トラベルコラム

  • 【連載コラム】イッツ・ア・スモール・ワールド/行ってみたいなヨソの国
  • 2013年2月26日更新
夢想の旅人=マックロマンスが想い募らず、知らない国、まだ見ぬ土地。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス

イル・ド・レ エスプリの利いた"かもめ"

All photo by Yoko Iwabuchizoom
All photo by Yoko Iwabuchi
僕は生活のおよそ80パーセントを自宅から半径2kmのサークル内で過ごしていて、日常的に外国人観光客の姿を見かけることはほとんどないのですけど、たまに用があって都心に出てみると、あっちにもこっちにもツーリストらしき外国人の姿。さすが東京だなあ。なんて今さらながら感心しちゃったりしてね。ヨーロッパの人たちはどこか、何となく日本人観光客を小馬鹿にしているようなところがあるのですけど、日本に来ている彼らだって、よく観察してみると何だか行動が滑稽だったりします。良くも悪くも外国の方々には、「他の国に行ったらそこの国のやり方に従う。」というような考えはないように見えますね。「ちょっと殻を破って、現地人の行動を真似してみよう。」なんてことを考えるのは日本人だけなのかも知れません。

以前、渋谷や原宿のカフェやバーで働いていた時期があって、当然そのような場所には海外からのツーリストも多数、来客していました。一度、アメリカの女性が来られた時に、何かのことで「日本ではこうやるんですよ。」ってマナー的な内容のアドバイスをしたら、怒り出しちゃってね。日本ではどうか知らないけどアタシはアメリカ人。アタシはアタシのやり方でやるんだ、もうこの店には二度と来ない。なんてね。観光客なんだからどっちにしてももう二度と来ないんだけど、はあ、余計なこと言わなきゃよかったって反省したのを記憶しています。
けっこう多いのが一度気に入ると何度も来る人。観光旅行中の限られた時間の中でいろいろ行きたい店もあるだろうし、食べたいもの、飲みたいものだってたくさんあるはずなんだけど、朝のコーヒー飲みに来て気に入って、ランチタイムにまた戻って来て、食べ終わって出てったと思ったらまたティータイムに戻って来て、ってなツーリストは珍しくありませんでした。そういう人って最初のお会計の時点で何となくわかります。あ、また来るな。って何でわかるのかわからないんだけどわかるんだ。

あと、ずっといる人もいます。朝食に来て気に入って、コーヒーおかわりしてるうちにまたお腹が空いて、フライドポテトとかチーズとか軽いおつまみを注文。すると今度は喉が渇いてビール。ごくごく飲み干して、お次はワイン。そんなことしてるうちに最初はひとりだったのが2人になり3人になり、家族全員集まってきちゃって、大ランチ大会に。食べ終わったら終わったで「グラッパはある?」なんてね。結局、入れ替わりで出たり入ったり暗くなるまでうだうだ飲み食いしてて、たかがカフェで何万円も支払ってニコニコ上機嫌で帰って往く。そういうありがたいお客はたいていはイタリア人?旅行でわざわざ極東までいらして、まる一日カフェで過ごすだなんて、時間もったいないような気がするんだけど、ご本人たちは全くそういう風には考えないのでしょう。
イタリア人の真似をするわけではないけれど、そういう旅のまったり時間のすごし方も悪くないように思います。限られた時間。何もかもすべてを体験できるわけではないもんね。すごく気に入った場所を見つけたら、他のことは気にしないで、そこでの良い時間を思う存分満喫する。あれこれあっちこっちぎゅうぎゅうに詰め込んだ旅よりも、旅行が終わった後の満足度はずっと高いかも知れません。

ええとね。行きたいのはレ島。カタカナで書くとだな。イル・ド・レ。イルが島って言う意味なんでしょうね。さて、どんな土地なのでしょうか、さっそくウィキでチェック。えーと、大西洋に浮かぶ長さ26kmの島ですって。ふむふむ。冬は人口1万6千人。夏は16万人!って、10倍じゃないですか。こんな所には絶対シーズンオフに行くに限ります。偏屈あまのじゃくの僕としては。島と言っても現在は橋がかかっていて本土と行き来できるそうです。フランス有数の観光地。こんな島にすばらしいまったりスポットがないわけがない。
せっかく訪れたレ島は生憎の曇り空。それでも僕ら(旅行中の僕の傍らには何故か常に美女がいるのです。)は頑張ってコートの襟を立て、海の風を受けながら、港に船が入って来るのとか、ほっかむりをしたお婆さんが歩いているのとかをぼんやりと眺めながら、プレートの魚にナイフを入れ、せっせと口に運び、唇についたオリーブオイルでワイングラスをぎとぎとにしている。「美味しいね。」「うん、美味しい。」「お醤油があったらもっとよかったかもね。」「そうかもね。」「ねえ。」「ん?」「私のこと好き?」「好きだよ。」「じゃあキスして。」「うん。」

かもめが飛んでいる。フランスのかもめはやっぱりどこかエスプリの利いた顔つきをしている。

ほら、行きたくなったでしょ?
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス
マックロマンス:プースカフェ自由が丘(東京目黒区)オーナー。1965年東京生まれ。19歳で単身ロンドンに渡りプロミュージシャンとして活動。帰国後バーテンダーに転身し「酒と酒場と音楽」を軸に幅広いフィールドで多様なワークに携わる。現在はバービジネスの一線から退き、DJとして活動するほか、東京近郊で農園作りに着手するなど変幻自在に生活を謳歌している。近況はマックロマンスオフィシャルサイトで。
マックロマンスオフィシャルサイト http://macromance.com
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