旅の扉

  • 【連載コラム】空旅のススメ
  • 2017年7月5日更新
あびあんうぃんぐ
航空ライター:Koji Kitajima

テカポ 「星空は宇宙への窓 」~Window to the Universe

星空で世界遺産登録を目指すテカポ zoom
星空で世界遺産登録を目指すテカポ 

今回の旅の一番の目的地テカポ。
昨年、ニュージーランド航空の客室乗務員さんに勧められてから、ミルキーブルーの湖と、世界で初めて星空でのユネスコ世界遺産登録を目指しているという星空を楽しみにしていました。

テカポではどこにいても星空をみることはできますが、せっかく世界一美しい星空を見るのであれば、専門のガイドさんに案内してもらった方がより本格的に楽しめると思い「Earth & Sky」のツアーに参加しました。
Earth & Skyは、テカポで初めて星空の観光ガイドを始めた会社で、世界最南端の天文所のあるマウントジョンの頂上から星を観測できる唯一のツアーです。

「善き羊飼いの教会」とほど近いEarth & Skyの事務所zoom
「善き羊飼いの教会」とほど近いEarth & Skyの事務所

午後8時半。マイナス40℃の寒さにも耐えられる南極観測隊が使ったという分厚いコートを借りてバスに乗り込みます。
山の途中からは、ヘッドライトさえ消して頂上への道を進みます。この日は野うさぎが出てきてしばらくバスは止まりました。ライトを点ければ去っていくでしょうにそうはしません。星空観察を車の光で邪魔しないためだそうです。

マウントジョンの頂上に着いて見上げたテカポの星空。この日は満月に近かった為、月の光の影響で星があまり見えない日だったのですが、それでも間違いなく、これまで見た星空の中で一番雄大で、一番神秘的なものでした。

満天の星たちと天の川zoom
満天の星たちと天の川

南十字星をはじめ、地平線から上がってすぐに沈んでしまう為に日本ではなかなか見ることはできないのですが、一目見ると寿命が75日延びると言われている竜骨座、くっきりとした天の川、マゼラン銀河等々。日本語のガイドさんの説明で、たくさんの星たちを確認することができました。

実際に天文観測に使われていたという大きな望遠鏡では、色とりどりの宝石が散りばめられたようなジュエル星団や、土星の周りの輪っか、木星のオレンジ色の縞々まではっきりと見ることができました。最後は、月の出ている日ならではのお楽しみで、月の表面のボコボコしたクレイターまではっきり見ることができ大満足の観測となりました。

この日は月の影響で少なかったそうですが、それでもツアーの途中には、いくつか流れ星にも出会うことができました。短時間に多くの流れ星を見たのはもちろん初めての経験でした。
一年に何度かはオーロラが出現することもあるそうで、それもテカポの空が澄んでいるからこそです。

マウントジョン天文台からテカポの村の夜景も見ることができました。
夜景と聞いて想像するのは、香港で見るような、様々な色の華やかな光景ですが、テカポのそれは、オレンジ色の灯りだけの本当に小さなものでした。全ての街灯は暗い夜空への影響が最小限に抑えられるナトリウム灯が使われ、シェードも取付けられています。そうしていかないと、この綺麗な星空を守ることができないからだそうです。驚く程に質素ではかなげな夜景。でもそれだけにこの町に住む人達の星空を守ろうとする気持ちが深く伝わってくるような気がしました。

つつましやかなテカポの村の灯りzoom
つつましやかなテカポの村の灯り

かつてはほとんど知られていなかったテカポを、世界初の星空世界遺産登録を目指すことでここまで有名にしたのは、「Earth & Sky」代表の小澤さんです。
星が見える暗い環境を守ろうという「国際ダークスカイ協会」東京支部の会員でもあり、日本へも暗闇を広める活動をしています。
小澤さんが星空に目覚めたきっかけは、社会人になり会社の先輩に天文写真同好倶楽部に誘われたことでした。その後会社を辞めてワーキングホリデーでニュージーランドへ。それまで地元で撮っていた赤城山の星空に比べ、テカポの星空のスケールの大きさにショックを受けたそうです。

そんな美しい星空を持つテカポにも2000年頃に村の再開発計画が持ちあがります。開発によって村に光が溢れテカポの星空が霞んでしまう。「テカポのこの星空を守りたい」星空世界遺産登録への道は、実は小澤さんのそんな想いから始まったそうです。
「星空は宇宙への窓」~Window to the Universe
小澤さんの活動の概念を表す言葉です。

全てがテカポから始まった世界初の星空世界遺産登録への取組みですが、スペインのカナリー諸島にある天文台など、当初から一緒にやろうと言ってくれた場所がいくつかありました。その運動は少しづつ広がり、今では世界中の様々な地域が星空世界遺産登録を目指すまでになりました。

「テカポが世界遺産になってほしいんですけど、テカポがならなくても、いいんです。この活動が世界中に繋がっていってくれたら。もうそれで大成功ですよね、そう思います。」
穏やかに笑う小沢さんの人柄が凝縮されたような素敵な言葉が印象に残りました。

Earth & Sky代表の小澤さんzoom
Earth & Sky代表の小澤さん

早朝、ホテルから外を見てみると、空が燃えるような赤に染まり、刻々と変わるその表情にしばし時間を忘れて見入ってしまいました。

さらに朝のマウントジョンからは、凛とした空気の中、鮮やかな虹も見ることができました。
テカポは朝も素敵です。

燃える朝焼けとマウントジョンからの景色zoom
燃える朝焼けとマウントジョンからの景色

星空を見るためにと思って訪問したテカポでしたが、星空だけでなく、自然の力の素晴らしさを改めて感じるとともに、自然と星空を守ろうとする気持ちにも触れることができ、とても気持ちの休まる滞在となりました。
 
男性の「世界一プロポーズしたい場所」、女性の「世界一プロポーズされたい場所」に輝いたことでも有名なテカポ。
この美しい自然と壮大な星空を持つ小さな村が、これからも環境保全への大きな窓口であり続けることを心から願っています。

Earth & Sky HP ⇒ http://www.earthandsky.co.nz/ja/

航空ライター:Koji Kitajima
大阪府出身。幼少期より空への憧憬の念を持ったまま大人になった、今や中年の航空少年。
本業のかたわら情報を発信しています。週末は航空ライター兼ブロガーとして活動中。
旅のモットーは、「航空旅行を楽しまないと旅の魅力は半減です。旅の楽しみは空港から始まる」です。

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