トラベルコラム

  • 【連載コラム】イッツ・ア・スモール・ワールド/行ってみたいなヨソの国
  • 2013年3月31日更新
夢想の旅人=マックロマンスが想い募らず、知らない国、まだ見ぬ土地。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス

ツール・ド・フランス

all photos by Yoko Iwabuchizoom
all photos by Yoko Iwabuchi
以前ここでトライアスロンのことを書いたことがあります。29歳の時に突然レースに参加したってお話ね。30代の前半はトライアスロンを中心に生活していたと言ってよいくらい夢中になりました。

トライアスロンは名前の通り3つの競技が合わさった複合スポーツ(水泳、自転車、マラソン)。3つの種目の中で僕が一番気に入ったのが自転車です。

自転車の素晴らしいのは、自転車が乗る人間に対してとてもフェアだってところです。貧しい者も、身分の高い人も、政治家も、受刑者も、売春婦も、パパラッチも、労働者も、悩める者も、金持ちも、医者も、カラマーゾフの兄弟たちも、ミックジャガーも、マックロマンスも、同じ自転車に乗ってペダルを1回転させた時に進む距離はみな同じ。他ではなかなかそういう風にはいきません。同じニューバランスを履いても歩幅は人によってまちまちですもの。

あ、詭弁ですか?それは失礼。僕はもともと「浮気した夫の言い訳」みたいなセンテンスが大好きなんです。「宇宙人に拉致されて記憶を抜かれて、ふと気がついたら女の子が上に乗っかってたんだ。」とかね。
さておき、ひとくちに自転車競技と言っても様々で、競輪のようにトラックの中を猛スピードで走るのから、飛んだり跳ねたり回転したりのアクロバティックなの、山の上から荒道を下るダウンヒル、自転車サッカーなんてのもあります。僕が好きなのはロードレース。呼んで名のごとく自転車で道路を走るだけの最もシンプルな競技です。(あ、シンプルな中にものすごく複雑で奥の深い要素がたくさんつまってるんですけど、それはまた別の機会にね。長くなってしまうので。)

自転車ロードレースの最高峰は何と言っても「ツール・ド・フランス」。アルプスやピレネーの山々を越えながら町から町へフランスを一周するレース。走行距離は約3週間で3000km以上と、自転車に興味のない人には全く意味不明の過酷なイベントです。ヨーロッパではサッカーやF1と肩を並べるぐらい人気があるスポーツなんだそうな。ファンはレース観戦のために前日から山に登ってテントや車の中で夜を過ごし、お目当ての選手が峠を登って来るのを待つ。選手を見れるのは一瞬だけど、たぶんそこまでのプロセスも含めて全部が楽しいんだと思います。
ちょっと調べてみたら、「ツール・ド・フランス観戦ツアー」みたいのもありますね。でも、自転車乗りのはしくれとしてはやはり、自走、つまり自転車で、選手と同じコースを走って峠の頂点に到達し、レースを待ち受ける。ってのをやってみたいものです。苦悩を体感することで、まるで自分がレースに参戦しているかのようなエクスタシーを得られるんじゃないかしら。
実際に峠に挑んでみたら、とても克服できるレベルの勾配じゃなかったりして。途中でへこたれて自転車を放り出し、道ばたでぜーぜー息を切らしながら寝転んでいるとだな、そこを偶然女の子が通りかかるわけだ。えーと、彼女は山の村落に住む農家の娘で、母親に頼まれて隣の村の花屋から花を買って帰るところ。ジャスミンティーみたいな香りがするのは彼女が手に持った白い花かしら。
「もし旅人よ。よければ我が家で休息なさればいかが?」なんてね。一晩寝たらすっかり回復、かくまっていただいたお礼に畑の仕事を手伝います。「お、おぬし、なかなかスジがいいじゃないか。よかったら収穫シーズンまでここにいて働いてもらえんかね。」ってんで僕はその夏を、名もないフランスの山村ですごすんだ。たぶん娘と恋に落ちるんでしょうね。どうでしょうね。その場合でも自転車はちゃんと役に立ちます。

隣村まで花を買いに行くのが僕の役目。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス
マックロマンス:プースカフェ自由が丘(東京目黒区)オーナー。1965年東京生まれ。19歳で単身ロンドンに渡りプロミュージシャンとして活動。帰国後バーテンダーに転身し「酒と酒場と音楽」を軸に幅広いフィールドで多様なワークに携わる。現在はバービジネスの一線から退き、DJとして活動するほか、東京近郊で農園作りに着手するなど変幻自在に生活を謳歌している。近況はマックロマンスオフィシャルサイトで。
マックロマンスオフィシャルサイト http://macromance.com
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