映画版ならでは ミニ観光気分を味わう
1月24日に日本公開となったミュージカル映画CATS(キャッツ)。イギリスの詩人T・S・エリオットの作品を原作に、ミュージカルの巨匠アンドリュー・ロイド・ウェバーが作り上げた作品を、トム・フーパーが監督し映画化されたものです。ミュージカル版は1981年のロンドン初演以来、ブロードウェイをはじめ世界各地で上演されている名作です。
自ら『ジェリクルキャッツ』と名乗り、自由に生きる猫たちが主人公で、年に一度だけ開催される特別な『ジェリクル・ボール(ジェリクルキャッツ達の舞踏会)』の一夜を描いています。“ジェリクル”というのは造語で、人間や周りに媚びを売らず、精神的に自立して自由な生き方を選んでいる猫を表しています。飼い猫でも精神的にジェリクルとして生きていれば仲間として認められるようなのですが、街で生きる猫も多いため、ごみ置き場が主な舞台となります。
集まる猫たちは、長老猫がたった1匹だけに与える“新しい猫人生を生きる権利”を求めて、自分こそがふさわしいと、歌やダンスでアピールします。それぞれの猫人生の苦悩や葛藤、過去への執着と解放、喜びなどが表現され、それを観る人間オーディエンスにも感動や示唆を与えてくれる、という作品です。猫が主人公ですが、人間の生き方や決断、どう生きるのか、どう生きたいのかという大きなテーマにも通じています。
舞台版のキャッツでは、ロンドンの街中のごみ置き場を再現した舞台セットで、主人公の猫たちのサイズにあわせて、ゴミのセットが巨大サイズで置かれた、とてもシンプルなものです。セットは最初から最後まで大きな変化はなく、小物を使った演出やライティングだけでシーンに合わせた情景を表現しています。
ミュージカルが映画版として制作されると、毎回いろいろな賛否両論の声が巻き起こります。ですが、映画版ならではの楽しみとして、舞台では表現しきれなかった情景や主人公たちを取り巻く街の雰囲気が映像として追加され、作品の世界がより鮮明にオーディエンスに届くという点があると思います。
映画版キャッツでは、ごみ置き場もきちんと出てきますが、フィーチャーされる猫やその楽曲にあわせてロンドンの街並みがチラホラと出てきます。ロンドン好きには観光の視点からも楽しめる内容になっていますので、最近のロンドンの街並み写真とあわせて、登場する場所を少しご紹介したいと思います。
繁華街の路地裏と劇場
映画の中にはロンドン中心部の路地裏や、劇場街、繁華街近くのバーやショップも少し登場しています。一瞬ですがロンドン・タクシーも見られました。
舞台版のキャッツでは垣間見ることのできないロンドンの街並み。美しいロンドンを映画版で味わってみてはいかがでしょうか。
”映画ならでは”の楽しみがもう一つ
舞台版にはなく、映画ならではのもう一つの楽しみは、自身も猫役として映画に登場するテイラー・スウィフトが、アンドリュー・ロイド・ウェッバーと共に制作した新曲「ビューティフル・ゴースト(Beautiful Ghosts)」です。
映画の中では白猫のヴィクトリアを演じるフランチェスカ・ヘイワードが切なく歌い、エンドロールではテイラー自身の歌声が流れます。キャッツを代表する名曲「メモリー」と、まるで対を成すような歌詞は、美しく素晴らしいの一言です。往年のキャッツファンも、きっと納得してくれる新曲ではと感じました。
展開が早く、ダンサーの踊りとシンガーの歌唱力で走り切る感覚の舞台版には、もしかしたらフィットしないかもしれませんが、映画版ではこのエモーショナルな新曲が繊細さとインパクトを与え、物語の深みが増しています。
ロンドン観光気分と深みを増したストーリーを同時に愉しむことができる映画版キャッツ。とても楽しい1時間50分でした。
*写真は2019年12月時点のロンドンです。映画版では架空の看板が出てくるなど、実際の姿そのままではありませんのでご了承ください。(CASINOがCATSINOになっているなど、猫つながりの遊びを見つけるのも楽しいです)