旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2016年3月14日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

ワイキキに残された奇跡のような空間。看板ネコが迎えてくれるノスタルジック・ホテル

プールがある中庭に面したガーデンスイートに滞在すると、こんな風に客室のドアを開けっぱなしで行き来する人がほとんど。zoom
プールがある中庭に面したガーデンスイートに滞在すると、こんな風に客室のドアを開けっぱなしで行き来する人がほとんど。
ハワイにリピートしたいホテルはいくつもあるけれど、そのなかでも唯一無二ともいえる存在がここ。再開発による建設ラッシュに沸き、古い建物が次々と近代的な高層ビルに建て替えられていくワイキキにあって、まさに奇跡と呼びたくなるような空間が広がっています。

その「The Breakers Hotel(ブレーカーズホテル)」があるのは、ワイキキのメインストリート、カラカウア通りに面した路地。同じ通りには現在、アメリカ大統領選挙でなにかと話題のT氏がオーナーの高級ホテルレジデンシャルが、その斜め向かいはハワイ語で“天国にふさわしい館”を意味する名門ホテル「ハレクラニ」、さらに日本のパンケーキブームの火付け役「エッグスン・シングス」もすぐ近く。いわば、ワイキキのまん中ともいえるロケーションです。
周りを高層ビルに囲まれながら、離島の小さなホテルのような趣を残しています。zoom
周りを高層ビルに囲まれながら、離島の小さなホテルのような趣を残しています。
通りからはフェンス越しにプールがある中庭と敷地全体を見渡せます。
プールサイドでは、デッキチェアでまどろむ人、分厚い小説を読みふける人、パラソルの下には井戸端会議ならぬ、プール端会議に花を咲かせる老婦人たち。
それを珍しそうにのぞき込むツーリストもいれば、この場所にホテルがあることすら気づかず通り過ぎる人も少なくありません。
東屋のような小さなフロントデスクの正面にあるベンチでお昼寝中なのが看板ネコの「マイレ」。ご飯の時間以外はほぼ眠っているので“眠りネコ”のほうがぴったりかな。もう1匹、クールビューティーな白猫「ホワイト」がいて、こちらはご飯の時間になると顔を出します。
看板ネコのマイレは、9歳になる女の子。zoom
看板ネコのマイレは、9歳になる女の子。
客室はシンプルそのもの。旧式の扇風機がぶんぶん回り、キッチンには電熱線むき出しのコンロ、バスルームをのぞいてみればタイル張りのシャワールームにアメニティはセッケン1個のみ! 設備の古さも否めないけれど、カラリと乾いたタオルをはじめとても清潔に整えられています。

必要最低限のものだけが置かれたベッドルームもとても清潔。zoom
必要最低限のものだけが置かれたベッドルームもとても清潔。
2泊もすれば、ネコがよほど嫌いな人でない限りフロント前を通るたび、お昼寝中のマイレをなでるのが習慣になることでしょう。3~4日すると、ルームNO.と名前を告げずともフロントデスクのスタッフがキィを渡してくれるようになります。プール端会議中の少々おせっかいなおばさまたちからは「今日はどこへ行ってきたの?」と声をかられ、ときには各部屋から食べ物や飲み物を持ち寄って催すプールサイドパーティーにお呼びがかかるかもしれません。

昼間、プールサイドで過ごす人たちに、ほとんど動きがないこともわかってきます。買い物や食事に出かけて帰ってくると、同じ顔ぶれが同じ場所で、まどろみ、本を開き、おしゃべりに花を咲かせています。日々、変化が激しいワイキキにあって、ここだけ時間が止まっているかのよう。
アメニティは多くないけれど、目の前がコンビニエンスストアだから不便はありません。zoom
アメニティは多くないけれど、目の前がコンビニエンスストアだから不便はありません。
プライベートリゾートとは真逆の、いうなれば下町暮らしのようなホテルが、東京でも下町暮らしの私にとっては妙に居心地がいいのです。

プールサイドは自分のお庭感覚。長期滞在のリピーターが多く、寒い季節はメインランドからの少々お年を召したゲストが増えます。zoom
プールサイドは自分のお庭感覚。長期滞在のリピーターが多く、寒い季節はメインランドからの少々お年を召したゲストが増えます。
けれど、いずれここにも開発の波が押し寄せてくるだろうことは、想像に難くありません。
ハワイを訪れるたび、ちゃんとこの場所にホテルがあることを確認して安心しつつ、
「いつまでもこのままで…」
と願わずにはいられない今日このごろです。

●The Breakers Hotel(ブレーカーズホテル)
250 Beachwalk, Honolulu, Hawaii
TEL 808-923-3181
www.breakers-hawaii.com
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
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