旅の扉

  • 【連載コラム】***独善的極上旅日記***
  • 2026年10月30日更新
フリージャーナリスト:横井弘海

大徳寺700年の美に出会う #開創700年記念 特別展 大徳寺 本朝無双之禅苑

平成館入口前zoom
平成館入口前

 東京上野の東京国立博物館で開催されている開創700年記念特別展「大徳寺 本朝無双之禅苑」は、大徳寺と塔頭寺院などに伝わる寺宝を一堂に紹介する展覧会です。大徳寺の宝物がまとまって公開されるのは41年ぶり、東京では初めて。国宝14件、重要文化財69件を含む名品が集まったこともあり、平日でも行列が出来る人気です。

 本展は、以下の構成で展開されます。

序章 禅の広がりー心から心へ
第一章 大徳寺の開創
第二章 大燈禅の継承ー
第三章 戦国武将と塔頭
第四章 江戸時代の名僧
第五章 禅宗美術の精華
終章 禅とともにー大徳寺三門の世界

国宝 「観音猿鶴図」 牧谿筆 中国 南宋時代・13世紀 大徳寺蔵【前期展示】zoom
国宝 「観音猿鶴図」 牧谿筆 中国 南宋時代・13世紀 大徳寺蔵【前期展示】

 会期中に展示替えがありますが、前期展示の最大の見どころのひとつが、中国・南宋時代の画家、牧谿(もっけい)による水墨画の名品です。国宝「観音猿鶴図」は、観音菩薩と猿、鶴を描いた三幅対の掛幅です。大徳寺が誇る禅宗絵画の最高傑作で、「東洋一の名画」「東洋のモナリザ」と称されます。長谷川等伯や横山大観なども影響を受けた「日本水墨画の父」とも呼ばれる牧谿の描く墨の濃淡や余白が生み出す空気感に引き込まれることでしょう。
 東京国立博物館主任研究員の高橋真作氏の説明によれば、「禅宗において、音は悟りを導くもの。両脇の掛軸に描かれた鶴と猿が鳴き声を発しており、中央の観音は絵の内部に響き渡る残響と、その静寂に耳を傾け、『観音』の文字の如く、音を観ていると解される」とのこと。
 本展では大徳寺で掛けられているのと同じく、三幅対の両脇に「龍虎図」(伝牧谿筆)もご覧いただけます。

 また、後期には、重要文化財「龍虎図」がお目見え。同じ水墨画でもまったく異なる表現を観るために、再度足を運ぼうと考える方も多いでしょう。

国宝 看読真詮榜 宗峰妙超筆 1巻 南北朝時代 14世紀 京都・真珠庵蔵  奥の袋にも注目!(応仁の乱の戦火の中、一休宗純がこの貴重な寺宝を袋に入れ、自分の首にかけて命がけで守り抜いたという伝承が残る)zoom
国宝 看読真詮榜 宗峰妙超筆 1巻 南北朝時代 14世紀 京都・真珠庵蔵  奥の袋にも注目!(応仁の乱の戦火の中、一休宗純がこの貴重な寺宝を袋に入れ、自分の首にかけて命がけで守り抜いたという伝承が残る)

 こうした名品が大徳寺に伝わってきた背景には、この寺が歩んだ歴史があります。  
1326年、宗峰妙超(大燈国師)によって開かれた大徳寺は、後醍醐天皇から「本朝無双之禅苑」、つまり、日本に並ぶもののない禅の道場と称えられました。室町時代には五山制度の枠組みから離れ、「林下(りんか)」の禅寺として独自の道を歩み、型破りな禅僧で、「一休さん」として知られる一休宗純が活躍した時代には、堺の商人たちにも支えられました。大徳寺は、禅の修行の場であると同時に、時代や立場の異なる人々が交わる場所だったのです。
 戦国時代になると、織田信長や豊臣秀吉ら武将たちとの関わりが深まります。秀吉が、信長の追善菩提と信長亡き後の政権争いで主導権を握るために建立したと言われる総見院はじめ、大徳寺には戦国武将が建立した塔頭が数多くあります。
 そんな寺には武将たちの祈りや供養の思いが残る一方、彼らが収集し、珍重した美術品が大切に伝えられています。

思織田信長像 狩野永徳筆 1幅 安土桃山時代 16世紀 京都・総見院( 前期展示) と、 豊臣秀吉像 1幅 江戸時代 17世紀 大徳寺zoom
思織田信長像 狩野永徳筆 1幅 安土桃山時代 16世紀 京都・総見院( 前期展示) と、 豊臣秀吉像 1幅 江戸時代 17世紀 大徳寺
奥に見えるのは、長さ6m、重要文化財 「仏涅槃図」 狩野松栄筆 室町時代・永禄6年(1563) 大徳寺【前期展示】zoom
奥に見えるのは、長さ6m、重要文化財 「仏涅槃図」 狩野松栄筆 室町時代・永禄6年(1563) 大徳寺【前期展示】

 大徳寺の文化を語るうえで、茶の湯も欠かせません。千利休をはじめとする茶人たちは、禅の精神と響き合う美意識を茶の湯の中に育みました。  
 その象徴の一つに、国宝「大井戸茶碗 喜左衛門井戸」があります。朝鮮半島で焼かれた茶碗は形や釉薬の表情、手にしたときの感触など、素朴な姿の中にこそ見どころがあると言われます。また、京都・龍光院に伝わる日本に残る三碗の「曜変天目」のうちの国宝の一碗も滅多に観ることの出来ない名品です(前期展示)。

千利休立像 体部:田中浄慶作 1軀 頭部:天保11年(1840) 体部:明治2年(1869) 大徳寺zoom
千利休立像 体部:田中浄慶作 1軀 頭部:天保11年(1840) 体部:明治2年(1869) 大徳寺

さらに、通常は非公開の大徳寺三門の世界を再現した展示も興味深いです。三門の上層「金毛閣」は千利休が造営したことで知られ、そこには釈迦如来坐像などの仏像と、千利休立像が安置されていました。
 普段は立ち入ることのできない空間に思いを巡らせながら、仏像と利休像を見る。名画や茶道具を鑑賞するのとはまた違った、寺の歴史を身近に感じる体験になるでしょう。

 大徳寺は、ただ権力者に保護されてきた寺でも、禅の修行だけに閉じた寺でもありません。僧侶、天皇、武将、商人、茶人。それぞれ異なる思いを持つ人々が関わるなかで、信仰と政治、文化と美意識が重なり合い、独自の世界が形づくられてきたのです。
 開創700年という節目に実現した、貴重な寺宝の一堂公開。次にこの規模でお目にかかれるのは半世紀後とも言われています。
 静けさと迫力、簡素さと豊かさ。大徳寺が育んできた多彩な美に出会い、自分の目でその魅力を確かめたいものです。


開催概要 開創700年記念 特別展 大徳寺 本朝無双之禅苑

会場 東京国立博物館 平成館

会期 2026年10月14日(水)~12月6日(日)
【前期展示】10/14(水)~11/8(日)【後期展示】11/10(火)~12/6(日)

開館時間 午前9時30分~午後5時
※毎週金・土曜、11月1日・2日・22日は午後8時まで
入館は閉館の30分前まで 

休館日 月曜日(ただし、11月2日・23日・30日は開館)、11月24日
※11月30日は大徳寺展のみ開館(東博コレクション展は休館日のため観覧不可)

お問い合わせ(ハローダイヤル)
050-5541-8600 (午前9時~午後8時)

詳細は公式サイトで要確認 https://daitokuji2026.exhn.jp/

フリージャーナリスト:横井弘海
元テレビ東京アナウンサー。各国駐日大使を番組や雑誌でインタビューする毎に、自分の目で世界を見たいという思いが強くなり、訪問国は現在70カ国超。著書に「大使夫人」(朝日新聞社刊)。国内旅行は「一食一風呂入魂!」。美味しいモノと温泉を追いかけて、旅をしています。
risvel facebook