トラベルコラム

  • 【連載コラム】***独善的極上旅日記***
  • 2018年2月20日更新
フリージャーナリスト:横井弘海

クリスタルな輝き ウィーンの冬(第四回)~馬も踊る~

厩舎にて休憩中zoom
厩舎にて休憩中
厳しい冬の寒さを忘れさせてくれるウィーンならではの楽しみと言うと、何を思い浮かべますか?

私は3月頃まで各地で開かれている舞踏会には一生のうち1度は行ってみたいと思っています。
ところで、白馬がワルツの名曲に乗って踊るようにパフォーマンスを披露するスペイン乗馬学校の公演をご覧になったことはありますか?これも見逃せません。

ウィーンの王宮に、1572年に創設された世界で最も古いスペイン乗馬学校があります。昔、貴族の子弟がここで馬術を習ったそうです。
私たち観光客が楽しめるのは、室内馬場で美しいワルツの調べにのせて、人馬一体となって繰り広げられる古典馬術の1時間あまりのパフォーマンスです。
王宮にある屋内馬場zoom
王宮にある屋内馬場
この学校で「古典馬術」という言葉を初めて聞いたのですが、ルネサンス時代に完成した難易度の高い馬上馬術のことです。競馬のように速さを競うのでも、現代の馬術のように障害を飛越するのでもなく、馬上の騎手の指示に従い、ワルツを踊るかのように馬は音楽に合わせて正確にステップを刻み、時には優雅に後ろ脚だけで立ったり、ジャンプして一瞬、四肢を空中に浮かしたりするところを見せてくれます。2015年に、このスペイン乗馬学校の古典馬術の伝統がUNESCO無形文化遺産に登録されました。

王宮の屋内馬場は、天井から3つの巨大なシャンデリアが馬場を照らすバロック様式の長方形のホールでした。演技を始める前に正装した馬上の騎手たちがスローモーションで揃って帽子を取り、また被ります。この挨拶の視線は、かつては正面に座った王様に向けられていたことでしょう。当日たまたまそんな席に座ることになったので、すべての騎手が私に挨拶をしてくれているような王様気分を味わいながら、古き良き時代のウィーンに思いを馳せました。
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厩舎内にずらりと並べられた鞍
晴れの舞台に臨むために、馬はしっぽを三つ編みに編まれ、鈍い金色に光る馬具で飾られ、とても気高い容姿です。
日本でリピッツァ馬と呼ばれる白馬リピッツァーナー種が、この乗馬学校で活躍している馬です。16世紀のマクシミリアン2世の時代にスペインからもたらされたアンダルシア馬を他種と交配させて生み出されたそうで、そんなことから、ウィーンにあるのに、「スペイン乗馬学校」という名がついたそうです。その昔はハプスブルク家自慢の世界最良の軍馬として知られていたそうで、柔軟かつ頑丈な馬体をもち、また気性も忍耐強く、感受性に富んだ馬だといいます。
国会前の騎馬像zoom
国会前の騎馬像
国会の前の広場に馬にまたがった王様の銅像がありましたが、日本の競馬で見るような華奢な足のサラブレットよりずっとしっかりした後脚の馬でした。きっとリピッツァ馬なのでしょう。

乗馬をした方ならご存知でしょうが、馬は人を見ます。またがった人間の技量を見て、瞬時に石のように動かなくなったり、自分の好きな方向に進んでしまうなんてことを、私はしばしば経験しています。ですから、この乗馬学校の馬たちのしつけの行き届いた動きを見ていると、いかに長い年月、トレーニングを続けて、馬に技術を習得させ、信頼関係を築いてきたのだろうと想像され、それだけで感動します。学校には歴代のChief Riderの名前のプレートが誇らしげに飾られています。「Rider」は騎手であり調教師。公演というと、つい白馬の動きに目が行きますが、実は、影の主役は騎手たちです。
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LEVADE
音楽を理解しているのかしらと思うほど、リズムに合わせて動く白馬たち。カプリオール、クルベット、ルバードなど、さまざまな技が優雅に披露され、ただ圧倒されるうち、時間はあっという間に過ぎていきました。これらの技の名前は、公演後、乗馬学校の厩舎など施設見学に参加して、ガイドさんの説明を聞いて覚えたのですが、あらためて、人馬一体となって、よくあんな難しい技ができるものだと感心しました。
ちなみに、上記の3つの技のうち、一番難易度が高いのは、ルバードと呼ばれる後脚だけに体重をかけて馬体を45度に保つというもの。
馬にちなんだ可愛いお土産もたくさん販売されていますzoom
馬にちなんだ可愛いお土産もたくさん販売されています
これだけ素晴らしい技術をもっているわけですから、馬術の国際競技会などに出て好成績を収めているものとばかり思ったら、「この乗馬学校の馬たちはあくまでもここで古典馬術の伝統を伝えていくために技術を磨いています。競技会に出ることはありません」とガイドさんはきっぱり言いました。
ウィーンの伝統の重みを感じる一言でした。
ぜひお出かけください。

スペイン馬術学校 (Spanische Hofreitschule)
Michaelerplatz 1 (Besucherzentrum), 1010 Wien
www.srs.at
+43 1 533 90 31
フリージャーナリスト:横井弘海
元テレビ東京アナウンサー。各国駐日大使を番組や雑誌でインタビューする毎に、自分の目で世界を見たいという思いが強くなり、訪問国は現在70カ国超。著書に「大使夫人」(朝日新聞社刊)。国内旅行は「一食一風呂入魂!」。美味しいモノと温泉を追いかけて、旅をしています。
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