私たち日本人にとって、憧れだけれど頑張れば手が届くリゾート「ハワイ」。そんなハワイが、世界的に厳しい状況を迎える中で、渡航するのが難しい、すこし遠い存在になってしまっています。(3月26日から入国後の14日間隔離措置が開始されています)
本当に悲しい状況ですが、今は皆で未知のウイルスに立ち向かう時のようです。
では、日本にいながらにしてハワイを想い、感じるためには、どんなことができるでしょうか。ハワイ発のパンケーキ屋さんやスパリゾートハワイアンズに行くのも一案ですが、国内でも地域ごとのルールによって思うように移動や旅行ができない場合も考えられます。ここではハワイ文化を楽しく知ることができる新刊をご紹介したいと思います。
ハワイ在住の作家・ライターで、ハワイ州観光局の「アロハプログラム」講師を務める森出じゅんさんによる「やさしくひも解く ハワイ神話(発行:フィルムアート社)」は、ハワイの島々を創った神様たちのお話を、分かりやすく紹介してくれます。
「神話」というと、ちょっと固いイメージがあるかもしれませんが、本のタイトル通り、やさしく分かりやすく教えてくれるので、すらすらと読めてしまいます。余談ですが、私はこの本を携えて国内の温泉旅行に出かけて、2泊しながらお湯めぐりの合間にあっという間に読破してしまいました。(勿体ないので、本当はもう少しゆっくり読むのがお勧めです)
では、ハワイの神話を知ることで、何が見えてくるのでしょうか?ハワイ島やオアフ島、マウイ島など、ハワイの島々が生まれた経緯や、言い伝えや今に残る文化の起源や背景を知ることができます。「でも、神話って史実とは違うでしょ?」という声が聞こえてきそうですね。そうなんです、史実とは違う場合が大半ですが、事実というよりは、文化を形作ったもの、人々の考え方、自然との向き合い方が見えてくるのです。ハワイに住む魚や動物、ハワイの人々が大事にしているタロイモやパンの木などの食べ物も頻繁に出てきて、いろいろな角度から楽しむことができます。
また、神さま同士の愛情や嫉妬やねたみなど、ギリシャ神話にも通じるような、意外と人間くささのある神さまたちの言動が、驚きでもあり、面白くもあります。
登場する神さまは、大地の女神パパや空の神ワケアなどハワイでは広く知られた存在から、日本でも有名な火山の神様ペレ、ディズニー映画にも登場して一気に知名度が上がった半神(デミゴッド demigod)のマウイなど、個性豊かで魅力的な神々です。
大地の女神パパや空の神ワケアの活躍は、ぜひ森出先生の新著で読んでいただくとして、日本でも絶大な人気を誇る火山の女神、ペレについて少しご紹介したいと思います。ハワイ島に訪れたことがなくても、ガイドブックに載っている黒髪の美女のビジュアルを思い出す方も多くいらっしゃると思います。
「やさしくひも解く ハワイ神話」の中でも少し説明されているように、ハワイ神話に登場する神々はポリネシア全域のあらゆるところで少し名前を変えて登場するらしいのですが、ペレに関してはハワイ特有の神のようです。ペレを怒らせると火山が噴火する、という気性の荒いイメージのある神さまですが、冒険好きで姉妹・兄弟を引き連れて大海を旅したり、一族の住まいを作り出すために火口を掘りまくったり、頼れる姉御キャラでもあるのです。一方、恋多き女のイメージもありますね。そんな多彩な側面を持つ美しく強い女性像が、ペレ人気の秘密なのかもしれません。 今回の新刊の表紙にも、火山の炎を抱くペレが描かれています。
ディズニー映画「モアナと伝説の海」に登場して、一気に知名度が上がった半神(デミゴッド demigod)のマウイも、ハワイ神話に登場しています。映画の中では人間として生まれたマウイが神々に助けられて力を与えられたことから「半神」になったと描かれていましたが、ハワイ神話の中では、神と人間の間に生まれ、生まれながらの「半神」として描かれているようです。ギリシャ神話の半神ヘラクレスのように、人間たちは神よりも自分たちに近い「半神」という存在に愛着を持つのでしょうか。活躍の場が多い気がします。
さて、映画の中のマウイは主人公のモアナと助ける存在でしたが、神話の中でも映画と重なる逸話がいくつか出てくるようです。
人間思いのマウイは空を高くして山脈を出現させたり、自慢の釣り針(フック)を駆使して海から島を釣り上げたり、火の使い方を人間に教えてくれたり、まさに英雄的活躍をします。ディズニー映画の楽曲「You're Welcome(俺のおかげさ)」で、マウイがどや顔で歌い上げる数々の活躍は、神話ともシンクロしています。楽しく聞いているだけでマウイの活躍の歴史を知ることができる名曲だと思います。
このほか、「やさしくひも解く ハワイ神話」ではマウイのさらなる活躍を楽しく読めるほか、ディズニー映画が描くマウイに関するハワイの皆さんの意外な反応などもコラムとして紹介されていて、楽しいです。
以上、ハワイ神話の楽しみ方を少しだけご紹介しましたが、この本ではほかにも現在のハワイの形状を創った神々の活動や、島が形作られた経緯、火口が出来た背景などなど、いまのハワイの姿ができあがるに至ったお話がたくさん含まれています。
今は一時的に遠い存在になっているハワイですが、ハワイを愛する気持ちを胸に、ハワイの皆さんの健康と安全を願いたいと思います。次にハワイを訪れるまでに、ハワイの文化背景を少しだけ深堀りして、次の滞在をより濃いのものにするのも、良いかもしれません。
次回は日本にいながらハワイを深くしることができる、ハワイ州観光局のラーニングサイト「アロハプログラム」の魅力をご紹介します。
森出じゅん(著/文)
発行:フィルムアート社
四六判 232ページ
価格 2,000円+税
ISBN978-4-8459-1900-0
<著者紹介>
森出じゅん (モリデジュン) (著/文)
オアフ島ホノルル在住。横浜生まれ。青山学院大学法学部卒業後、新聞・雑誌・広告のライターとして活動。1990年、ハワイ移住。2012年から、ハワイ州観光局の文化啓蒙プログラム「アロハプログラム」講師。著書に「ミステリアスハワイ」(ソニー・マガジンズ刊)、「ハワイの不思議なお話」(文踊社刊)がある。