旅の扉

  • 【連載コラム】空旅のススメ
  • 2016年3月6日更新
あびあんうぃんぐ
航空ライター:Koji Kitajima

大人の海外社会科見学シリース「ボーイング工場」を訪ねて!

現在のエバレット工場の様子zoom
現在のエバレット工場の様子

航空機メーカー「ボーイング」は今年で創立100周年を迎えます。
世界一の容積を誇るシアトルの同社工場への初めての訪問時と、現在の様子をご紹介したいと思います。

1980年当時の学生のお金の使い道は、オーディオセットの購入か、海外旅行が主でした。
当時から飛行機好きでしたので、アルバイトで貯めたお金は迷わず海外旅行へと決めていました。海外に行くなら、BIGなアメリカ。そしてその中でもずば抜けて大きいボーイング社に行ってみたいと思っていました。

ボーイング社に行きたい気持ちは募るばかりでしたが、当時、海外と連絡を取る方法は限られていました。
今のように、気軽にできる電子メールなどない時代。電話やFAXはありましたが、料金が高額で大学生には手が出ず、残された手段は郵便しかありませんでした。 

目的のボーイング社はもちろんガイドブックになど載っておらず、ネットもありませんでしたので、どこに手紙を出していいのかさえわかりません。
雑誌を読み漁り、ようやく調べあげて、下手ながらも精一杯の英文で工場を見てみたいということをしたため、初めてのエアメールを出しました。
今思えばこの無謀ともいえる大学生の熱心な気持ちを理解してくれたのか、しばらくしてボーイング社からの返事を受け取った時には飛び上がりました。

「宿泊先が決まれば迎えに行くので、知らせてください」確かに英文でそう書かれていました。

夏でも、朝のシアトルは肌寒かったのを覚えています。
ボーイング社の社名がドアに書かれたバンが来て、ドライバーが迎えてくれました。ダウンタウンから北へ40分ほどのドライブです。
フリーウェイを海側に走って、針葉樹の森の中にいきなりとてつもなく大きい工場が見えて来ました。それがボーイング エバレット工場でした。

ガルーダインドネシア航空のB747がラインに並びますzoom
ガルーダインドネシア航空のB747がラインに並びます

高校生の頃から、飛行機好きが嵩じて伊丹空港でアルバイトをしていましたので格納庫に入ったことはありましたが、エバレット工場は、その規模がまるで違っていました。
一体何機並んでいるのか数えられないくらいの真新しい機体!

全日空のボーイング747スーパージャンボが出来上がりつつありますzoom
全日空のボーイング747スーパージャンボが出来上がりつつあります

当時、ボーイング747と767を製造していました。
747は初飛行から10年を超え、ベストセラー大型機として量産中で、ガルーダインドネシア航空と全日空向けが製造ラインに並んでいました。全日空は、初代モヒカン塗装で有名になったスーパージャンボです。尾翼のラダーにダビンチマークの一部が見えていました。

ボーイング767 発注したユナイテッドやデルタ、TWAへの機体ですzoom
ボーイング767 発注したユナイテッドやデルタ、TWAへの機体です

767は、初飛行を迎える前の段階で、まだ誰もその飛ぶ姿を見ていない時期でした。
胸を高鳴らせての初対面は、TWA、デルタ、ユナイテッドへのそれぞれの1号機となる機体の完成が間近の様子でした。初めて見るその双発の真新しい機体と対面した時の感動は、今でも忘れることができません。

パイロットが航空機関士を含めた3人から2人乗務になろうとする時期でした。ボーイング社内でも大議論になっていた頃です。製造中の機体のコックピット付近で議論でもしているのかと思いきや、何事も無い様子に拍子抜けしたことを思い出します。

工場の中は、機械的な殺風景な場所だと勝手に想像していました。しかし実際に案内してくれた場所には、コーヒーやスナックを提供するコーナーがあったり、壁にはスローガンが掲揚されていたりと、エバレット工場の中は、従業員に優しい場所のように見えました。

構内を走る車に乗せてもらった時には、ドライバーが機体の真横を通ってくれました。嬉しい反面、近すぎてカメラに収まり切れずに何度も「もう少し離れて走って」とお願いするなど、とても贅沢な経験もさせて貰いました。

「どこでも見たいところがあればリクエストして」と言われて、製造中の形になっていない機体よりも、完成済みの塗装が施されている戸外の機体に興味が沸き、駐機場に連れ出して貰いました。今では撮影禁止なことを思えば、工場内をもっと見せてもらって、たくさん撮っておけば良かったなと残念でなりません。

完成後のブラニフ航空747SPとフライングタイガー航空の747貨物機ですzoom
完成後のブラニフ航空747SPとフライングタイガー航空の747貨物機です

工場前庭の駐機場には、今はなきフライング・タイガーの747型貨物機やブラニフ航空の全身オレンジの「ビッグオレンジ」と呼ばれた747型旅客機がデリバリーを待っている様子を見ることが出来ました。
完成した機体は、747ばかりでしたので、その大きさもあり、多くの機体が並ぶ姿は壮観のひとことです。

最後には、発注したエアライン毎に割り振られた事務所へ案内してくれました。
やはり見学者は珍しかったようで、いくつかのエアラインを訪ねますと、どこへ行っても歓迎されます。
JALのスタッフとも話をすることができました。JALでは多くのジャンボジェットを発注していましたので、スタッフの方の表情も明るく自信に満ちていました。
いろいろな話を聞いた後で「どうやって見学の許可を取ったの」と逆に問われて前述の手紙の話をすると、驚かれ感心されたのも懐かしい思い出です。
この時に貰ったステッカーは今も宝物です。

現在の工場の様子 完成したエアブリッジカーゴ747-8Fzoom
現在の工場の様子 完成したエアブリッジカーゴ747-8F

ボーイング747は、当時製造の-200から、-300、-400を経て、今は-8と世代を重ねて来ました。

現在の工場見学は、インターネットで誰でも申し込めます。
一日12回もの設定があり、観光シーズンの事前予約で18USドルになっています。
エバレットのFUTURE OF FLIGHTが施設の総称で、AVIATION CENTERの見学施設と、ボーイング工場ツアーで構成されています。
施設内を移動するバスの中では、ガイドが案内をしてくれます。
よくある「どこから来たの」の質問に、「日本から」と答えると「787を沢山買ってくれてありがとう」なる返答があるはずです。

次の100年に向けて、第4世代となるボーイング737MAXが、初飛行の日を迎えました。

技術革新のその先に見えて来る機体はどんなものでしょう。

個人的には、ボーイング2707の再来を期待しています。
1971年に計画が凍結された、アメリカ版の超音速旅客機です。
いつの日か、騒音が低く燃費のいいボーイングSSTが飛行することを願っています。

航空ライター:Koji Kitajima
大阪府出身。幼少期より空への憧憬の念を持ったまま大人になった、今や中年の航空少年。
本業のかたわら情報を発信しています。週末は航空ライター兼ブロガーとして活動中。
旅のモットーは、「航空旅行を楽しまないと旅の魅力は半減です。旅の楽しみは空港から始まる」です。

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