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  • 2026年9月26日更新
リスヴェル編集部トピックス
Editor:リスヴェル編集部

【インタビュー】イタリア発掘の現場から見る映画、歴史、そしてナポリの人間模様

ポンペイ遺跡とヴェスヴィオ山 ©️ Andy Holmes on Unsplashzoom
ポンペイ遺跡とヴェスヴィオ山 ©️ Andy Holmes on Unsplash

2026年10月2日(金)にBunkamuraル・シネマ渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国で順次公開される映画『ポンペイ、雲の下に生きる』に登場する「東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査プロジェクト」の考古学者の一人、岩城克洋氏へのインタビューをお伝えする。

話し手:岩城克洋(考古学者/東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員)

◆モノクローム映像の新鮮さと、ジャンフランコ・ロージ監督との出会い

── まず、完成した映画をご覧になった率直な感想をお聞かせください。

岩城: 自分が発掘作業をしている姿を客観的に見たことがなかったので、素直に新鮮でした。「自分は普段こんな感じで掘っているのだな」と(笑)。
また、私は高校時代によく白黒写真を撮っていたのですが、映像になってもモノクロームの画面だと、自分が少し格好よく映っているように見えてありがたかったですね。全体を通してとても新鮮な体験でした。

岩城克洋氏(考古学者/東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員)zoom
岩城克洋氏(考古学者/東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員)

── ジャンフランコ・ロージ監督とは、どのような経緯で出会い、出演することになったのでしょうか?

岩城: 監督がポンペイ遺跡やエルコラーノ遺跡などの撮影を始めた頃、2023年に東京で開催されたイタリア映画祭で東京大学大学院人文社会系研究科・文学部の土肥秀行先生と知り合ったのがきっかけです。監督がロケハン中にソンマ・ヴェスヴィアーナの私たちの発掘現場の看板を見かけて気になっていたそうで、その話を土肥先生にされたところ、「あそこは私の友人が掘っているよ」ということで私を紹介してくれました。
その後、私が現地に行った際に、ナポリで監督と初めてお会いしました。「来シーズンから撮影させてほしい」と言われたので、青柳正規先生(多摩美術大学理事長、東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査プロジェクト初代リーダー、東京大学名誉教授、元文化庁長官、ポンペイ遺跡発掘に大きく尽力しポンペイ市名誉市民の称号を持つ)や村松眞理子先生(現プロジェクトリーダー、総合文化研究科教授)、大学側に相談したところ、「ぜひ撮影してもらおう」となり、翌年のシーズンから現場に来るようになりました。

── 監督の撮影スタイルで、印象に残っていることはありますか?

岩城: “映画の撮影”と聞いていたので大人数のクルーが来ると思っていたら、カメラ1台を持った監督と、アルフレッドさんというアシスタントスタッフのたった2人だけで来られたので本当に驚きました。
撮影中は指示されることはほぼなく、監督が動いて構図を決めていました。ただ、服装にはこだわりがあったようです。私が柄物のTシャツを着ていたら「無地にしてくれ」と言われ、翌日、白のTシャツを着ていくと「光で飛んでしまう」、黒のTシャツを着ていくと「下の作業ズボンも黒だから全身真っ黒で潰れてしまう」と言われました(笑)。最終的に監督からグレーのTシャツを5枚ほど渡されて、「撮影中はこれを着てくれ」と言われました。
また、暗い横穴を掘る時には「手元が見えないから」と高性能のライトをくれたり、雨のシーンでは監督のレインコートを貸してくれたりと、色々機材や道具を提供してもらいながら撮影が進みました。

東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査プロジェクト© 21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025zoom
東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査プロジェクト© 21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025

◆20年越しに明かされる「アウグストゥス帝の別荘」の謎

── 岩城さんが調査されているソンマ・ヴェスヴィアーナ遺跡について教えてください。

岩城: ソンマ遺跡はヴェスヴィオ山の北麓に位置します。古代ローマ時代、ヴェスヴィオ山周辺には北東にノーラ、海沿いの北西にネアポリス(ナポリ)、海沿いの西にヘルクラネウム(エルコラーノ)、海沿いの南東にポンペイといくつかの都市がありました。ソンマ遺跡はこのうちのノーラとナポリの間、都市郊外の田園地帯に巨大な建物として存在していました。
2002年に青柳先生が発掘を始めた当初は、古代の記録に残る「初代ローマ皇帝アウグストゥスが最期を迎えた先祖代々の別荘」を探すことが目的でした。しかし、出てきたものは、通常の別荘ではあり得ないような巨大な構築物ではありましたが、2世紀頃に構築されたと考えられるものでした。西暦472年噴火の火山灰が床の上に直接積もっていたこの構築物は、創建年代が合わず「別荘説」は一度立ち消えになったのです。ところが2019年頃、その巨大構築物の下からさらに古い建物が出てきました。その壁は、西暦79年のヴェスヴィオ山大噴火(ポンペイを埋め尽くした噴火)の火砕流で被害を受けていたことが2023年に判明しました。つまり、この建物は西暦79年より前に存在していたことが判明していたのです。20年越しに「これこそが当初目指していたアウグストゥス帝の別荘ではないか」という可能性が一気に高まっています。

── 東京大学チームによるイタリアでの発掘は、かなり長い歴史があるのですね。

岩城: 青柳先生が1960年代末にポンペイの「エウローパの船の家」を発掘されたのが始まりです。その後、シチリアのアグリジェント、ローマ北部のタルクィニア、そして現在のソンマへと引き継がれ、50年以上にわたってイタリアでの調査が続いています。私自身は1995年のタルクィニア調査から参加しています。

東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査プロジェクト© 21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025zoom
東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査プロジェクト© 21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025

◆発掘現場のリアル、過酷な土との戦いと世界一贅沢な昼食

── 発掘現場での1日のスケジュールや、発掘の苦労について教えてください。

岩城: 毎年、日本のお盆(8月15日はイタリアの祝日「フェラゴスト」)が明けた8月20日頃から10月頭まで現地に入ります。朝7時半に現場へ入り、12時から1時間のお昼休憩を挟んで、夕方17時まで作業を行います。
一番大変なのは土の硬さです。普通の土と違って、噴火直後の火山灰が雨で流された火山性土石流が固まったものなので、まるでセメントのようです。削岩機を使わなければ掘れないような場所もあり、考古学のイメージとはかけ離れた荒仕事になります。また、大雨が降ると深く掘り下げた現場に泥水が滝のように流れ込み、せっかくきれいにした現場が台無しになってやり直しになることもありました。

── 逆に、発掘の醍醐味や楽しさはどのような点でしょうか?

岩城: 遺物としては、大理石で作られた見事な「ディオニソス(酒の神バッカス)像」や女性像、遺構としては、ブドウが描かれたきれいな壁画、白黒モザイクの床などが印象深いですね。
また、環境面でも恵まれています。イタリアの夏は日本と違って湿気が少ないので、日陰に入れば涼しいですし、ランチには心づくしの地元のパスタ料理を毎日発掘現場で食べられます。「世界で一番贅沢な昼食」が出来る発掘現場かもしれません(笑)。

ポンペイ遺跡 © 21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025zoom
ポンペイ遺跡 © 21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025

◆ナポリの街の人間模様、そして伝説の墓泥棒

── 映画で描かれるナポリの人々と、実際の地域性についてどう感じられますか?

岩城: 外国人から見ると一括りに「ナポリ」に見えますが、現地ではポンペイ人、ナポリ人、郊外の人々それぞれに強烈なプライドがあり、「あいつらと(我々)は違う」という意識を持っているように見えます。話せば言葉(方言)でどこの出身かすぐに分かるそうです。
ポンペイは古代の街が完全に埋まって現代の街と分離しているため、歴史と日常が切り離されています。一方、ナポリは古代ローマの上に直接、中世・現代の街が再建されて重なっているため、住んでいる人たち自身が「古代人の子孫」である感覚を持ち、下町の文化に強いプライドを持っています。映画の中で子どもたちの勉強をみているティッティ先生のようなインテリ層や職人さんなど、映画にもナポリ独特のキャラクターがよく表れていると思います。

── 治安面など、街の変化は感じますか?

岩城: この20〜30年で大きく変わりましたね。かつては治安の悪さで有名でしたが、マフィア組織(カモッラ)の弱体化や、政府・行政による治安浄化作戦が成功し、悪名高かったスペイン人地区も今や人気の観光地になりました。南イタリア全体の治安がかなり良くなっています。

── 最後に、イタリアでの長年の調査の中で、特に印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

岩城: 以前発掘していたタルクィニアでの出来事です。タルクィニアはエトルリア文明の遺跡で有名ですが、実は「イタリアで最も墓泥棒が多い街」と言われることもありました。地元の作業員の男性と仲良くなってワイン作りを手伝いに行くと、集まってくる友人の中に数人は本物の墓泥棒がいるかもしれない、という…(笑)。その中にマーゴという有名な人がいました。初対面で「考古学者」と書かれた名刺(!)を渡されたのですが、驚いたのは、彼がイタリアの国営放送(RAI)のバラエティ番組に出演した時の映像を見せてくれたことです。司会者に「墓泥棒の王様、マーゴさんです!」と紹介され、立派な壺を満面の笑みで抱えて登場していました(笑)。
イタリアでの長い調査活動の中では、そうした日本では考えられないような面白い人々との出会いもたくさんありました。

東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査プロジェクト© 21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025zoom
東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査プロジェクト© 21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025

◆岩城克洋
考古学者/東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員。
1970年生まれ。1995年からタルクィニア郊外でのローマ別荘発掘調査に参加して以来、現在まで30年以上、ソンマ・ヴェスヴィアーナプロジェクトの発掘調査に携わる。また日本各地の数多くの遺跡発掘調査にも参加している。

◆東京大学ソンマ・ヴェスヴィアーナ発掘調査プロジェクト
東京大学が2002年から継続して行っているローマ時代遺跡の発掘調査に基づく学際的研究プロジェクト。イタリア南部、ヴェスヴィオ山の噴火によって埋もれた2000年前の記憶を掘り起こし、ローマ史上の大きな謎のひとつに迫る挑戦となっている。数世紀にわたる「罹災・復興・再罹災」のサイクルを一体で追える第一級のフィールドであるこの遺跡は、「初代ローマ皇帝アウグストゥスの終焉の地」である可能性があるとして近年注目されている。
https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt07

『ポンペイ、雲の下に生きる』 119分(2025年/イタリア/モノクロ)
原 題:SOTTO LE NUVOLE
公開日:2026年10月2日(金)
公 開:Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
監督・撮影・録音:ジャンフランコ・ロージ
音 楽:ダニエル・ブルンバーグ
配 給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/pompei


2026年8月21日ー【編集部推薦映画】火山の街に生きる人々の“今”を見つめるドキュメンタリー『ポンペイ、雲の下に生きる』
https://www.risvel.com/news/8113

画像コピーライト:© 21UNO FILM SRL / STEMAL ENTERTAINMENT SRL 2025

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