旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2018年3月7日更新
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

名鉄「パノラマカー」似で間違いない!? 新型ロマンスカーGSEにいち早く試乗

小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」=2018年2月23日午後、東京都多摩市(筆者撮影)zoom
小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」=2018年2月23日午後、東京都多摩市(筆者撮影)
東京都心部の新宿と神奈川県の保養地の箱根などをつなぐ特急「ロマンスカー」で、新型の「GSE70000形」が3月17日に営業運転を始める。運転席を2階に設けることで、客室の先頭部からの前面展望を楽しめるロマンスカーの新型は、白い車体が特色の「VSE50000形」が2005年に登場して以来、約13年ぶりだ。GSEは赤色を基調とした塗装で、運転席が2階の前面展望車だけに、それらの特徴が共通している名古屋鉄道の既に引退した名車「パノラマカー」に似ているとの声も。パノラマカーに似ていると確信し、そう投げかける記事も出した筆者はそれを確かめるべく、運転開始に先駆けて実施された報道向けの試乗会に参加した。果たして、その答えは―。
小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」の中間車両の車内=2018年2月23日午後(筆者撮影)zoom
小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」の中間車両の車内=2018年2月23日午後(筆者撮影)
▽東京五輪を控えて鉄道賞の「大本命」

訪日外国人旅行者が急増して2017年に約2869万人と5年連続で過去最高を更新し、東京オリンピック(五輪)・パラリンピックが開かれる20年に政府が4千万人を目指している中で、JR東日本や関東大手私鉄は追加料金を払っても乗りたくなる特急の新型車両を相次いで導入する。

JR東日本は昨年12月23日に東京都心部の新宿と松本(長野県松本市)を結ぶ特急「スーパーあずさ」の新型車両E353系の営業運転を始め、私が勤務先の共同通信社から先に報じた通り今年3月17日のダイヤ改正で「スーパーあずさ」の全列車をE353系で統一し、1993年に営業運転を始め、94年のスーパーあずさ運転開始から走ってきたE351系は全て引退、廃車になる(詳しくは「47NEWS」の拙稿「『失敗作』の汚名返上に、切り札の新型車両」)

西武鉄道は主に東京都心の池袋と埼玉県の観光地、秩父をつなぐ特急列車向けに、外観に景色が映り込む新型車両を来年3月に導入。さらに、鉄道愛好家らでつくる団体「鉄道友の会」が最も優れた新型車両に贈る賞「ブルーリボン賞」の「大本命」になるとの見方が鉄道愛好家の間で広がっているのが、小田急の新型ロマンスカーGSEだ。

ロマンスカーは1957年にデビューした初代型車両「SE」以来、リニューアル車両を除けば9代目。GSEは「優雅さ」を意味する英語の「Graceful」に、特急の「Super Express」を組み合わせて略した名称だ。デザインはVSEと同じく、フランスの首都パリにある芸術の拠点「ポンピドゥー・センター」の設計チームなどに加わった建築家の岡部憲明氏が手掛けた。

定員が400人の7両編成は箱根観光のフラッグシップ特急用車両と位置付けられ、主に新宿―箱根湯本(神奈川県)を結ぶ観光特急の「スーパーはこね」と「はこね」として運転する。今年3月17日に営業運転を始める編成と、2018年4~6月期に導入する編成の計2編成をJR東海子会社の鉄道車両メーカー、日本車両製造(名古屋市)の豊川製作所(愛知県豊川市)で製造。投資額は計約40億円と1両当たり3億円弱の計算になり、一般的な通勤車両と比べて2倍以上の“高額商品”だ。

小田急の星野晃司社長は、GSEについて「(新宿から箱根湯本方面へ向かう列車で)多摩川を抜け、大山、丹沢、天気が良ければ富士山も見える。目的地に着くまでの間、ずっと車窓を楽しみながらわくわくしてほしい」と売り込む。
小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」の展望席での筆者=2018年2月23日午前zoom
小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」の展望席での筆者=2018年2月23日午前
 ▽「優雅」ならぬ「せわしなく」!?

そんなGSEの乗り心地を確かめるべく、運転開始を控えた今年2月23日、報道陣向けの試乗会に参加した。往路は喜多見電車基地(東京都世田谷区)を出発し、営業運転では通常の特急列車が乗り入れない新百合ケ丘(川崎市)と唐木田(東京都多摩市)に入り、唐木田車庫に到着するというユニークな運行経路だ。

GSEのコンセプトは「箱根につづく時間を優雅に走るロマンスカー」だけに、青やオレンジなどのカラフルな色で装飾されたリクライニング座席に腰掛け、背もたれを倒すと優雅なプレミアム気分に満たされた。名鉄パノラマカーはクロスシート座席を備えていたもののリクライニング機能はなく、この点でGSEはパノラマカーに対して大きな優位性を誇る。

ただ、この日は電車の往来が激しい平日。喜多見電車基地を午前10時50分出発すると、「電車基地につづく時間をせわしなく走るロマンスカー」と評するべき普段は味わえない異例の出来事が次々と待ち受けていた。通常は利用客が乗ることがない回送用の線路で成城学園前駅(東京都世田谷区)に到着すると、電車基地から成城学園前へいったん北上した後、南下するために進行方向が変わる「スイッチバック運転」が発生。しかも、通常列車のダイヤの合間に走るため、特急用車両にもかかわらず成城学園前で停車中に快速急行電車に追い抜かれた。

高校時代に小田急の急行電車で通学していた私にとって、特急券が必要で高校の最寄り駅を通過するロマンスカーは“高根の花”。その車窓から、通常の通勤型電車に抜かれる“逆転現象”を目の当たりにするとは想像もしていなかった。

午前11時5分すぎに成城学園前を出発したGSEは直線の複々線区間を快走したが、向ケ丘遊園で再び待避線に。すると、東京メトロ千代田線との直通急行電車「多摩急行」の唐木田行きが隣のホームに入線した。3月17日のダイヤ改正で登場するGSEと、ダイヤ改正前日に消滅する多摩急行がホームに隣り合わせとなる様子を眺め、世代交代をしみじみと実感した。

向ケ丘遊園の先は曲線区間が多くなるが、揺れを検知すると反対方向に力を加えることで左右の動揺を抑える装置「フルアクティブサスペンション」を全車両に搭載している効果で落ち着いた乗り心地を体感した。最新技術を導入したおかげで、座席の快適さにとどまらず、乗り心地も名鉄パノラマカーより優れているのは疑う余地がない。

揺れの少なさを活用して車内を巡回すると、目につくのが大きな荷物を持った訪日外国人旅行者らを意識した荷物スペースの充実ぶりだ。7両のうち6両に大型スーツケースやベビーカーに対応した荷物収納スペースを設け、航空便国内線の機内に持ち込める大きさのバッグを置ける空間を座席下に設けている。
小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」の前面展望。対向の車両は「8000形」=2018年2月23日午後、川崎市(筆者撮影)zoom
小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」の前面展望。対向の車両は「8000形」=2018年2月23日午後、川崎市(筆者撮影)
 ▽最大の売りの展望席で迫力を体感

GSEの最大の売りといえば、磨きを掛けた優れた眺望の前面展望席だ。客室の先頭にある展望窓の高さをVSEより30センチ広げ、一番先頭の列の座席を約35センチ前方に配置している。中央の支柱を取り払ったガラス1枚の展望窓はVSEから踏襲し、縦幅を一段と広げたことの威力は絶大だ。流れゆく景色とともに、対向電車がすれ違う際は運転士と目が合うような距離感で、迫力体験を存分に味わえる。

GSEの設計に携わった運転車両部の岩崎哲也さんは「設計に当たり、われわれに課せられたことはこれまでにない眺望の展望席を設置すること、ホームドアに対応すること、7両編成で400席を確保することで、実現には非常に困難を極めた」と打ち明けた。

側面の窓の高さも約1メートルと歴代のロマンスカーで最大となり、VSEより約30センチ広げた。先頭車両は全座席から前面の流れゆく景色を楽しめるようにと、頭上の荷棚を取り払うという決断を下したこともあって、車両全体がパノラミック(全景が見える)な展望席に仕上がっていると言えよう。さらに中間車の乗客向けに、Wi―Fiを通じて手持ちのスマートフォンで展望風景を映し出すサービスも用意している。

パノラミックな展望といえば、GSEのイメージ図が公開されて以来、鉄道愛好家らがインターネットで口々に唱えてきたのが「名鉄パノラマカーに似ている」という声だった。昨年12月5日に神奈川県相模原市で開かれたGSEの車両公開でも、報道陣から指摘が出るほどで、小田急の星野社長は「名鉄を意識したことはない」と打ち消しに懸命となったほどだ。

名鉄が1961年にデビューさせ、2009年8月に引退させた7000系パノラマカーと似ているとされる理由は、GSEが車体の大部分をバラの朱色を参考した赤色の「ローズバーミリオン」で装飾し、車体が朱色のパノラマカーをほうふつとさせる点や、車体の1両当たりの全長が20メートルで、車両の両端にボギー台車を設けた車体構造が共通な点などがある。詳しくは共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」の拙稿「名鉄の名車パノラマカーが小田急で復活!?
小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」の車内では、スマートフォン画面で前面展望を楽しめる=2018年2月23日午後(筆者撮影)zoom
小田急電鉄の新型ロマンスカー「GSE70000形」の車内では、スマートフォン画面で前面展望を楽しめる=2018年2月23日午後(筆者撮影)
▽「パノラマカー似」を裁定する大御所の声は…

試乗したGSEが多摩線の終点の唐木田駅を過ぎ、いよいよ目的地となる唐木田車庫に午前11時50分ごろに滑り込んだ。車外に出ると、「パノラマカー似」なのかどうか、確かめるのに格好の、いや「この方しかいない!」と思われる大御所を参加者の中に見つけた。ロマンスカーの原点である名車、初代型車両SEの開発に携わり、小田急で車両部長や運輸計画部長などの要職を歴任した生方良雄さんだ。

生方さんはGSEのデザインについて「いい出来でしょ」と目を細め、ロマンスカーは「室内も代を重ねるごとに少しずつ改良しており、小田急は現場の意見を非常に大切にしているから可能なのですよ」と評価した。先頭車に荷棚を設けなかったことにも「最近乗ってみると気付くのは荷棚の使用率が低いことで、むしろスーツケースの置き場と、(大きな荷物を)座席の下に入れられるようにと考えたのは分かる」と理解を示した。

いよいよ聴きたかった本題とばかりに「パノラマカーに似ているという声が続出していますが、生方さんはどう思われますか」とうかがうと、生方さんは笑いながら「そうそう、そう思います。同じような感じね」との見解を示した。

ロマンスカーの“出発点”であるSEを生んだ設計者が認めるのだから、裁判を大罪にしたテレビドラマならば裁判官の「GSEの見た目が名鉄パノラマカーに似ているとの原告の主張を認める。これで閉廷します!」との展開が待ち受けていそうだ(笑)。

ただし、揺るぎない名車であるパノラマカーをほうふつとさせる外観ながらも、私が約10年前に乗ったパノラマカーと比べて車内空間が遥かに快適だったことを特記したい。最大のセールスポイントである前面展望席の見晴らしに磨きを掛け、座り心地が優れたリクライニング座席に加え、足回り部分にフルアクティブサスペンションを搭載するといった技術の進歩を生かすことで、名鉄パノラマカーの誕生から半世紀を超える時を経て誕生の「次世代型パノラマカー風車両」、それがロマンスカーGSEと言えよう。
2018年前半に引退する小田急電鉄の新型ロマンスカー「LSE7000形」=18年2月23日午後、川崎市(筆者撮影)zoom
2018年前半に引退する小田急電鉄の新型ロマンスカー「LSE7000形」=18年2月23日午後、川崎市(筆者撮影)
 ▽引退車両の行方は…

小田急はGSEを2編成ともに今年前半にそろえ、同じく運転席を2階に設けた前面展望車のLSE7000形は1980年の登場以来、約38年の幕を閉じる。

引退したロマンスカーのうち、2階運転席の前面展望車であるHiSE10000形は長野電鉄の特急「ゆけむり」として長野(長野市)と温泉地の湯田中(長野県山ノ内町)を結んでいる。車内では鉄道ファンとして有名で、私もお世話になっているSBC信越放送(長野県)の平日午後2時5分~6時15分のラジオ番組「らじ☆カン」の木曜日と金曜日に司会を務める山崎昭夫アナウンサーの美声を日本語自動アナウンスで堪能できる。

また、JR御殿場線に乗り入れる特急「あさぎり」(今年3月17日のダイヤ改正で「ふじさん」に改称)などに使っていたRSE20000形は、富士急行の「フジサン特急」として大月(山梨県大月市)―河口湖(同県富士河口湖町)をつないでいる。だが、老朽化したLSEは「他で是非(ほしい)という声は聞いていない」(小田急の星野社長)とされ、地方鉄道などへの譲渡はない見通しだ。複数の関係者によると、小田急は沿線に歴代車両を展示する博物館を建設する構想を持っており、SEといったこれまでのロマンスカーと同じように、LSEの一部車両を車両基地に保存する見通しだ。

この博物館について小田急幹部は「創業100周年を迎える2023年までには実現したい」と意欲を示す。今年3月17日に運用を始めるGSEが定着して脂が乗っている頃、沿線での博物館構想が日の目を見てLSEが再び脚光を浴びていることを期待したい。
共同通信社ワシントン支局次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。松山支局、大阪支社経済部、本社(東京)の編集局経済部、3年余りのニューヨーク特派員、経済部次長などを経て、2020年12月から現職。アメリカを中心とする国際経済ニュースのほか、運輸・観光分野などを取材、執筆している。

 日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS」などに掲載の鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/culture/leisure/tetsudou)の執筆陣。連載に本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)のほか、47NEWSの「鉄道なにコレ!?」がある。

共著書に『平成をあるく』(柘植書房新社)、『働く!「これで生きる」50人』(共同通信社)など。カナダ・VIA鉄道の愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。FMラジオ局「NACK5」(埼玉県)やSBC信越放送(長野県)、クロスエフエム(福岡県)などのラジオ番組に多く出演してきた。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の元理事。
risvel facebook