旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2019年10月23日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

ロシア貴族が憧れたフランス?  モスクワの小ヴェルサイユ『クスコヴォ』へ ~二度目のロシアはモスクワの旅 Vol.4

水に映る姿が美しい建物は「グロット(洞窟)」と呼ばれるイタリア式のドーム建築。内部の天井画も見応えがあります。zoom
水に映る姿が美しい建物は「グロット(洞窟)」と呼ばれるイタリア式のドーム建築。内部の天井画も見応えがあります。
モスクワ郊外に「小ヴェルサイユ」と呼ばれる宮殿があると聞き、訪れました。

『Кусково(Kuskovo;クスコヴォ)』は、18世紀にシェレメーチェフという伯爵により建てられたもの。広大な敷地内に大小さまざまな国の建築様式を模した宮殿と庭園が点在し、モスクワに唯一残るフランス風庭園があることから、「小ヴェルサイユ」「北のヴェルサイユ」などと呼ばれるようになりました。

約40年をかけて完成した夏の迎賓館
現在、国立歴史公園と博物館として一般公開されている『クスコヴォ』。シェレメーチェフ伯爵は当時の著名な建築家や彫刻家を集め、着工から約40年の年月をかけて完成させたそうです。
左上から、礼拝堂、イタリア館と呼ばれるゲストハウス、野外劇場の一部、スイスの山小屋風建物も。zoom
左上から、礼拝堂、イタリア館と呼ばれるゲストハウス、野外劇場の一部、スイスの山小屋風建物も。
伯爵はここを夏の離宮として利用し、ヨーロッパ各国の王族や皇帝を招き、夜な夜な華やかな舞踏会や晩さん会でもてなしたのだそう。その名残を留めるのが、建物全体が鮮やかなイチゴ色に統一された大宮殿です。豪華なダイニングルーム、外観と同じイチゴ色のインテリアでまとめられたゲストルームのほか、ひときわ目を引くのが舞踏会場。「鏡の回廊」と名付けられていて、パリのヴェルサイユ宮殿を訪れたことがある人なら、絢爛豪華な内装で有名な「鏡の間」を模していることに気づくでしょう。
一番の見どころは、大宮殿内の舞踏会場。フランスのヴェルサイユ宮殿にある「鏡の間」を彷彿させます。zoom
一番の見どころは、大宮殿内の舞踏会場。フランスのヴェルサイユ宮殿にある「鏡の間」を彷彿させます。
もちろん、広さも内装の豪華さもご本家とは比べようもありませんが、伯爵のヴェルサイユに対する憧憬の想いが込められているように見えます。

世界の宮殿巡りの気分を楽しめる庭園
敷地内にはほかにも、「エルミタージュ」「オランダ館」「イタリア館」「ドイツ館」などと名付けれた建物があり、さながらヨーロッパの宮殿のテーマパークのよう。いろんな国を巡った気分になれ、これはひょっとしたら遠路はるばるモスクワの地を訪れたゲストを飽きさせないための、伯爵ならではのサービス精神だったのかもしれないと思えてきました。
大宮殿内の一室。かわいらしいイチゴ色に統一され、客間として使われていたそう。zoom
大宮殿内の一室。かわいらしいイチゴ色に統一され、客間として使われていたそう。
池の周りには遊歩道が巡らされ、ボートや水上自転車の貸し出しもあります。観光客とともに地元の人と思しき犬連れの人も多く、芝生の上で日光浴をしたり、水に飛び込んで泳ぐワンコの姿からは、束の間のモスクワの夏を楽しんでいる様子が伝わってきました。
池の周りの散策や、夏の間は池でボート遊びも楽しめます。zoom
池の周りの散策や、夏の間は池でボート遊びも楽しめます。
敷地内の作業小屋らしき建物の近くで見つけたのが、ネコの親子。子猫は生後2~3カ月くらいでしょうか。近くに大きな鶏肉がのったトレイがあり、庭園内のスタッフたちがお世話をしているようです。ネコの親子がこれから訪れるロシアの厳しい冬を生き延びられるのかちょっと心配になりましたが、心優しいスタッフたちがきっと温かい寝床を用意してくれるに違いありません。
庭で見つけたネコの親子。スタッフからご飯をもらっているようです。zoom
庭で見つけたネコの親子。スタッフからご飯をもらっているようです。
モスクワの短い夏を楽しむ散歩道
『クスコヴォ』まではモスクワの中心部から地下鉄7号線で「リャザンスキー・プロスペクト(Рязанский проспект)」駅まで行き、133・208番のバスで約10分。バス停表示も案内もロシア語のため、どこで降りたらいいのか不安になりますが、ほとんどの人がここで下車するのでついて降りれば迷うことはありません。乗客が少ない場合、運転手さんに「クスコヴォ!」と伝えておけば教えてくれます。入園料は建物ごとに100~250ルーブル、さらに写真を撮りたい場合は別料金が必要です。これも表示がロシア語のみのため分かりにくいのですが、メインの大宮殿(Palace)だけ購入するか、全部を見学できる共通券を700ルーブル(約1,200円)を買うのが手っ取り早く簡単。共通券は窓口で「ALL」と言い、写真を撮りたいならカメラを見せて追加料金を払えば、入場券とともに撮影許可を示すリストバンドを渡してくれます。支払いはクレジットカードでOK。
『クスコヴォ』にはモスクワの中心部とは異なるのんびりとした空気が流れています。真冬は池の水も凍ってしまうとのことなのでおすすめできませんが、夏から秋のモスクワを訪れたら、のんびりと散策を楽しんでみてはいかがでしょうか。

●Кусково(Kuskovo;クスコヴォ)
Ulitsa Yunosti, 2 стр.1, Moskva
開館:水~日曜10:00~18:00
kuskovo.ru/en



Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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