旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2020年11月10日更新
旅先のカフェで想うこと
カフェエッセイスト:ベルナドン(安齋)千尋

Coffee x Harvest

ボジョレーヌーボーが有名ですが、イタリアにも今年収穫されたブドウでつくられたワインの解禁日があります。zoom
ボジョレーヌーボーが有名ですが、イタリアにも今年収穫されたブドウでつくられたワインの解禁日があります。
お庭の林檎がいっぱいになって、ハシゴに登る嬉しい小さい秋の収穫は、10月のこと。サマータイムが終われば、すっかり冬支度で、わが家には暖炉用の薪がやってきました。

新米が出回ったり柿や梨がスーパーに並ぶと、父が自慢げに買ってきて、ちぃちゃん甘いよ、と剥いてくれたものです。子供のころは秋が見えるように美味しくやって来たな、と思います。そして今ならわかる、大切な人には美味しいものを食べてもらいたい、食欲の秋。

今年は、甥が幼稚園に入園して初めての運動会があり、おじいちゃんになった父が朝練と称してかけっこをする様子や、ゴールの決めポーズに笑っちゃう可愛いいビデオが送られてきました。秋を楽しみにする気持ちが蘇ってきます。
大好きなカフェのCinnamon bunが食べたくて、美味しくできるまで作り続けて大成功した愛しい香りの日曜日。zoom
大好きなカフェのCinnamon bunが食べたくて、美味しくできるまで作り続けて大成功した愛しい香りの日曜日。
2020年の秋に何を書き残そうかと思いながら、大人になってしまった私も、大好きな人に抱えられて今年収穫されたブドウを使った新酒Vino Novelloを歓びますが、もちろん楽ではない日々のことや仕事、テロやら選挙、コロナのニュースの苦味も私のペースで飲み下しています。

コロナウィルスは、予想通りに冬になったらまた勢い増してやって来て、ヨーロッパでは”ロックダウン”と呼ばれる対策をとっています。レストランやカフェは店内での飲食ができず持ち帰りのみ、映画館や美術館は閉まっています。スーパーは入場規制をしています。また、プロスポーツも観客なし。でも、急かされたりお袈裟に盛り上がったりすることが苦手は私は、社交的である必要がないことや、お洋服や靴をオンラインで選ぶこと、お化粧をしたりヒールを履く回数が少なくなってストレスのない身体が楽なことも正直あります。夕方5時には暗くなっていた土曜日のお買い物の帰り道、オランダによく見られる湖とは呼べない沼地に反射する空の色や、すでにクリスマスみたいな電飾が灯るのを静かだなぁと眺めながら、でも仕事がなくなった友人や会えない家族を思うとやっぱり寂しい年なのだなと思うのでした。
フランスブルターニュ地方の陶器。カフェオレを入れるらしい可愛いボウルは、使えないからインテリアに。zoom
フランスブルターニュ地方の陶器。カフェオレを入れるらしい可愛いボウルは、使えないからインテリアに。
アメリカの次期大統領がほぼ決定したこの週末、女性が選挙権を得たのは男性より遅いとか、黒人には選挙権がなかったとか、すでに非常識すぎる考えを乗り越えて来た歴史のことを思いました。あとから振り返れば、トランプさんの政権だった4年間は、単純にアメリカのことだけを想い強くあろうとしたiconicなビジネスマンによる政治でした。政治的決定は、国内の圧力と外交に左右されると考えられています。戦争時など、国外に敵がいるときには団結してアメリカが一番と言い張る共和党がきっと強くて、でも鎖国的な政策はすでにうまくいかないくらい世界は繋がっていて、みんなの共通の敵であるウィルスや、人権の問題で国内の団結が弱いときは、バランスが取れる人が必要だったという結果と思います。何が正しいということはなく、民主主義は歴史的にみれば間違いを選択したことも多くあります。アメリカがいちばん強くなくなった世界でも、一国の大統領を決めることがこんなに熱い注目を集めることにドキドキした1週間でした。
cinemasia 2020zoom
cinemasia 2020
映画館も閉まっているので、一人でアムステルダムに住んでいたらさみしかっただろうなと思います。ちょっと前のことですが、Cinemasiaというアジア映画祭で、通訳として「Mrs. Noisy」という映画をオランダに紹介しました。実際にあった「騒音おばさん」のニュースに着想を得た、天野千尋監督のオリジナル脚本です。年齢も近く同じ名前の小さいかわいい監督に実際に話を聞くことができました。監督が伝えたいことは、それぞれの立場で他人にはわからない事情がある、ということ。騒音の被害を訴えることが正当だと思った人の立場があり、騒音おばさんにも近所迷惑をしても守りたいものがあり、お互いにわからない正義がありました。同じように、人を殺してはもちろんいけないけど、先月のフランスのテロ事件も、それほどに悔しい何かがテロリストにはあったのかもしれない、と思っています。私は、小さな日常を取り上げた作品に込められたメッセージのことを、その後何度も思い返しています。
カフェでバースデー秋生まれの大切な友達です。zoom
カフェでバースデー秋生まれの大切な友達です。
夏の思い出を飛び越えて冬が来る一歩手前のブログになってしまいましたが、秋生まれの友人の誕生日をバナナケーキにキャンドルを立ててお祝いしました。小さいスタンドのこのカフェは、回転が速くて忙しいのにイライラする人はいなくてみんな楽しそうです。落ち葉をカサカサ踏む音や、一緒に待つ犬の待ちきれまないよという目配せや、テイクアウトのカップから立つ湯気を見ながら、11月のアムステルダムは良い天気で今日も好日であることをありがたく思っています。

カフェ:Ikaria food

https://www.ikariafood.com

映画の紹介:ミセス・ノイズィ

監督:天野千尋

https://mrsnoisy-movie.com
かわいいうちのNekoは、秋からは暖炉の横で寝ることにしたみたいです。zoom
かわいいうちのNekoは、秋からは暖炉の横で寝ることにしたみたいです。
カフェエッセイスト:ベルナドン(安齋)千尋
When you direct is the only time you get to have the world exactly how you want it – Sofia Coppola.

1984年東京生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業
フランス在住コラムニスト、本業はサーキュラーエコノミーコンサルタント

外国で生活することに憧れ、どこにいても埋もれないようにと、京都にある柊家旅館で仲居をしながら日本を修行しました。2010年ロンドンに始まり、たくさんの宝物の出会いを経て、現在フランスはパリから5時間の小さな村に住んでいます。日々の幸せはカフェにあり。コーヒーを飲みながら、季節のこと、映画のこと、やっぱり気になる国際政治、暮らすように旅をする、をテーマに日常のキラキラした瞬間を書き留めています。
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