旅の扉

  • 【連載コラム】coffee x
  • 2016年4月3日更新
アムステルダムカフェより
カフェエッセイスト:安齋 千尋

Coffee x TOKI

zoom
TOKI-tumikasane

大切な人と愛おしい時間を過ごしてプラスにね、その繰り返し。積み重ね。大丈夫。
先輩から送られてきた優しいmessageと母から桜の開花を伝えるメールに添付されたsakuraドロップス。桜の季節の切ない淡い色や、美しい季語を思い出しています。こちらではChillingと表現するうっすら寒い感じを、花冷えと呼ぶこのかすかで繊細な語感が懐かしく、いいことがあるとつい欲張ってしまうけど、明日はまた違う日で凍える寒さは花をきれいに長く咲かせるものと、元気がいちばんハッピーがいちばん。違うときは自分が変わらなければいけない時です。

4年前のちょうど今日、Londonから電車でスーツケース2つと何やらちびまる子ちゃんの夏休み前のように、この表現が伝わるのかしら、いろんなものをぶら下げてAmsterdamの中央駅に到着しました。とりあえず駅前に予約した宿は売春婦エリアの一角で呼び鈴を鳴らすとおばちゃんが2階から「鍵が壊れているから」と叫ぶ始末。ドアの前にはコンドームが落ちていてoh my god,これは無理かもっと泣きそうになりながら急遽違うホテルを探したのでした。

今でも前を通ると思い出すその最初のホテルから、Haarlemmerdijk straatを通りJordan地区につながる裏の道ににカフェTOKIがあります。
zoom
TOKI-simple & smile

ゆっくりじっくり考えたいことがあるときはここに来たくなります。GO SLOWというコンセプトが居心地よくシンプルですが清楚なセンスと大きな窓が気に入っています。目を見て話すととっても優しいクマさんのような大きいヒゲのオーナーがいつもカウンターに居てくれるところも好きです。お気に入りカフェの認定基準にしているペイストリーを焼く香りや蒸気がTOKIにはないのですが、代わりに近所のケーキ屋さんPetit gâteauのパウンドケーキが食べられます。chocolate cheese creamのパウンドケーキが絶品なのでこのためだけに来たいと思うほどですのでこのチェックポイントはクリアです。語感の話をしましたが、先日カフェのカウンターでコーヒー豆を選ぶ男の人が優しい綺麗な英語で欲しい豆を尋ねていました。コーヒー豆のテイストを表現するのにセクシーという単語を使うこの艶が私にとって海外に住む楽しみです。Darling, My love, オランダ語だとSchatje,と呼ぶのは何年たってもちょっとくすぐったいのですが、4年経ち私もSweetieとちょっと愛しいなと思った時に使っています。
zoom
TOKI-jikan

Honey now, Take me into your loving arms Kiss me under the light of a thousand stars, Place your head on my beating heart-朝のcoffeeタイム。心臓の音が聞こえる距離に居ても遠く感じることがあります。大切な人が飼っていた犬が死んでしまいました。こんな時は日本語でも何語でもなんて言ったらいいかわからずにいます。いつもは大きくて強い人がふと寂しさで胸がいっぱいになっている様子を感じつつ言葉が見つかりません。プールからの帰り道自転車で、通りすがりの散歩中の犬を見て自分の犬の話をするのを聞きながら、私にとっては犬がいてくれたことで優しい今の彼を作ってくれたことにありがとうです。誰よりも温かく相手に触れられる人で、何をしていてもちゃんと目で私を追ってくれる、とても繊細に人の気持ちを掬うところはきっと犬と過ごす中で育まれたのだろうなと思います。12年一緒に過ごしたー”時”はいつも心の中とあなた自身であることを伝えたいのです。デザイナーStephen Kennの椅子とプワプワのわんこがかわいい昼間のTOKI.
zoom
TOKI-jidai

さて、Coffeeを飲みながら新聞を読む相変わらず私らしいカフェ時間。
国際面の話題はもっぱらテロとアメリカ大統領選挙です。昨日オバマ大統領が核サミットで言及した「日本と韓国はアメリカの核の傘に頼らず核武装すべきという大統領候補の意見は、外交政策がわかっていない」の発言は共和党候補トランプ氏の政策を咎めたもの。私は個人的にドナルドトランプ氏への身体的特徴をからかう記事が嫌いで、アメリカ人ではないため干渉する必要なはないと思っていますが、2016年という時代を生きているので私なりに考えています。そして日本人なので日本の国益という観点を持っていようと思います。
日本も韓国も米国の傘下ではなく独自に核兵器を持つように国防に投資すべき、サウジアラビアからの原油購入を減らすことを外交政策に挙げています。何故ならアメリカ人がこれらに対価を支払う必要はないという考えだそうです。一通り読んでみると、彼は本当に経済だけが現在の国際政治のパワーのバランスを取っていると信じていて、だからイランや北朝鮮に対する制裁も単に完全に貿易をストップすればよいと提案しているのです。"America First"という考え方に基づいて。わからなくはないな、と思います。自分の国の国益と”幸せ”を守るためにそれが国のトップの役割だから。そして経済だけで世界が回っていないと私は証明できずにいます。でも歴史から学んでみて、ドイツ国民が第一といったヒトラーが正しかったかどうか。
SWASTIKAという映画を見ました。ヒトラーのホームビデオの映像を元に作られたプライベートの一面を見てジャーナリズムの怖さを感じています。出来事は切り取られ方によってまったく違うように映るものです。湖と山に囲まれた避暑地で過ごす無声画像だけ観ていると子供を可愛がる姿や周りの人は幸せそうに見えて、彼に熱狂する群衆はまるでビートルズを迎えるよう、と表現したのはこの映画館のキューレーターJeffrey。本当に。一方で最後に監督の静かな批判が込められていて、結局は敗戦に終わった強制収容所のシーンで、ブルドーザーで破棄される無数の死体の映像は痛烈でした。人を殺す権利はなかったのだと、民族偏重主義はうまくいかず白黒はっきりつけられない国際政治のバランスをとってきたのです。左右に単純に大きく舵を取りバランスが崩れた時大きな戦争が起きてきたことは歴史を学ぶ意義なはずです。お金で解決できるから、例えばシリアにセイフティゾーンを監視部隊の配備ではなくお金で購入する、という発言は素晴らしいのですが、さてお金を払うのは国民の税金であって結局また国内にも国外にも不満が出るのではないかと予想されます。抑止力としてでも日本が核武装をすれば周りの国は脅威を感じるものーこの考えは時代錯誤なのでしょうか。全然違う惑星のように聞こえるブータン首相のCarbon Neutralへの取り組みと投資への呼びかけを見て、この時代遅れの政治家の話し合いをひんやり考えていました。
zoom
Amsterdamはサマータイムが始まり、家中の時計をフラットメイトと一緒に1時間進めました。お花屋さんだけではなくスーパーにもカラフルなチューリップや水仙が並ぶ陽気なAmsterdamの春。日も長くなり、夜もふんわりあったかくなったなと思っていたら「この春めく感じが好きだよ」と先を越されて言われてでも同じことを考えていたことがちょっと嬉しい4月の始まりです。
zoom
TOKI
website: http://www.tokiho.amsterdam
SWASTIKA
Director: Philippe Mora (1973)
Trailer: https://www.youtube.com/watch?v=xc7wRHSoXwY

*参考*

TED /ブータン首相のCarbon Neutralへの取りくみ
https://www.ted.com/talks/tshering_tobgay_this_country_isn_t_just_carbon_neutral_it_s_carbon_negative?language=en
The NewYork Times/100 minutes interview of Mr. Trump’s foreign policy(2016年3月26日記事)
"http://www.nytimes.com/2016/03/27/us/politics/donald-trump-foreign-policy.html?smid=tw-share" title="NYT2603" target="_blank">http://www.nytimes.com/2016/03/27/us/politics/donald-trump-foreign-policy.html?smid=tw-share
カフェエッセイスト:安齋 千尋
Amsterdamに住んでいます。外国で暮らすため、京都で仲居をしながら学んだ日本、Londonでの宝物の出会いがありヨーロッパにきて10年以上が経ちました。世界中どこにいてもいいカフェに出会うことがとても楽しみです。入った瞬間の香り、音、新聞、いつものバリスタと目が合うこと、私の日々の幸せな瞬間はカフェにあります。
risvel facebook