旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2016年5月7日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x A Pair of ーfreedomの休日 Bevrijdingsdag

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 しばらくパリに滞在して、宗教とか、哲学とか、自分がそんなことにどうかかわるべきかを知りたい。いまここでゆっくり考えておかないと、うっかり人生がすぎてしまうようでこわくなったのよ 
ー(須賀敦子 『ヴェネチアの宿』より)
私はAmsterdamの大切すぎる瞬間を留めておきたくて陽射しの当たるカフェでblogを更新しています。ラテを頼んでちょっと多めの泡をシュワンとすくって、あ。Bicycle!
自転車を止めるとき、前に乗っている私が降りやすいように足元が少し高くなったところに静かに降ろしてくれること。りんごジュースを注文してきて差し出された瓶に当然のようにストローが2本挿してあること。スイミングプールで息が切れそうになるまで一緒に潜っていること。昨日はホンダのモーターサイクルでオランダの村を走ってきました。水すれすれの低い土地、空と親子の羊と緑と花しかなくお互いの声が聞こえないので膝に手が当てられ、pair of cycles, straw, lips, helmet ほんの小さいことがめまいがしそうに幸せな自由時間です。
こどもの日に当たる5月5日はオランダでは解放記念日(Bevrijdingsdag)ナチスドイツからの解放を祝う日ですがオランダ語の名前の通り自由を喜ぶということでフェスティバルや無料のイベントが行われています。
実はこのカフェはAmsterdamではなく、オランダとベルギーの国境の街, MaastrichtのカフェAlley Cat Bikes & Coffee。自転車とコーヒーのコンセプトがお客さんの層と合っていい感じです。 自分の肺が小さく感じるくらいなんだか同じことに一喜一憂してしまうので美しい街にカフェを探しに自分を解放しに来たのでした。
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花は散り始めましたが、初々しい雨上がりの香りのMaastricht。
電車を降りてまずは史跡の水車で挽いたSpelt100%のパンとチーズと卵の朝ごはんを食べにパン屋さんBisschopsmolenへ。ミレーの絵の中のヨーロッパの農家の娘になったみたいだなと思いながら。駅を出て橋を渡ってね、と電車の中で隣の席のおばさんに教えられた通り、この橋を渡って右から入るか左から入るか4人掛けの電車の中で話題になりました。マース川を渡る橋から見える景色は印象的です。街の紋章である星型の尖塔が見える方は賑わっているショッピングエリアで、「世界一美しい本屋」に挙げられた教会を改築した本屋さんがあります。私は反対側の2本の尖塔Stella Maris(Star of the sea chapel)というカトリック教会がある路地が好きです。海のない街にある海の星の教会。マーストリヒトは土地柄カトリックとプロテスタント両方の教会が見られるところも歴史を感じさせてロマンチックです。
Alley Cat Bikes & Coffeeは橋を渡ってすぐ右に入ったのマルクト広場の入り口にあります。大きな両手サイズのカップに入れてくれたラテと絶品チーズケーキ。チーズケーキは好みが分かれるケーキですが卵が新鮮な黄色いちょっとスフレバージョン、美味しい。カフェ全体が優しいのでぴったりです。Tokyo BikeやEarly Riderなどおしゃれなシティバイクから専門的なものまで、自転車の旅とコーヒーのシンプルでいい写真のwebsite、洗練された心地いい空間にTokyoを見つけることはとてもhappyです。
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カフェが好きでブログを書く機会をいただきながら、”心地のいい空間を作っている”ということが結局キーワードだなと思っています。cityの中で自然に心も体も過ごすことー何か始められるかもしれないと思うとき、また何だかなと思ってカフェにいるとき、cinema & aromatherapy massageこのふたつに救われることがあります。
cinema ー映画を撮ろうと思ったことはないのですが私は映像が好きです。映像が好き、表現はちょっとおかしいのですが、aromatherapyを学んだとき、人がリラックスするときにどの五感を使うかというテーマがありました。私にとっては視覚かなと思ったのでした。考え出すと、いや食べることも好きだし、音楽や触覚も、と思うのですが写真や映画が好きなのです。最近とある動画を撮りました。いつか何かのコンテンツに使えるといいな。
ここはSingelというAmsterdamのいちばん内側の運河の橋の下。映画館Spinemaは週に一度キューレーターのJeffreyが橋の下にプロジェクターを入れて作り上げている空間なのです。選ばれる映画も解説も独特の美しい時間です。
先週、このunderground cinemaの10年目の節目に『SÉANCES』が出版されたのですが10ユーロの奇跡です。Squattingという長く誰も住んでいない空間を集会の場に変えた空間や、これまでの映画のこと、1冊ごとにシリアルナンバーと印鑑が押されています。セシリアと一緒に作った、というので誰かと思えばいつもプロジェクターを手伝っている黒髪のパーマの女の人は彼のガールフレンドでした。「本の出版おめでとうございます。ジェフリーの奥様とは知りませんでした」と話しかけると、Thank you, I’m his girl friendよ、となんだかアムステルダム感です。ちなみにここのBarでコーヒーを注文すると、紙コップにポットから注がれるインスタントコーヒーが1ユーロで振る舞われます。美味しくないけど手があったかい。
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-Massagehuys
オランダの空間デザインの小さなサロンができたというので、久しぶりにAromatherapy massageを受けてきました。少しですが学んだからわかる自然なEssential Oilの香り。基本ですが、私は学校に行かなければ知りえなかったこと、皮膚から血液へ植物のパワーは浸透するものだからエッセンシャルオイルも希釈するオイルも自然の質の良いものを選ぶことがとても大切です。調合されたオイルの香、すっと気持ちの良いラベンダー最後に甘い苦いハーブの香りは German ChamomileとSandalwoodでした。German Chamomile 。古代バビロニアから薬草として使われてきたカモミール。chamazuleneという成分が含まれていてオイルを少し青くします。肌には抗炎症作用、体にはこどもにも使える消化促進や利尿作用があるそうです。ギリシャ語のχαμαίμηλον (khamaimēlon)、地上のりんごという語源のカモミールは、Esterという成分からできるりんごのような甘い香りが特徴です。改めてお家に帰りカモミールティを作ってみました。病気は気から、病気じゃないけれど植物のパワーを知ることで心が静かになるような気がする甘い香りです。カフェも同じですが、心地が良いと感じる心使いと質が大切だと学びます。空間として光、香り、触感、色彩、トーン。並べられたオイルにも話し方やお店の色にも癒されました。
甘い香りといえば、Maastrichtから帰る電車に乗る前にStella Mariaの教会の前でオランダ南部特有の甘いビーフシチューZuurvleesを食べました。りんごを煮詰めたシロップと丁子(Clove),ローリエ( Bay Leaf)西洋ねず(juniper berries)が煮込まれています。どのスパイスの名前もAromatherapyの授業で聞いたもの。医食同源、おばあちゃんから伝わるような心を温めてくれるお料理と香りは旅の思い出です。
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無事にアムステルダムに帰ってきてブログを書いているのはカフェSweet cup。
”無事に”というのは続きがあって、お腹もいっぱいさあ帰りましょうかと思ったら電車が止まっていたのでした。MaastrichtとSittardの間に人が立ち入ったとのこと。先述の通りここはほぼベルギーで、Amsterdamまで2時間半かかるのです。終電。という言葉は久々に思い出しましたバスが来る。復帰の見通しが立たないのでcoffeeが飲みたい人はついてきてという駅員のおばちゃんに先導されて駅員オフィスへ。マシーンのコーヒーでも従業員用の待合室を解放するおおらかさに不安ながらもちょっと面白くなってきました。日本であればきっとごめんなさいアナウンスが流れるところですが、強気に電車は明日まで動きませんという放送で1時間後にバスが来ました。バスは隣の大きな駅まで行ってくれますが、すでに12時。最終電車、夜行列車かれこれ3時にまだ隣街。最終駅が同じ二人の若いイタリア人の男の子と旅は道連れ、駅のバーガーキングへ。駅員さんが見かねて携帯の割引アプリを持って一緒に並んでくれました。しかも、彼は40分後(!)に乗り換える電車の車掌さんなのですが、本来止まらない私たちの最寄駅に特別に止まってくれるとのこと。私とイタリア人ふたり、他の切符係の駅員さん3人とファーストクラスのいい席に案内されサッカーや文化のことで話は弾み、こんな状況でもここだけ切り取られたように幸福な時間でした。cinematicな1ページは最後まで続き、3人で降りた最寄りの駅は本来電車が終わっているため出口が閉まっていたのです。もう大笑い。出口を変え、開かないとわかっているけれどふたつの自動ドアの前の右と左でせーのっ。あるあるですが、私は携帯の充電が切れていてこの時間を保存することができずブログに書き残すことにします。設置されたSOSボタンを押してセキュリティのお兄さんが車で到着するまで、また20分このイタリア人たちと連絡先を交換して5時の帰宅。朝帰り。無事に帰ってこられました、のご褒美タイムにやっぱりカフェに来ています。
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Alley Cat Bikes & Coffee
adress: Hoenderstraat 15-17 6211EL Maastricht
website: http://alleycatbikescoffee.nl
Sweet Cup
address: Lange Leidsedwarsstraat 93 1017NJ Amsterdam
website: http://www.sweetcupcafe.com/contact/
Massagehuys
adress: Jan Evertsenstraat 110-H 1056 EH Amsterdam
website: https://www.massagehuys.nl



カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて10年以上が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
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