旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2020年11月2日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

コロナ禍でも渡航できる南国リゾート!?首都圏一近い離島へ

△相模湾を航行する熱海―初島間の定期船「イルドバカンスプレミア」=静岡県熱海市zoom
△相模湾を航行する熱海―初島間の定期船「イルドバカンスプレミア」=静岡県熱海市

 新型コロナウイルスの感染拡大で南国のリゾートに行きにくくなった代わりに、首都圏から一番近い離島を訪れてリゾート気分を―。そんなチャンスをくれたのが、静岡県・伊豆半島沖の相模湾に浮かぶ初島(熱海市)だ。休みの日に東京都港区の自宅を出発した私は、プチ・セレブ気分を味わえる切符を買ってJR東海道線で熱海駅へ向かった。

△初島から眺めた相模湾の大海原=熱海市zoom
△初島から眺めた相模湾の大海原=熱海市

 ▽3密防止
 熱海駅から東海バスの熱海後楽園行きに乗り込み、10分で熱海港に着く(大人230円)。ここから初島へ向かう富士急行傘下の富士急マリンリゾート(熱海市)の定期船が平日ならば原則として1日に10往復、土休日と繁忙期は1日11往復している。往復運賃は大人で2640円だ。
 フランス語で「休暇を過ごす島」と意味する「イルドバカンス」を冠した「イルドバカンスプレミア」と「イルドバカンス3世号」の2隻があり、乗り込んだ午前10時40分に出発する便はイルドバカンスプレミア。「プレミアムな休暇を満喫できるのだろうか」との期待感を持ちながら大海原の上を揺られ、約30分で熱海市街地から約10キロ離れた初島港に到着した。
 2万年ほど前に海面に姿を現し、約7千年前から人が住んできたとされる初島は面積が約0・44平方キロ、周囲の距離も約4キロという小さな島だ。今年9月末時点の人口は186人。
 新型コロナウイルスの感染拡大は観光地に打撃を与えている中で、初島にはリゾートトラストの会員制リゾートホテル「エクシブ初島クラブ」と富士急グループのリゾート施設「PICA(ピカ)初島」がそびえる離島なのが功を奏して「3密(密閉、密集、密接)を避けられるため、観光客が堅調に訪れている」(関係者)という。

△南国風のたたずまいのレストラン「ENAK(エナ)」=熱海市・初島zoom
△南国風のたたずまいのレストラン「ENAK(エナ)」=熱海市・初島

 ▽プーケット島気分!?
 初島港から15分ほど歩くと、島の北西部にあるPICA初島に到着。極楽鳥が羽を広げたような花が咲くことから名付けられたゴクラクチョウカ、アロエといったエキゾチックな亜熱帯の植物が林立し、まるで南国のリゾート地に足を踏み入れたような気分になる。
 新たなスポットと聞いて早速訪れたのが、10月17日に開業したばかりのアジア料理を楽しめるレストラン「ENAK(エナ)」だ。木や竹を多用した店舗は天井の高さが約9メートルある開放的な雰囲気で、テーブル席についたてを設けるなど新型コロナウイルス感染防止対策を施している。
 インドネシア語で「おいしい」を意味する店名をつけていることが象徴するように、メニューにはアジア料理が並ぶ。インドネシア料理の焼き飯「ナシゴレン」を盛り付けたナシゴレンプレート(1400円)や、「インスタ映えする」と聞いて注文したノンアルコールカクテル「トロピカーナ」(650円)を味わった。オレンジなどの風味が利いたトロピカーナのグラスをテラス席に置き、奥に生えたヤシの木と海を一望すると、まるでタイの保養地・プーケット島にワープしてしまったかのようだ…。
 と言いたいところだが、伊豆ナンバーの軽トラックが視界に入っていた。苦笑しながらも、「タイにも日本メーカーの商用車が多く走っているからいいか」と割り切った。続いてコロナ禍での「巣ごもり生活」にかまけて運動不足になってしまった解消法を求めることにした。

△相模湾を見渡せる露天風呂がある温浴施設「海泉浴『島の湯』」=熱海市・初島zoom
△相模湾を見渡せる露天風呂がある温浴施設「海泉浴『島の湯』」=熱海市・初島

 ▽「不惑」の挑戦
 向かったのは空中アスレチック「初島アドベンチャーサルトビ」(大人1900円、子ども1500円)だ。初級はネットの中をくぐるなどの12コースと、つり下がった丸太の上を歩くなどする中級の7コースがあり、それぞれの締めくくりではワイヤを約40メートルにわたって滑り降りるジップスライドを楽しめる。
 専用のハーネスを体に装着し、ワイヤとつなぐので安全性は確保されているものの、高い場所でネットにしがみつきながら進むなどスリル満点だ。
 初級で前を進んでいた男性は「中級は自信がないのでパスします」と話していたが、孔子が「論語」で「四十にして惑わず」と唱えた40代の私が戸惑うことは許されない。中級コースに進むことを決意して進むと、インストラクターから「最難関」と聞いていた進行方向と並行して丸太の足場があるだけの地点にたどり着いた。
 上り勾配のため、ジップスライドのようにハーネスを活用して滑り降りるという選択肢はない。丸太をつり下げているロープにつかまり、慎重に前進すると別の丸太が待ち受けている。丸太を支えるロープにつかまって次の丸太へ移ろうとするが、丸太は揺れてなかなか落ち着かない。恐る恐る飛び移り、3本の丸太を進んでようやくクリアできた。

△全席がグリーン席以上の「サフィール踊り子」E261系=品川駅zoom
△全席がグリーン席以上の「サフィール踊り子」E261系=品川駅

 ▽トレーラーを使った宿泊施設も
 アスレチックで汗を流した後は、地下水を温めた風呂に入れる温浴施設「海泉浴『島の湯』」へ。露天風呂は目の前に相模湾が広がり、波の音に耳を傾けながら入湯できた。
 私は午後4時40分に初島港を出る定期船で島を離れたが、PICA初島にはトレーラーを改造した宿泊施設がある。
 うち「アイランドヴィラ テラス6」は広さ約22平方メートルのトレーラー1台を使った宿泊施設で、6人まで泊まれる。約20平方メートルのデッキで食事をしたり、ハンモックで寝そべったりすることも可能だ。
 料金は1泊2食付きで1人当たり1万2千~3万円。政府の観光支援事業「Go Toトラベル」を活用し、割安に泊まれるバーベキュー付きプランも販売されている。

△ゆったりとしたグリーン席が並ぶ「サフィール踊り子」の車内zoom
△ゆったりとしたグリーン席が並ぶ「サフィール踊り子」の車内

 ▽旅の締めくくりはスーパーカー気分で
熱海駅に着き、事前に買ったプチ・セレブ気分を味わえる切符を取り出した。メタリックブルーを基調に塗った流線形の列車は、午後6時にプラットホームに滑り込んできた。
 イタリアのスーパーカー「フェラーリ・エンツォ」を手掛けた奥山清行氏がデザインし、今年3月14日のダイヤ改正でデビューした全ての座席がグリーン席以上の特急「サフィール踊り子」の新型車両E261系だ。
 東京方面の先頭車両はグリーン席で、1列目の座席は予約済みだったが、空いていた2列目からも流れゆく景色を堪能できる。後ろが空席だったため座席の背もたれを目いっぱい倒し、フットレストを上げると、とても快適な座り心地だ。横浜駅まで通過するため、まるでスーパーカーで疾走しているかのような爽快感を味わえた。
 注文を付けると座席に収納しているテーブルが小ぶりで、弁当箱やパソコンを置きづらいのが難点だ。ただ、リゾート特急なのでパソコンを取り出して仕事をするようなシチュエーションを想定していないのだろう。
 私が買った品川駅までの乗車券とグリーン席特急券は大人4230円。これが終点の東京まで乗ると営業キロは6・8キロしか変わらないのに、5940円と1710円も跳ね上がる。
 ちなみに熱海から品川への東海道新幹線の通常期指定席利用は4270円なので、サフィール踊り子はグリーン車なのに40円安かったことになる。ただし、東海道新幹線の所要時間はわずか26分なのに対し、サフィール踊り子は1時間11分かかった。
 しかし、離島でリゾート気分を味わった帰りだから、打って付けなのがリゾート特急だ。これでいいのだ。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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