トラベルコラム

  • 【連載コラム】イッツ・ア・スモール・ワールド/行ってみたいなヨソの国
  • 2017年1月23日更新
夢想の旅人=マックロマンスが想い募らず、知らない国、まだ見ぬ土地。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス

チャイナガールと朝食を

美女と食事をする機会はそうそうありません。こと朝食となるとほとんどないと言ってよい。美女と朝食を共にするためには、その前の夜を一緒に過ごす必要があります。もちろん朝食のためにわざわざ早起きをして待ち合わせるという計画も楽しそうだけど、やはりここはベッドで目覚めるところから、あるいは前の晩にベッドに入るところから、もっと言えばお相手の美女と出会うところから物語をスタートさせるのが自然でしょう。


またとない美女との朝食のチャンス。クロワッサンとカフェオレだけでは物足りません。ジャパニーズスタイルもちょっとね。お目当ての女の子を鰻屋に誘ったことがあるのだけど、鰻に夢中になりすぎて失敗したという苦い経験もあります。やはりここはフォークとナイフで緊張感を保ちたいもの。それに実はカトラリー捌きには自信があるんだ。

英国式のコンチネンタルブレックファストはどうでしょう?王道中の王道だけど、バリエーションは豊富だし、ゆったり時間をかけてエレガントな気分で朝食を楽しむことができそうです。ロケーションはロンドン、ではなくて、えーと、上海。上海にはイギリスの文化が入り込んでいるのでね。トレディッショナルな英国式の朝食を施すシステムもあるはずです。
ロンドンにはテムズ、パリにはセーヌ、バンコクにはチャオプラヤー、そして上海には黄浦江。僕が好きな街にはどこも街の中心を大きな川が流れています。舞台は夜、僕は黄浦江のほとりをほろ酔い気分で歩いています。知らない街を訪れたらとにかく歩いて歩いて歩きたおすのがマイ旅スタイル。「旅」とはつまり「出会い」。求めるバイブレーションを持った人たちが集う場所は決してガイドブックには書いてない。自分で感じて探し当てるしかありません。旅行中はセンサーが鋭くなるから、あてずっぽうに歩いているだけで必ず何かに引っかかります。ただし、好奇心にかまけて平静さを失ってしまうこともあるので注意が必要。特にアルコールが入った夜は。

世界中どこの街を訪れても、来訪者が絶対に足を踏み入れてはいけないエリアというのがあります。法や常識の通用しない危険ゾーン。だいたいにして平和で賑やかなメインストリートの1本裏手だったりするもの。普段なら防御装置が働いて、決してそのような場所には近づかないんですけどね。美しい夜景と白酒にやられて箍が外れてしまったようです。気がつけば暗い裏通り、壁という壁には落書きが施され、窓ガラスは割られ、あっちこっちに放り出されたゴミから嫌な臭いが漂ってきています。人の姿は見えないけれど、物陰からの陰湿な視線を感じる。ヤバイな。瞬時に酔いが冷めます。まずは冷静に現在の状況を判断。この場合、来た道を戻るか、先に進むか、どちらを選択するかでその後に起こることが随分違ってきます。背後には邪悪な気配を感じます。振り返ったら最後、奴らは狂った野犬のように飛びかかってくることでしょう。ずっと先に華やかなネオンライトが点滅しているのが見えるから、そこがこの暗闇の出口。走り去ってしまいたい欲求を抑えながらゆっくりと灯りを目指します。

と、そこで何者かが僕の腕を取ります。力強くはあるけれど、圧力はない。負のエネルギーも感じません。恐る恐る顔をのぞいてみると、、何と、女性です。それも絶世の美女。

「き、君は?」

彼女はそれに答えず、僕を諭すかのように英語で「黙って(Just you shut your mouth)」と言い、ついてこいというような動作で僕の腕を引っ張ります。

「え、でも、、」

と、僕が躊躇していると、彼女は人差し指を唇に当てて「シー」。

僕たちは闇の中で光る眼をよそに、恋人同士がよりそうみたいにして、その夜道を抜け、どうにか灯りの元へと戻ることができました。ああ助かった。それにしてもこの美女は一体誰で何で僕を助けてくれたのでしょう?

「ねえ、君は一体誰なんだい?」

「シー」。
と、ここまで読んで、もうわかってる人にはわかっちゃったかな。そう、このくだりはデヴィッドボウイの名曲「チャイナガール」の歌詞の中に出てくる一節。

And when I get excited
My little China girl says
oh baby, just you shut your mouth
She says,sh-sh-shhh

デヴィッドボウイさんが亡くなって早くも1年になるんですね。ラジオで彼の曲が流れているのを聴いていて膨らんだ妄想を書き留めてみました。僕は特にコアなボウイファンだったわけではないのですけど、この時代に生まれ育って、やはり多義に渡ってな大きな影響を与えられた人間のうちのひとりだとは思っています。何と言えばいいのかな。「ありがとうございます。」という気持ち。
余談ですけど、例のoh baby, just you shut your mouthのくだり、僕はずっと「oh baby」ではなく「oh Jimmy」だと思っていて、今回、調べて初めて正しい歌詞を知りました。個人名の方がよりリアリティーがあると思うんだけどな。天国のボウイさんいかがでしょう?
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス
マックロマンス:プースカフェ自由が丘(東京目黒区)オーナー。1965年東京生まれ。19歳で単身ロンドンに渡りプロミュージシャンとして活動。帰国後バーテンダーに転身し「酒と酒場と音楽」を軸に幅広いフィールドで多様なワークに携わる。現在はバービジネスの一線から退き、DJとして活動するほか、東京近郊で農園作りに着手するなど変幻自在に生活を謳歌している。近況はマックロマンスオフィシャルサイトで。
マックロマンスオフィシャルサイト http://macromance.com
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