旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2019年3月9日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x Crocus

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Sunday pancake brunch, raining Amsterdam
@Scandinavian Embassy

ひな祭りの日曜日、もうすぐ春が来るのでしっとり雨が降っています。アムステルダムから離れていた1年があったからこそ待ちわびていた想いは一入で、先週ジョギング越しにクロッカスを見つけた時にはわぁと声に出していました。嬉しい。何年も住んでいたのに、知らなかったけれど、オランダの学校では春休みのことをクロッカスホリデーというらしく、新しい可愛らしい名前を知った喜びも黙っていられません。

I like this feeling, the beginning of spring-
アムステル川の東岸、手を繋いで自転車で走りながら、先を越されて言われたこと。彼がまったく同じことを思っていたことが嬉しくて、ドキドキして声が出なかった帰り道のことを、この季節が来るたびに思い出すのでしょう。
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French blue、 love at the first sight

今日、大好きなカフェに来た理由は、フィンランド人のお友達がちょっと遅れてバースデーパンケーキブランチを開いてくれたのでした。青い目、ブロンド、真っ白い肌の彼女は、ちょっと旅行に行って陽灼けをしたら顔にいっぱいそばかすができてチャーミングです。本当は、今日だけ限定のPancake Sunday に来たのに、Cinnamon Bunにキャンドルを立てて、お誕生日をお祝いしてくれる幸せな日曜日。

雨が降っていても、全然ハッピーなまま近くのアンティークのお店へ。フランスから仕入れているグラスたちが可愛くてあれもこれも欲しいけど、金色の細いスプーンがついたお砂糖入れに一目惚れしてお買い上げです。大人になって良かったな、とふと思ったのでした。おうちの中の小物や、お洋服がしっくり好きなものだけになってきたこと、生活の環境が自分に合ってきたことを感じたのです。

今年、私はFrench Blueのマフラーを買いました。大学生の頃、憧れていた大使秘書の女性が、私は大使館でインターンをしていたのですが、好きな色はFrench Blueと答えたことが心に残っていました。聡明で、ユーモアがあって、上品なその色の手帳やカーディガンを合わせられる大人なセンスに憧れていたこと。真似をしたかったのではなく、自分がこの色を身につけられること、美しいと思える時間を過ごしている大人になったことに自信があるのでした。もちろん、至らないことばかりだし、ちっとも落ち着いたことなどないのだけれど、大切に好きなものを選んで来たなと思うのです。同様に、きっといつかおばあちゃんになってからかもしれないけど、小さいカフェを開くことが、しゃかりき追いたい夢ではなく、きっとどこか人生の先にある気がして旅先で過ごしたカフェやペイストリーのこと、積み重ねてきたカフェブログのことを愛おしむことができる歳になりました。
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A being’s only reason for being is being. In other words, to maintain its structure, it must stay alive or there is no being. - Henri Laborit

Mon oncle d’Amérique (1980)
誕生日のすぐ後に、とても印象的なフランス映画を見ました。詩的な描写を使って、動物の脳の行動パターンを実験的に説明するというユニークな設定ですが、その年のカンヌで審査員賞を受賞しています。植物は、移動をする必要がありません。太陽の助けを借りて自分の中で栄養分を生成しています。ところが人を含め、動物は消費することで生きています。動くことを強いられているので、植物や他の動物を食べて場所から場所へ動かなければなりません。動くために神経を通してシグナルを発する必要があり脳が発達しました。映画の中で、学者は脳の3つの層を説明します。原始的な欲求の層、記憶や感情を刺激として記憶する層、それらをつなげて想像したりできる層、これはまた人間が特に発達させた層で、大人になる程、社会という環境に適応するように感情や欲求を抑える働きをします。

We must realise that at birth the brain is still immature. Therefore, first 2-3 years of life, a person’s experience of surroundings is indelible and will play very important role, influencing his behaviour for the rest of his life.
We should also realise that everything which affect our nervous system after birth or even in the womb, these stimuli which act upon us come essentially from others.

3歳の甥をみていると、私の弟だったのに”父”になった彼から全身に愛情を受けて、大切に育てられている様子に目を細めます。小さいことが一つ一つできるようになり、嬉しそうに両親を見上げる顔や、何かおもちゃを一生懸命触っていること、大泣きしていても、何が怖いの?と聞いてくれる母親がいて、「ヤギさんコワイー」と必死で泣いているのを見守る父親がいます。ヤギさんを何で覚えたのか、あの感情をコワイと言うようになったのか、成長は愛おしいものです。一方で自分も、温かい目で守られて人に関わってきたから、人が信用できて、恐れずにいろんな国の人や文化を受け入れられることができるようになったのでしょう。いろんなことを考えさせられる映画でしたが、私は両親に感謝をしたのでした。
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2019年バースデー、私はLativiaの首都Rīgaにいました。いろんな縁を辿って、友人が住んでいることから、急に強く惹かれて選んだ旅先です。初めて”バルト三国”と呼ばれる旧ソ連の面影のある街へ。友人からは、人々が感情を顔に表さない冷たい国と聞いていましが、私は素朴な人柄や古風さを見ました。ロシア正教会は、新しい西欧の教会よりもずっと厳格で、後者が展望階を観光客向けに開放している一方で、ベールをかぶったロシア正教会の尼さんたちは光の差す聖堂を静かに見回り、カメラを厳しく注意したり、列になって並んでいる信者さんが細いキャンドルを灯して祈った後、床に手をついてお辞儀をしている姿はとても美しいものでした。

旧市街の教会の裏で、可愛い蜂蜜屋さんに寄りました。あとから調べると家族経営で、DAUGMALES JĀŅA BIŠU MEDUSというお店です。店員さんが丁寧に話を聞いて選んでくれました。Latviaは蜂蜜が多く取れることが有名で蜂蜜のアルコールや蜜蝋が売られています。180mlの瓶で買ったBee pollen入りの酸味が強い蜂蜜は、無事空港の液体検査を通過して、私の朝食を楽しみにさせています。

伝統のあるパン屋さんで、コーヒーとベリーパイのカフェタイム。赤い実は街の市場でもいっぱい売られていたけどクランベリーなのか野性のチェリーなのかわからないのですが、酸味があって、うすーいパイ生地もちょうど良くコーヒーとあって、色も香りも古い建物も合わせてとても良い時間です。向かいの地元のおばちゃん達は、大きな声で話さないし、笑わないけれど、毎週にでもここへ来て、きっと何か日々の話をするのだろう、カフェという空間の温かさはやっぱりいいなと思いっていました。友人から誕生日プレゼントにもらった地域限定のStarbucks magを大切に包み直して、買い忘れた蜂蜜のキャラメルを空港でお土産に買い、あっという間の弾丸バースデーRīgaから帰ってきました。

A little feather,
今年もお祝いのメッセージやPianoの音を受け取りました。ありがとう。軽くて、いつもウキウキ楽しそうな、と私のことを表現してくれた言葉をまた宝物にして素敵な一年にして行きたいと思います。
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Amsterdam -Rīga
Air Balticが1日2便飛んでいる、約2時間半のフライト。市内へは頻繁にバスが走っていて約30分。ホテルが安くて、私は旧市街の4つ星ホテルで広めのお部屋をとって1泊EUR60でした。
DAUGMALES JĀŅA BIŠU MEDUSj https://www.facebook.com/DaugmalesMedus/
家族経営の可愛い蜂蜜屋さん
Rigensis
Adress: Tirgonu iela 8, Riga 1050 Latvia
Webサイトがなく、Facebookでは温かみが伝わらないのが残念。トリップアドバイザーを参考に!ドムや市庁舎のある広場から1分。
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Scandinavian Embassy
Adress: Sarphatipark 34 Amsterdam 1072PB The Netherlands
Facebook: https://www.facebook.com/ScandinavianEmbassy/info
Website: http://scandinavianembassy.nl
カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて10年以上が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
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