旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2020年9月30日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

“輝く黒”の新観光列車「36ぷらす3」を激写! JR九州が試運転を本格化

△試運転のため鹿児島線を走る「36ぷらす3」=福岡市で筆者撮影zoom
△試運転のため鹿児島線を走る「36ぷらす3」=福岡市で筆者撮影

 JR九州は9月30日、九州を巡る新しい観光列車「36ぷらす3(さんじゅうろくぷらすさん)」に使う列車(6両編成)の本格的な試運転を始めた。最初の営業列車は10月16日に鹿児島中央駅(鹿児島市)を出発し、4日間かけて博多駅(福岡市)に到着する行程だ。登場まで2週間余り残されているが、トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」の代表的な車体色を意識したとされる“輝く黒”の列車の仕上がりはいかに。その姿をいち早く確認すべく、福岡市内で待ち伏せて激写した。

△「36ぷらす3」の車体に描かれたロゴ=福岡市で筆者撮影zoom
△「36ぷらす3」の車体に描かれたロゴ=福岡市で筆者撮影

 ▽“御法度”に挑んだ黒
 「36ぷらす3」という変わった列車名が論議を呼んでいる。これは九州が世界で36番目に大きい島なのと、お客さまと地域の皆様、JR九州という3者が1つになり、足して39、サンキュー、つまり感謝の輪を広げるというシャレを表現したという。
 JR九州が「D&S列車」と呼ぶ観光列車を導入したのは12番目となり、電車を使うのは初めてだ。「36ぷらす3」に用いる車両は、福岡市の博多と長崎を結ぶ特急「かもめ」の一部列車などで使っている先頭が流線形になった特急用車両787系を小倉総合車両センター(北九州市)で改造した。
 デザインしたのは豪華寝台列車「ななつ星in九州」や、787などを手掛けてきた水戸岡鋭治氏だ。水戸岡氏は「36ぷらす3」の本格改造を始めた今年1月29日、1992年に787系を導入した際に外観を「本当は黒にしたかった」と打ち明けた。だが、蒸気機関車(SL)は別として、特急列車を黒で塗装するのは“御法度”だったためダークグレー色に落ち着いた。
 それから28年が経過し、水戸岡氏の悲願だった黒い787系が実現した。JR九州社内では、九州新幹線鹿児島ルートが2004年3月に新八代(熊本県八代市)―鹿児島中央間で部分開業するまで走っていた特急「つばめ」に787系を使っていたことに引っ掛け、今回の列車開発を「黒つばめプロジェクト」と呼んでいた。
 このことからも、車体を黒く塗るというのは早い段階から固まっていたようだ。私は仮称の「黒つばめ」が正式な列車名になると予測していただけに、「36ぷらす3」と命名されたのを知って腰を抜かした。JR九州の唐池恒二会長にとっても予想外だったようで、「列車名が決まったとの報告を受けた際、聞き返した」(関係者)とされる。

△南福岡車両区に停車中の「36ぷらす3」(左)=福岡市で筆者撮影zoom
△南福岡車両区に停車中の「36ぷらす3」(左)=福岡市で筆者撮影

 ▽まるで“顔見世興行”!?
 小倉総合車両センターでの完成披露から一夜明けた9月30日、「36ぷらす3」はまるで“顔見世興行”のように鹿児島線を南へ進んだ。博多駅に午後1時55分に到着し、約20分間停車した後に再び南下した。
 私は博多駅の1つ南の竹下駅(福岡市)に射程を定め、プラットホームでその姿を捉えようと待ち伏せた。他に撮り鉄の“同業者”が2人いる中で、漆黒の列車が午後2時20分すぎに姿を見せた。塗り立ての黒い車体は光沢を放ち、パンタグラフもシルバーにきれいに塗装されているなど、まるで出来たての新車のようだ。
 ホームでいったん停車したため近づくと、車体側面に付けられた円形のロゴが目に飛び込んだ。九州7県と引っ掛けた7羽のツバメが囲み、2020年に改造された九州の魅力を発見できる列車であることを発信した「DISCOVER KYUSHU 36+3 SINCE 2020」の文字が円内に躍っていた。車内ものぞきたかったが、客室の窓は福岡県の伝統工芸の大川組子の障子が閉じており、視界を遮っていた。列車はすぐに出発したため観念せざるを得ず、残念、無念だ。
 後続の普通電車で後を追うと、南福岡駅(福岡市)の手前の留置線に止まっているのを見つけたため下車した。他の電車が通過後、「36ぷらす3」は南福岡車両区の構内に入線した。JR九州関係者が車両に近づいて仕上がりを確認したり、外観を撮影したりしていた。

△ベースとなったJR九州の特急用車両787系=福岡県桂川町で筆者撮影zoom
△ベースとなったJR九州の特急用車両787系=福岡県桂川町で筆者撮影

 ▽豪雨で出ばなをくじかれる
 「36ぷらす3」は4日間の行程で、1日目となる金曜に鹿児島中央駅から宮崎駅まで走り、2日目は大分県の有名温泉地の別府駅へ向かう。3日目は、駅舎として日本で初めて国の重要文化財に指定された1914年完成の門司港駅(北九州市)を経由して博多駅へ行き、4日目は博多駅と長崎駅を往復する。
 当初は木曜の博多駅から鹿児島中央駅を加えた5日間の行程を予定していたが、7月に九州に甚大な被害をもたらした豪雨で出ばなをくじかれた。途中の第三セクター、肥薩おれんじ鉄道の熊本県内の一部区間が土砂流出などの被害を受けて、運休しているため走れなくなったのだ。
 同区間は「早ければ今年秋にも復旧する」(JR九州関係者)とされ、乗務員の訓練などの準備が整った後、博多―鹿児島中央間も追加した5日間の行程になる予定。
 今回はよく見られなかった車内だが、定員が105人で、全ての客席をグリーン席にした豪華仕様が特色だ。背もたれが大きく倒れる座席や、ソファと机を置いて4人や6人といったグループで利用できる個室を用意し、両端の1号車と6号車は畳敷きのため靴を脱いで過ごす。
 また、特急「つばめ」で運用していた際に名物となっていたビュッフェも復活させ、九州の名産菓子やジュースなどを提供する。また、乗客同士が歓談できる共用スペースも設けている。
 ただ、真っ黒な車体に似つかわしく、“ブラックボックス”のように車内の様子はうかがい知れなかった。中に潜入するミッションを果たすまで、もう少し時間がかかりそうだ。To be continued(つづく)!
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)

△南福岡駅に張り出された「36ぷらす3」のポスター=福岡市で筆者撮影zoom
△南福岡駅に張り出された「36ぷらす3」のポスター=福岡市で筆者撮影
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
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