旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2019年10月21日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

美しく壮大、色彩感覚にも魅了されるロシアの建築物 ~二度目のロシアはモスクワの旅 Vol.3

ロシア正教会の象徴でもある玉ネギ型の屋根を掲げた『ワシリー大聖堂(ポクロフスキー聖堂)』。zoom
ロシア正教会の象徴でもある玉ネギ型の屋根を掲げた『ワシリー大聖堂(ポクロフスキー聖堂)』。
建築物の美しさが印象的なモスクワ。一つひとつのスケールがとても大きく、ひとつの建物が日本の感覚でいうと通りワンブロック分くらいあります。しかも色彩感覚が独特。隣接する東欧や中国とも異なり、壮大でありながらどことなくかわいらしいことも特徴です。

天に向かってそびえる、巨大な玉ネギ屋根の秘密
ロシアの教会の特徴は、玉ネギ型のクーポラ(屋根)に金、オレンジ、ブルーなどのカラフルな彩色。代表的な教会が赤の広場に面して建つ『ワシリー大聖堂(ポクロフスキー聖堂)』です。ユネスコの世界遺産に登録されているこの教会は、ロシアで初めて皇帝を名乗ったイワン4世(別名、イワン雷帝)の命により対モンゴル戦の勝利を記念して建立され、1561年に完成しました。
ワシリー大聖堂の内部。9つに分かれた聖堂それぞれに、異なる装飾が施されています。zoom
ワシリー大聖堂の内部。9つに分かれた聖堂それぞれに、異なる装飾が施されています。
それにしても、戦争の勝利を記念して建てられた教会が、なぜおとぎの国から抜け出してきたような外観なのか気になりませんか。もともとロシアの教会は4世紀ごろ、ローマ帝国から伝わってきたビザンチン様式で建てられ、屋根も平らか丸いドーム型が主流だったのだとか。しかし、冬に積雪があるこの地では屋根に雪が積もって建物に負荷がかかってしまうことから、自然に落雪しやすいあの形になったといいます。また、ロウソクのような形は祈りが天に伝わっていく様子をイメージしているそうです。
ワシリー大聖堂から望む赤の広場。右側のクラシックな建物は『グム百貨店』、左側の二つの塔を持つ赤い建物は『国立歴史博物館』。zoom
ワシリー大聖堂から望む赤の広場。右側のクラシックな建物は『グム百貨店』、左側の二つの塔を持つ赤い建物は『国立歴史博物館』。
色彩にもそれぞれ理由があり、聖書にある記述をもとに塗り分けられているのだそう。例えば、金色は天の栄光、青い天井に散りばめられた星は聖母を表し、黒は修道士のシンボル。このワシリー大聖堂は9つの教会の集合体。ひときわ高くそびえる主聖堂の周りを8つの小聖堂が囲んでいて、内部に入ると迷路のように別れた小部屋にそれぞれ異なる装飾が施されいるので、その構造がよく分かります。
内壁を覆うフレスコ画、精巧な装飾とともに目を引くのは、唐草に小花を散らした壁の模様のかわいらしさ。屋根の形と色彩にはこの地ならではの気候と宗教的な理由があるとはいえ、やっぱりロシアの人はかわいいもの好きに違いないと確信しました。

赤の広場を取り囲む建築物もそれぞれ独創的です。広場の片側に延々と巡らされているのはロシアの政治、文化、宗教の中心『クレムリン』の城壁。二つの塔を持つまっ赤な建物が『国立歴史博物館』、ゴシック風のお城にも見える建物は、ロシア最大の国立デパート『グム百貨店』です。

広すぎて地図があっても迷子になる、クレムリン
赤い城壁に囲まれた『クレムリン』内には現在でも大統領府が置かれ、政府関係の建物のほか、いくつもの聖堂や宮殿、ミュージアムが点在しています。ここがとにかく広くて、入り口を探すだけでもひと苦労。さらに内部には似たような建物がいくつもあり、地図を片手に歩いていても目的の建物を探し出すことが難しく、散々歩き回りました。
『赤の広場』に面した城壁の向こうが『クレムリン』。庭園風の内部へは自由に出入りでき、レーニン廟の前に立つ衛兵の姿を見ることができます。女帝エカテリーナが実際に着用したドレスなどを展示する博物館『武器庫』はぜひ訪れたいスポット。zoom
『赤の広場』に面した城壁の向こうが『クレムリン』。庭園風の内部へは自由に出入りでき、レーニン廟の前に立つ衛兵の姿を見ることができます。女帝エカテリーナが実際に着用したドレスなどを展示する博物館『武器庫』はぜひ訪れたいスポット。
その中でチケット売り場はガラス張りのモダンな建築なのでひと目で見つけられます。すべての内部を見学する時間がない場合でも、ぜひとも訪れてみたいのが『武器庫』と呼ばれている歴史博物館。兵器を保管する施設として建てられたため物騒な名前が付けられましたが、武器以外にも12世紀から18世紀のロシアの工芸品、金銀の器や装飾品、馬車、家具、衣装などを展示しています。

金銀をふんだんに使い、贅を凝らした工芸美術品や食器、王の宝飾品の豪華さからは、当時のロシア帝国の勢いと財力がよくわかります。きらびやかな衣装のなかでも興味深かったのは、肖像画と並んで展示されたエカテリーナ2世のドレス。深くくびれたウエストと豊かな胸周りから彼女の体格がリアルに伝わってきて、歴史に名を残す女帝が目の前に現れたような錯覚を覚えました。

ロシアが世界に誇るバレエとオペラの殿堂、ボリショイ劇場
『ボリショイ』といえば、日本ではサーカスもよく知られていますが、ここロシアではバレエとオペラ上演で有名な『ボリショイ劇場』のこと。この場所に劇場が建てられてのは1780年ごろ。のちに焼失、再建を繰り返し、現在の建物は2000年代に入ってから大改修工事によって完成したものだそうです。正面に鎮座する円柱の高さは約15m、建物全体は50mの高さがあり、ひときわ存在感を放っています。
ライトアップされた夜の姿も美しい『ボリショイ劇場』。その右は、『グム百貨店』と並ぶもうひとつの人気デパート『ツム百貨店』。zoom
ライトアップされた夜の姿も美しい『ボリショイ劇場』。その右は、『グム百貨店』と並ぶもうひとつの人気デパート『ツム百貨店』。
滞在していたホテルが目の前だったこともあり、1日に何度もこの劇場の前を通りながらもそのたびに立ち止まり、優美さとともに威厳を備えた姿に見とれました。滞在中に上演されていたのは、古典バレエの名作『SWAN LAKE(白鳥の湖)』。訪れたのが日曜日夜だったため大劇場での上演がなかったことが残念でしたが、それでも隣の小劇場で別の演目を鑑賞し、「モスクワでバレエ鑑賞」の目的は十分に達せられました。
夜の街歩きも楽しいモスクワ。深夜0時を過ぎても華やかなイルミネーションが通りを彩ります。zoom
夜の街歩きも楽しいモスクワ。深夜0時を過ぎても華やかなイルミネーションが通りを彩ります。
ひと足早いクリスマス気分を楽しめる夜のモスクワ
モスクワを訪れたのは、8月の初め。夏のモスクワは昼間の気温が30℃くらいまで上がることも珍しくないようですが、滞在中は冷え込む日が多く、最低気温が10℃くらいまで下がる日もありました。体感温度は日本の10月末~11月くらい。しかし、夜のライトアップやイルミネーションが目を楽しませてくれ、一足もふた足も速いクリスマス気分に浸ることができました。モスクワを訪れたら夜の街の散策もぜひ楽しんでみたいもの。ただし、これからの季節は万全の防寒対策が必要なことは、いうまでもありません。
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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