行委員会の一次審査で候補を選び、外部審査員を委員長の芦原伸・日本旅行作家協会専務理事や筆者ら計11人・1団体が務めている。企画力や独創性、乗車する列車や路線の魅力度などを採点して評価している。

△三陸鉄道のディーゼル車両「36―700形」(同社提供)zoom
△三陸鉄道のディーゼル車両「36―700形」(同社提供)

 ▽決選投票を導入
 今回は新たな試みとして、添乗員が案内するツアーが対象の「エスコート部門賞」と個人旅行商品の「パーソナル部門賞」、JR旅客6社と地元自治体が開催する大型観光企画「デスティネーションキャンペーン」(DC)が20年度に開かれた地域への旅行から選ぶ「DC部門賞」、鉄道ファン向けの企画を対象にした「鉄っちゃん部門賞」を選出して4月7日に公表後、これら4部門の受賞商品の中から審査員らが決選投票を実施。鉄道博物館(さいたま市)で21日に開かれた授賞式でグランプリを発表した。
 グランプリに選ばれたのは4部門賞をご紹介した本コラムの拙稿(「鉄道旅行賞の日本一、「100%的中」の審査員が予想」)で筆者が「『グランプリの本命になる』と予想している」との見方を示した「鉄っちゃん部門賞」の「三セク鉄道のオリジナル印“鉄印”がもらえる『鉄印帳』付ツアー 9つの列車をツナグ!みちのく鉄道周遊」。大きな話題を呼んだ御朱印の鉄道版「鉄印」の収集を切り口にした旅行商品で、地域経済振興や震災復興にも貢献したのが評価された。催行した第三セクター鉄道等協議会、読売旅行、旅行読売出版社、日本旅行が受賞した。

△鉄旅オブザイヤー20年度の授賞式配布資料に載った筆者のコメントzoom
△鉄旅オブザイヤー20年度の授賞式配布資料に載った筆者のコメント

 ▽赤字三セクの“福音”に
 20年7月に始まった鉄印は、第三セクター鉄道等協議会に加盟する40の三セク鉄道を訪れて乗車券と記帳料(300円以上)を支払うと専用の冊子「鉄印帳」に収集できる。鉄印は各社によって図柄が異なり、手書きやスタンプ、プリントなどがある。40鉄道の鉄印を全て収集すると、「鉄印帳マイスターカード」を発行してもらえるというコレクター心理をくすぐる仕掛けになっており、鉄印帳は売り切れが続出した。
 第三セクター鉄道等協議会によると、19年度決算で経常損益が赤字だったのは加盟40社のうち8割の32社に上った。20年度も新型コロナ禍による旅客減で総崩れの様相を呈しており、三セク鉄道にとって鉄印は収入を補う“福音”となった。

△鉄旅オブザイヤー20年度の授賞式後の記念撮影=4月21日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー運営事務局提供)zoom
△鉄旅オブザイヤー20年度の授賞式後の記念撮影=4月21日、さいたま市の鉄道博物館(鉄旅オブザイヤー運営事務局提供)

 ▽筆者の採点は「ほぼ満点」
 20年9~11月に催行された受賞ツアーは参加者に鉄印帳を用意し、岩手県の三セク鉄道の三陸鉄道とIGRいわて銀河鉄道、秋田県の秋田内陸縦貫鉄道の鉄印を収集できる。発着する東京駅から東北新幹線で往復するなど移動は鉄道が中心で、東日本大震災で被災後に復旧を果たした三陸鉄道では社員が震災時の様子を説明するなど社会学習の要素も採り入れた。旅行代金は観光支援事業「Go To トラベル」などの適用後で1人当たり2万6千~3万9千円で、189人の参加者を集めた。
 筆者はこのツアーに60点満点で58点と「ほぼ満点」となる全体の最高得点を付け、決選投票でも票を投じた。授賞式で配布された資料で紹介していただいたコメントで、鉄印について「20年度の鉄道旅行業界の代表的なヒット作となった」と高く評価。「第三セクター鉄道等協議会加盟40社を巡る鉄印集めを一時的な流行に終わらせず、四国八十八カ所お遍路のように定着させ、旅行者呼び込みの柱に育つことを大いに期待しています!」と訴えた。

△夜空に浮かぶ東京タワーの照明(筆者撮影)zoom
△夜空に浮かぶ東京タワーの照明(筆者撮影)

 ▽“100%当選”の理由
 筆者は13年度に審査員となってから8年目となり、19年度までの7年間いずれも最高得点を付けたか、それに準じるような高得点を付けたツアーがグランプリに輝いている。20年度は4部門賞それぞれで最高得点を付けた商品がいずれも受賞し、決選投票で票を投じた商品がグランプリに輝いたため、いわば“100%当選”した。
 ただし、前述の通り計11人・1団体の審査員の1人に過ぎないため、採点の影響力は限られている。にもかかわらず推したツアーが軒並み受賞しているのは、鉄道および旅行に通じた他の審査員の方々の多くと採点するベクトルが一致しているからだと確信している。それは応募作品が参加者に満足感を与え、コストパフォーマンスも高く、旅行先の鉄道会社や地域経済の振興にも一役買うような「プロの仕事」とうならせる内容かどうかだ。
 また、筆者は審査員の報酬を一切受け取っていないボランティアであり、客観的で公平中立に採点しているのも優れたツアーを見抜く“審美眼”につながっていると自負している。このような姿勢は20年度に最高得点を付け、決選投票でも清き一票を投じてグランプリを受けた商品が、筆者の勤務先のライバル企業のグループ会社が携わった商品であることからも理解いただけよう。
 新型コロナウイルス禍は日本各地の鉄道や地域経済に大きな打撃を与えている。回復の道筋をつける有効な手段の一つとなるのが経済への波及効果が大きい鉄道旅行だ。筆者としては鉄旅オブザイヤーの審査員を無報酬のボランティアで続けさせていただくことで、誠に微力ながら各地の鉄道と地域経済が新型コロナ禍から力強く立ち直り、鉄道旅行がさらに発展するための一助となれれば幸いだ。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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