朝カフェのおともは、Tropézienneはサントロペのタルト(フランス語: la tarte de Saint-Tropez)でした。丸いブリオッシュにクリームをはさみ、表面にあられ糖をふったシンプルだけど美しいこのお菓子。ブリジット・バルドーが映画の撮影のためにサントロペに滞在していた際に、このデザートを気に入り、当時は名前がついていなかったことから、「サントロペのタルト(フランス語: La Tarte de Saint-Tropez)」という名前を提案したというエピソードがあります。甘そうに見えますが、生地にオレンジの花の香り付けがしてあって、クリームも軽くて、うっとりしているうちに食べ終わってしまいました。暑くて溶けるお砂糖とベタベタのほっぺも、また海に入れば洗い流されて、そんな野生の自分も頼もしく思うし、こうゆうバージョンもいいなと自己肯定感も上がる海辺の朝カフェ。海の匂いをさせながらバスに乗る帰り道、地元のおばちゃんたちが乗ってきて、人も植物と同じだなと、ふと思うのでした。都会の人はお花屋さんのミントのように柔らかそうで、海と太陽に照らされた街の人は、皮膚が硬そうを通り越してシワシワでテカっているけど、人柄もおおらかで大ぶりの野生の立葵のよう。酷暑だった今年のヨーロッパの夏、庭の野菜も太陽に負けてしまってカサカサになったトマトの皮をいっぱい見たから、そして全部鍋に入れたら美味しいラタトゥユになったりして、なんだかその様子が思い浮かんだのでした。バスの運転手さんも、日焼けしたかっこいいお姉さんで、いろんなことを話しかけてくる年配のお客さんに本当に親切でした。すっかり心も体も洗われた良い時間。
Toulonには、Châteauvallonという古い要塞を利用した野外円形劇場があります。私はここに、ピナバウシュのNelkenを鑑賞しに来るという今年の夏休み計画を立てていたのです。。ピナが大好きという方もいらっしゃいますが、私はそうではなく、真夏の夜に野外の円形劇場でダンスを鑑賞するなんていいわ、と思ったプランでした。開演は夜10時。目の前には9000本のカーネーションが夜風に揺れる幻想的な世界が広がっています。明かりが落とされると、正装をした男性がコツンコツンと足音を鳴らして歩いてきて、花に囲まれた大きな舞台の正面中央で、ガーシュインの『The Man I love』の曲に合わせ、手話で歌詞を伝えます。手話も身体を使った芸術でした。なぜ手話なのか、私の感想は、みんなどこかに同じように幸せな理想の世界を空想するのに、なぜか声に出してはいけない外圧があるという矛盾です。夢のような序章の後、争い合いや抑圧と呼ばれるシーンが続き、静かに揺れていた花は段々と倒されぐちゃぐちゃになっていきます。笑ってしまうシーンもあるけど、いつも少し哀しみが残る。身体で春夏秋冬を表現しながら、役者たちが舞台を歩くシーンはとても美しく、最後に踏み荒らされたカーネーションの真ん中で、同じ男性がThe Man I Loveの手で伝え舞台は閉じました。真夜中に劇場を後にする時の、夏祭りの後のような感じもした、趣のある夏の夜の夢でした。