その私が取材で訪れることが多いハワイで、ちかごろ気になっているのがVegetable。そう、野菜なのだ。ハワイの食べ物というと、ステーキ&ロブスターのようにボリューミーなアメリカ料理やハンバーガー、日本でも人気爆発中のパンケーキがまず思い浮び、野菜についてはまだまだ知られていない。しかしハワイには、世界のメディアも注目するオーガニック・ファームがある。
太平洋に浮かぶ孤島のようなハワイでは、物資の多くをメインランド(アメリカ本土)に頼っている。食料に至ってはじつに85%が島外から運ばれてきたもの。食料自給率の低さが問題視されている日本でさえ40%前後なのだから、ハワイ産の食材がどれだけ希少なものか想像がつく。けれど最近では地産地消が見直され、野菜を栽培するファームも少しずつではあるけれど増えてきている。その代表がオアフ島の西、リワードと呼ばれるエリアにある「MAO Organic Farm(マオ・オーガニック・ファーム)」。1999年、ワイアナエ山脈のふもとに5エーカーの広さからスタートし、2003年にHOFA(Hawaii Organic Farmers Association)の認証を取得、現在では24エーカーの広さを誇る、オアフ島最大のオーガニック・ファームにまで成長した。
いうなれば、ハワイの「ブランド野菜」を栽培するMAO Organic Farm。ここに今、世界中のメディアの取材や視察が殺到している。事の起こりは2011年11月、ホノルルでAPEC(アジア太平洋経済協力)の首脳会議が開催された際、アメリカ大統領オバマ氏の夫人、ミッシェルさんが各国のファーストレディーをこの地を案内したことによる。ファーストレディーたちにはMAOの野菜をふんだんに使ったランチがふるまわれたが、彼女たちが興味を持ったのは野菜のおいしさもさることながら、ファームが取り組む教育プログラム。地元、ワイアナエの子供たちを対象に、農業指導と奨学金を支給するプログラムがスタートしたのは8年前。現在、17~24歳の学生約50人が、授業のない時にファームで研修を受け、作業レベルによっては給料を得ながら大学に通っている。
「MAOには、2つのミッションがある」と語ってくれたのは、この地で生まれ育ち、父親の代から伝わるタロイモ畑を引き継いでファームの立ち上げに加わった、プログラム・ディレクターのカムエラさん。そのミッションのひとつが、失われつつあるローカルフードの供給であり、もうひとつが地元のコミュニティのサポート。教育プログラムは、2つのミッションを支える役割も担っている。ホノルルから車で30~40分離れたリワードは都市部に比べ貧しい集落が多く、勉強をしたくても進学できない子供たちや、犯罪や薬物に走るティーンエイジャーも少なくなかった。学びたい意欲のある子供たちに手を差し伸べ、農業を通じて自分が育った土地への愛着やコミュニティの大切さ、ものを大切にする心を学ぶことで、夢や目標に向かって自立できる人材を育成するのが、プログラムの目的なのだとか。
「だから将来は農業という枠にとらわれず、子供たちにはここで学んだことをベースに、コミュニティのために自分に何ができるのかを考えながら、夢を実現していってほしい。私たちは、そのためのサポートをしているのです」とカムエラさん。この趣旨に賛同し、MAOの野菜を積極的に使っているのが前出のレストラン「Town」のシェフ、エドワード・ケニーさん。ファーストレディーにふるまうランチの料理を手掛けた、その人だ。彼はここの野菜をメニューに取り入れ、ファームの名を紹介することで、プログラムのサポートを続けている。このような経緯もあり、ファーストレディーとともに同行した各国メディアの間に「MAO Organic Farm」の名は、広く知られるようになった。
3435 WaialaeAve., Honolulu TEL808-735-5900