旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2019年8月15日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

ビジネス街で江戸情緒を楽しむ、星のや東京「東京・夏夜の宴」

大手町仲通りに面した『星のや広場』。9/9までは納涼広場となり、宿泊者には浴衣の着付けサービスも。zoom
大手町仲通りに面した『星のや広場』。9/9までは納涼広場となり、宿泊者には浴衣の着付けサービスも。
高層ビルが林立する大手町。現在は日本有数のビジネス街として知られますが、江戸時代は武家の上屋敷が並び、独自の伝統芸能や娯楽を楽しむ人たちが集った場所。お城の正門前に栄えたことが地名の由来であることを考えれば、当然といえば当然です。そんな時代の夏の楽しみ方を体験し、江戸文化の魅力を知ってもらおうと催されたのが、大手町に建つ日本旅館『星のや東京』の「東京・夏夜の宴」。このエリアの夏の風物詩となっている「大手町縁日」の開催に合わせ体験してきました。

この日は夕方近くになると昼間のオフィス街の雰囲気が一転。『星のや東京』がある大手町仲通りに提灯が灯され、どこからか浴衣姿の女性がたくさん集まってきています。
「大手町のOLさんたち、今日は浴衣でご出勤?」
かと思ったら、宿泊ゲストには浴衣の貸し出し&着付けのサービスが、近隣のオフィスビルでも有料でレンタル&着付けのサービスが行われていたのだそうです。通りの両側には屋台の準備も進められていました。
季節に合わせ毎月、しつらえが変わる館内。zoom
季節に合わせ毎月、しつらえが変わる館内。
館内でお抹茶と和菓子のおもてなしを受けた後、「紋切り遊び」の体験を。江戸時代に生まれた「紋切り」とは、紙を折って切るだけで様々な模様を表す遊び。もとは平安時代、貴族や武家が家柄や地位を示す家紋から生まれたものですが、江戸時代になると庶民も使うようになったのだとか。四季折々の風景や動植物、暮らしの道具などをモチーフに、提灯やのれん、風呂敷などに紋切りを施して楽しんでいたようです。私たちの身近なところでは、「障子や襖の小さな破れを補修する花の形も紋切りの一種」と教えてくださったのは、三代目・紋章上絵師の波戸場承龍先生。そういえば子供のころ、花の形に切り抜いた和紙を障子にせっせと貼っていた母の姿を思い出しました。
お抹茶と『虎屋』の職人による作り立ての和菓子が振る舞われました。zoom
お抹茶と『虎屋』の職人による作り立ての和菓子が振る舞われました。
紋切りは細かな部分のハサミ使いが難しく、模様がうまく切り抜けずにバラバラ事件に……。結局は波戸場先生の手を借りることになってしまいましたが、普段こんな風に手仕事に集中する機会はあまりないこともあり、とてもいい気分転換になりました。紋切りの図案集もあるとのことなので、現在でも根強い人気がある遊びの一つのようです。

紋切り指導は、三代目・紋章上絵師の波戸場承龍先生。zoom
紋切り指導は、三代目・紋章上絵師の波戸場承龍先生。
すっかり日が落ちたころ、「畳の間」の舞台で雅楽の生演奏が始まりました。演奏を担当するのは、音大で雅楽を学ぶ学生や若手演奏家による「日本伝統舞台芸術」所属のかたたち。笙や篳篥(ひちりき)に合わせ優雅な舞の後に琵琶の演奏も。初めて目の前で実物を見た琵琶は想像していたよりずっと大きく、おなかの底から響いてくる力強い音色にも圧倒されます。
雅楽の生演奏。通常、金・土・日曜の夜、宿泊ゲスト向けに催されています。zoom
雅楽の生演奏。通常、金・土・日曜の夜、宿泊ゲスト向けに催されています。
館内で江戸情緒を楽しんだ後、屋外の縁日を冷かしに出かけました。通りの両側には屋台のほか、水鉄砲や射的といった祭りならではの遊びが並びます。特設ステージで披露されたのは、お正月の縁起物の曲芸として人気がある傘回し。通常、『星のや東京』の宿泊ゲスト向けの催しが、この縁日に合わせ屋外で行われたのです。室内ではできない水を使った芸もあり、集まった人たちから大いに喝采を浴びていました。さらに、浅草あたりでよく見かける人力車も登場。高層ビルの間を縫って走る人力車の姿を想像するだけで、楽しくなってきますね。
普段は『星のや東京』の館内で披露されている伝統曲芸の傘回しや、人力車タクシーも登場。zoom
普段は『星のや東京』の館内で披露されている伝統曲芸の傘回しや、人力車タクシーも登場。
2時間半ほどの短い滞在ながら、ビジネス街にいることを忘れ、子どものころ出かけた夏祭りの縁日の記憶も蘇ったひととき。
「東京・夏夜の宴」は8月17日までの開催ですが、『星のや東京』ではそれぞれの季節に合わせ江戸文化や伝統芸能を体験できるアクティビティが用意されているとのこと。東京で暮らしていると都内で宿泊する機会はほとんどないけれど、東京のホテルに滞在し改めて日本の文化や芸能を体験するのは、遠くへ出かけるよりずっと贅沢な旅になるのかもしれません。

●星のや東京
東京都千代田区大手町1-9-1
TEL 0570-073-066(星のや総合予約)
https://hoshinoya.com/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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