トラベルコラム

  • 【連載コラム】イッツ・ア・スモール・ワールド/行ってみたいなヨソの国
  • 2014年6月28日更新
夢想の旅人=マックロマンスが想い募らず、知らない国、まだ見ぬ土地。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス

犀星遊泳

金沢 犀川にかかる犀川大橋zoom
金沢 犀川にかかる犀川大橋
今日はいつもとちょっとちがう感じのお話しをしますね。

僕の父親は近代文学の研究者でした。研究対象は広く近代文学全般でしたが、中でも室生犀星への思い入れは特別であったようです。父が収集した関連資料は、書籍はもちろんのこと、原稿の原本、作家が友人や家族とやりとりをした手紙、作家に影響を与えた(と思われる)雑誌など、資料館にもないような貴重なものから、文学とは関係のなさそうなものまで、多義にわたる執着心に満ちた内容で、その量も膨大でした。

集められた資料は書庫(ちょっとした本屋ぐらいの広さがあります。)に項目ごとにきちんと分類された状態で保管されていました。父の死後、それらの資料は、金沢の室生犀星記念館に寄贈されます。母の意向です。量が量なのですべてというわけにはいかず、重要なものだけを専門家の方々に選出してもらったのですが、それでも約2000点。彼らの目にも「お宝」と映る貴重な資料が数多くあったそうです。家宝として代々所有し続けるのも考えのひとつではあるとは思いますが、こういうのは人類の共有財産ですからね。収まるべきところに収まったのではないかと僕は思っています。

そして、それらの寄贈品を展示する企画展が室生犀星記念館で開催されました。題して「犀星遊泳/書庫を飛び出す文学世界:本多浩コレクション」。えーと「本多浩」というのが僕の父親です。念のため。
金沢 犀川zoom
金沢 犀川
で、行って来ましたよ。金沢。滞在24時間の弾丸ツアー。

僕は行き当たりばったりな旅が好きで、行く前からあれこれ細かなスケジュールを立てるのは得意ではありません。金沢はそんな僕のような不真面目な旅人にとっては最適な所です。歴史文化から、アート、ファッション、カフェ、グルメにいたるまで、観光客が訪れるべき主要な施設やスポットがだいたい徒歩圏内にすべて収まっている。あてずっぽうに動き回れば、それらのいくつかに辿り着くことができますし、そうでなくてもただのんびり気ままに歩いているだけで、お殿様の時代の風情が残る町並みとか、趣のある路地とか、洒落た看板を掲げたお店とか、旅人の好奇心をくすぐるアイテムがじゃんじゃん目に入ってきます。そんなわけで今回も予定何も決めないで金沢行きの電車に乗ったわけです。

金沢駅に到着して人の数が多いのにびっくりしました。しかも何だか街が殺気立っています。道路は通行止めだし、あっちこっちに制服警察官の姿、まるで軍事クーデターでも起きたかのような騒ぎです。それもそのはず、その日は金沢を上げてのビッグイベント「百万石まつり」の開催日でした。おそらく年間で金沢が最も盛り上がる日のうちの1日でしょう。全く知りませんでした。よりによってこんな日に来ちゃうなんてね。やはり旅行は多少の下調べが必要なんだと少し反省です。

たまたま訪れたらお祭りをやっていた。というのはある意味ではラッキーなことなのでしょうけど、僕が旅先に求めるのはそのような「イベント」ではありません。僕がいちばん興味があるのは日常。人々のリアルな生活。観光客に用意されたよそ行きのおもてなしに触れられるのはそれはそれでありがたいことではありますが、現地の人々の日常生活の中に潜んでいる特別なワンシーン、あるいはワンカットに出会えた時の喜びは格別です。

それに、正直に言えば、僕は「お祭り」がそれほど好きではないのです。これについてはまた別の時にお話ししようかな。
レンタル自転車 市内各所の駐輪場で借りられるzoom
レンタル自転車 市内各所の駐輪場で借りられる
いいこともありました。メインストリートに人が集中しているおかげで、街のはずれの方はとても静かなんだ。室生犀星記念館は市の中心部とサウスサイドを結ぶ犀川大橋を渡ってすぐのところ(城下町独特の何とも不思議で素敵な造りのエリアです。あとで聞いたんだけど、路が入り組んでいたり、不自然にくねくね曲がってたりするのはお城を守るためなんだそうです。なるほど。)にあるのですけど、通りには人っ子ひとりおらず静まりかえっていて、記念館もほとんど貸切状態でした。

レンタル自転車というのを初めて利用してみてみました。僕は以前トライアスロンをやっていたこともあって、自転車というとどうしてもスピードのことばっかりを考えてしまうのですけど、レンタル自転車は速く走るようには作られていません。一生懸命ペダルを回したところでせいぜい小走り程度の速度。それが逆によかったかな。ゆっくりと動く景色、色やにおいや音や温度をを全身で感じながら裏通りをクルーズです。ロースピードのサイクリングがこんなに楽しいなんてね。
夕食にあてずっぽうで入った店が当たり(金沢で食べ物ハズしたこと1度もないですが)で、美味しい料理をつまみに日本酒をしこたま飲んで酩酊し、酔い覚ましにと公園のようなところを散歩していたら、細い水路に行き当たりました。水路に沿って歩いていると銅像が立てられているエリアに出ます。何となく見たことのある顔だなあ、なんて銅像に近づくと、やっぱりね。「室生犀星」とありました。ふと足元を見ると、何やら小さくて弱い光がゆらゆらと動いています。

ホタル?

生きた本物のホタルが光るのを見るのは生まれて初めてです。ホタル。何と可愛らしい生き物なのでしょう。カラダに光を灯すなんてね。神さまは本当にいろんなことを考えるもんだ。よく見るとホタルは何匹もいて、暗闇の中でチャーミングな青い光があっちこっちを行き来しています。幻想的で美しくピースフルな光景です。ふと、ひとつの光が、室生犀星の銅像の回りでゆらゆら揺れていたかと思うと、銅像の頭の上の辺りからすーっとスピードを上げて真っ直ぐ空に向かって飛び、上空でしばらく旋回して、そして、消えました。
プースカフェオーナー/DJ:マックロマンス
マックロマンス:プースカフェ自由が丘(東京目黒区)オーナー。1965年東京生まれ。19歳で単身ロンドンに渡りプロミュージシャンとして活動。帰国後バーテンダーに転身し「酒と酒場と音楽」を軸に幅広いフィールドで多様なワークに携わる。現在はバービジネスの一線から退き、DJとして活動するほか、東京近郊で農園作りに着手するなど変幻自在に生活を謳歌している。近況はマックロマンスオフィシャルサイトで。
マックロマンスオフィシャルサイト http://macromance.com
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