旅の扉

  • 【連載コラム】トラベルライターの旅コラム
  • 2026年8月26日更新
よくばりな旅人
Writer & Editor:永田さち子

名湯で過ごす、温泉旅の新しいかたち。『界 草津』で2泊3日のおひとりステイ  【前編】

非日常に浸れる閑静な湯宿と、賑わいを見せる名湯の温泉街、ふたつの世界を自由に行き来できる『界 草津』の宿泊者専用トンネル。zoom
非日常に浸れる閑静な湯宿と、賑わいを見せる名湯の温泉街、ふたつの世界を自由に行き来できる『界 草津』の宿泊者専用トンネル。
日本三名泉のひとつに数えられる、群馬県・草津温泉。
開湯伝説については諸説ありますが、最も古いものでは約1800年前に開かれたと伝わります。PH2.05の強酸性のお湯は古くから“病気に効く温泉”として知られ、文人、歌人をはじめとした多くの著名人が訪れている歴史ある温泉です。

そんな天下の名湯に2026年6月7日、開業したのが星野リゾートの温泉旅館『界 草津(かい くさつ)』。今回、2泊3日のおひとりステイで、“プチ湯治”の気分を満喫してきました。

非日常に浸れる「静謐の湯宿」は、おひとりステイにやさしい
自然湧出量日本一と、「恋の病以外はすべて効く」といわれるほど優れた効能を誇る草津温泉。シンボル的存在である湯畑周辺には多くの旅館や飲食店、土産物屋が軒を連ねます。『界 草津』は、そんな温泉街の賑わいとは趣きの異なる宿。草津白根山の麓に広がる高台に広大な敷地を有し、最大の特徴が宿泊者専用トンネルで「静謐な湯宿」と「温泉街の賑わい」を自由に行ったり来たりできること。家族連れやカップルで訪れるのはもちろんですが、気ままなひとり時間を過ごすのにもぴったりなんです。
上/森の小径からトンネルを抜けると、「西の河原公園」の入り口に。ここから温泉街はすぐ。下/非日常へと誘うエントランス(左)。 ライトアップが美しい夜の湯畑(右)へは、夕食後の散策を兼ねて出かけるのもおすすめ。zoom
上/森の小径からトンネルを抜けると、「西の河原公園」の入り口に。ここから温泉街はすぐ。下/非日常へと誘うエントランス(左)。 ライトアップが美しい夜の湯畑(右)へは、夕食後の散策を兼ねて出かけるのもおすすめ。
『界 草津』の敷地に一歩足を踏み入れた瞬間、その静けさに驚くに違いありません。エントランスを抜けると木立の中に温泉棟、パブリックスペースの「暖炉ラウンジ」、上州に伝わる手仕事を体験できる「ご当地楽棟」の建物が点在するのを見下ろせ、人里から離れた小さな集落を思わせる佇まいです。
そんな非日常の空間でありながら、森の小径を歩き宿泊者専用トンネルを抜ければ、徒歩数分で温泉街に到着。施設があるのは、草津温泉スキー場のゴンドラ乗り場に近い場所。スキーに訪れたことがある人なら、温泉街とこの場所が徒歩で行き来できることを不思議に思うかもしれません。まるで、どこでもドア(?)のような楽しみ方を可能にしたのが、地上4階分に相当するエレベーターと全長80mのトンネルです。
*「草津に理想の温泉宿を作る」という20年来の悲願達成の背景にあるストーリーがなかなかドラマチック。ご興味がある方はこちらをご覧ください。

界 草津開業のストーリー

世界的なデザイナーが手掛けた布のアートに包まれる、ご当地部屋「シルクアートの間」
全国に現在25施設ある『界』滞在の魅力のひとつが、居ながらにしてその土地の文化に浸り、手仕事に触れられる「ご当地部屋」。草津がある群馬県は、世界文化遺産に登録されている富岡製糸場で知られるように、養蚕・製糸・織物で栄えた土地です。今回滞在した「シルクアートの間」には、その歴史や文化、自然にちなんだインテリアが随所に散りばめられ、案内してくれたスタッフから一つひとつの由来を聞くことも、とても興味深いものでした。
壁面のシルクアートで草津の湯けむりと自然を表現した「シルクアートの間」。時間帯により客室露天風呂から眺める景色が変わり、朝もやの中から少しずつ山並みが姿を現す早朝の光景は、ずっと見ていても飽きません。zoom
壁面のシルクアートで草津の湯けむりと自然を表現した「シルクアートの間」。時間帯により客室露天風呂から眺める景色が変わり、朝もやの中から少しずつ山並みが姿を現す早朝の光景は、ずっと見ていても飽きません。
客室と館内の布の装飾デザインを手がけたのは、テキスタルデザイナー・須藤玲子氏。日本の伝統的な織物技術から現代の先端技術までを駆使し、作品が二ューヨーク近代美術館、ボストン美術館などに永久保存されるなど、国際的な活躍で知られる須藤氏。彼女が客室の壁面に1枚の織物を使い描いたのは、温泉の湯けむりが立ち上がる草津の情景。ほかにも絹糸や繭の素材で作られたランプシェード、草津の高原植物をイメージしたクッションなど、どれも目に優しく温かみのあるインテリアです。
浴槽内のお湯が常に適温に保たれ、いつでも好きな時に入浴できるのは、おひとりステイならではの贅沢。窓を開けると清々しい草木の匂いと一緒に、かすかに硫黄の香りが流れ込んできます。温泉旅の癒し効果がお湯の効能だけでなく、空間、風景、空気と風の匂い、それらすべてがひとつになって体に働きかけてくるのを感じました。

ふたつの源泉を引湯し、“湯めぐり”気分を味わえる大浴場
客室露天風呂でまったり過ごすのもいいのですが、2種類の酸性泉を引湯する大浴場はまた違った楽しみです。ひとつは草津のなかでも最大の湧出量を誇り、高温・強酸性が特徴の「万代鉱(ばんだいこう)源泉」。もうひとつは、やや穏やかな泉質の「西の河原(さいのかわら)源泉」。特に西の河原源泉は引湯する施設が少ない希少なお湯とのこと。3つの浴槽を設けた内湯には、泉質が異なるお湯を温度を変えて引いているため、湯めぐりのような体験ができます。さらに、開放感たっぷりの露天風呂も。毎夕刻、スタッフが草津温泉の歴史や泉質などを紹介する「温泉文化いろは」を併せて体験すれば、草津のお湯の奥深い魅力と正しい入浴法がよくわかります。
3つの浴槽が設けられた温泉棟の内湯。泉質の異なるふたつの源泉からお湯を引き、さらに温度を変えているので、湯めぐりの気分で。zoom
3つの浴槽が設けられた温泉棟の内湯。泉質の異なるふたつの源泉からお湯を引き、さらに温度を変えているので、湯めぐりの気分で。
左/四季折々の自然を感じられる露天風呂。これからは、紅葉の季節も楽しみ。右/飛び出す絵本風の模型や、実際のお湯を使って草津温泉の歴史と泉質の特徴を紹介する「温泉文化いろは」では、楽しみながら名湯の神髄に触れられます。zoom
左/四季折々の自然を感じられる露天風呂。これからは、紅葉の季節も楽しみ。右/飛び出す絵本風の模型や、実際のお湯を使って草津温泉の歴史と泉質の特徴を紹介する「温泉文化いろは」では、楽しみながら名湯の神髄に触れられます。
連泊してこそわかる、名湯・草津の「王道なのに、あたらしい。」旅のかたち
温泉旅館で連泊する機会は多くありませんが、今回は2連泊したことで宿でゆったり過ごすおひとり時間と、温泉街ならではの賑わいの両方を満喫することができました。夕食には2種類の会席料理が用意されていること、朝食も和食と洋食から選べるなど、連泊したくなるサービスが充実していることも大きな理由です。

1泊目の夕食は、館内の食事処で群馬の食の魅力を目と舌で味わえる「上州豊伝(ほうでん)会席」を。草津名物の湯もみをイメージした先付が可愛らしく、また興味深かったのは、蓋に「上毛かるた」の絵柄が描かれた宝楽盛り。古くは“上毛”と呼ばれた群馬県の歴史や自然、文化、人物などが読まれた郷土かるたは戦後に誕生し、毎年2月には競技会が開かれているのだとか。群馬県出身の人の多くが絵札を見ると言葉が浮かび、空で詠めるといいます。鶏もも肉をホロホロになるまで炊いた旨みたっぷりのスープでいただく「上州常夜鍋」は、滋味深く優しい味わいで野菜をたっぷり摂れます。布のパーテーションで仕切られた半個室でいただくので、ほかのお客様を気にせず食事ができることも、おひとりにはうれしいポイントです。
上/半個室風の食事処でいただく「上州豊伝会席」。下/日帰り利用もできる「蕎麦割烹 SAI」。地粉・生粉打ちにこだわった十割蕎麦を中心とした蕎麦会席は、ナチュラルワインとともに。zoom
上/半個室風の食事処でいただく「上州豊伝会席」。下/日帰り利用もできる「蕎麦割烹 SAI」。地粉・生粉打ちにこだわった十割蕎麦を中心とした蕎麦会席は、ナチュラルワインとともに。
2泊目は、トンネル出口近くにあり、西の河原公園の入り口に佇む「蕎麦割烹 SAI」で「地粉生粉打ち(じごなきこうち)蕎麦会席」を。からすみ蕎麦のほか鴨ロース、チーズの味噌漬けなどを盛り合わせた「蕎麦前一」は、お酒好きにはたまらない内容。「蕎麦前二」には、出汁巻き玉子 とうもろこし餡とサーモンの香味お造りが続きます。和牛と鴨肉から選べる「台のもの」、〆のお蕎麦には天ぷらが付き、ざるとかけからチョイス。地酒、クラフトビール、ワインなどのアルコールメニューも充実しています。ナチュラルワインが豊富と聞き、蕎麦+ワインのペアリングで味わいました。

『界』に滞在するもうひとつの大きな楽しみが、地域の文化を体験できる「ご当地楽」。【後編】では、木製の座繰り機を使って本物の繭から絹糸を挽く手仕事体験と、スタッフおすすめの草津温泉街歩きをご紹介します。

◆界 草津
群馬県吾妻郡草津町大字草津字白根464番地690
TEL 050-3134-8092
全94室(露天風呂付き18室)
1泊夕・朝食付き46,000円~(2名1室利用時1名あたりの料金、税・サービス料込み)
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaikusatsu/
Writer & Editor:永田さち子
スキー雑誌の編集を経て、フリーに。旅、食、ライフスタイルをテーマとし、記事を執筆。著書に、「自然の仕事がわかる本」(山と溪谷社)、「よくばりハワイ」「デリシャスハワイ」(翔泳社)ほか。最近は、旅先でランニングを楽しむ、“旅ラン”に夢中!
risvel facebook