zoom 酷暑の夏を乗り越え、夏バテを防ぐのにうってつけな食べ物を探ると、一見すると相反するような二つの答えに行き着いた。それは「辛さ」と「涼」だ。辛い食べ物はスパイスが発汗を促し、気化熱で体感温度を下げる一方、かき氷といった「涼」をもたらす冷たいデザートもクールダウンさせてくれ、ともに食欲を増進するとされる。
東京都心部にオープンした店舗や、夏限定の催事を巡ったところ、しゃぶしゃぶと餃子、鶏の手羽先、夏の果物を生かしたスイーツなど工夫を凝らしたメニューが目白押しだった―。
zoom ▽銀座のブッフェレストランも経営
唐辛子が浮いており、見るからに辛そうな真っ赤なスープの中に、霜降りの和牛をくぐらせるとえもいわれぬ美味が口いっぱいに広がった―。インバウンド(訪日客)でにぎわう上野・アメ横商店街に沿った商業ビル「アメ横センタービル」2階に2026年6月15日開業したセルフスタイルしゃぶしゃぶ&浜焼きレストラン「海鮮市場 八芳(はっぽう)」での体験だ。
経営しているのは、焼き肉やカニ、すしといった高級料理を含めて150種以上の料理を楽しめる東京・銀座のブッフェレストランも手がける「FANG DREAM COMPANY」(東京都中央区)だ。ブッフェレストランではないものの、同じように選ぶ楽しさを提供してくれるのが「海鮮市場 八芳」だ。
しゃぶしゃぶを楽しむための鍋スープは13種類あって500円均一。2種類選ぶことも可能だ。新鮮な魚介類、和牛、野菜など150種類以上ある食材は、まるでスーパーの生鮮食品売り場のように自分で好きなものをピックアップする。価格は300円、500円、1000円、1500円と四つある。
400席ある店の入口に着くと店員にテーブルへ案内され、どの鍋スープを選ぶのかを尋ねられる。スープには「特製きのこスープ」や「お粥(かゆ)仕立てスープ」、「韓国風チゲスープ」など気になるレパートリーが盛りだくさんだ。このように目移りした時に、私はレストラン経営者から聞いた「法則」を適用することにしている。
zoom ▽レストラン経営者から聞いた「法則」で選ぶと…
その「法則」とは、レストラン経営者から授けられたこんな助言だ。「迷ったときは、メニューの最初に書いてあるものを選んでください。お客さまが最初に目にするのですから、胸を張ってお薦めできるものしか書きません」
この言葉が生きた。鍋スープの最初に記されていた「麻辣牛脂スープ」は牛脂のコクと唐辛子の刺激が織りなす本格四川風の旨辛スープという触れ込みで、辛さにとどまらない牛脂のコクが生きた深い味わいなのだ。
数種類の食材を投入して試食したところ、牛脂スープに合うのはやはり牛肉だった。しかも脂のコクを寄り楽しむには和牛(1000円)が絶妙に合い、もしも赤身だけが良ければ牛肉(500円)というチョイスもある。あとはそれぞれ300円の白菜やキノコといった野菜を選べば、酷暑対策に万全であろう(個人の感想です)。
営業時間は午前11時から翌日午前5時までという超ロングランの「18時間営業」で、定休日もなく出迎えてくれる。内田幸男代表取締役は「私たちはこの店を単なる飲食店ではなく、食を楽しむテーマパークのような存在にしていきたいと考えている。上野・アメ横から新しい日本の食文化と外食体験を発信していく」と意気込む。
zoom ▽「読めない店名」の宇都宮餃子
同じく麻辣を添えると絶妙に合う宇都宮餃子を提供するのが「餃子といえば芭莉龍」だ。宇都宮市に本社を置く飲食店業チームバリスタが展開する店舗で、東京都内で初となる路面店を茅場町に7月6日オープンする。
この「芭莉龍」を予備知識もなく読める方はどれだけいるだろうか。しかも店外の看板にはルビやローマ字表記がなく、「餃子といえば芭莉龍 宇都宮」と記されている。このため、読み方が分からない来店客だと「宇都宮風の餃子を食べられる」ことは分かるものの、店名の読み方にはモヤモヤを抱えながらのれんをくぐる。
栃木県が誇る大谷石で装飾した壁に囲まれたテーブルに着き、メニューを手に取ると答えが明かされる。「バリロン」だ。
チームバリスタの橋本哲也社長は狙いについて、ユニークな店名に関心を持ってもらいつつ「宇都宮は餃子の街として全国で有名なので、宇都宮発祥の餃子店というのを売りにしていきたいなと思う」と明らかにした。その最大のキラーコンテンツとなるのが看板商品「焼餃子」(780円)で、見事な羽根つき餃子だ。餃子のあん、および皮で包むのは「宇都宮市にある当社のセントラルキッチンで作っている」(橋本社長)という。
店員の「まずは、そのままお召し上がりください」というアドバイスに従ってほおばると、あふれ出る肉汁とともに豚肉の滋味が口いっぱいに広がった。これは餃子あんを一般的なひき肉ではなく、1センチ角の豚肉を使っているからこその味わいでクセになる。
そのままでも十分なおいしさだが、とりわけ夏に添えたいのが「特製麻辣ダレ」だ。中国原産のミカン科の植物「花椒(ホアジャオ)」と唐辛子を効かせており、味わい深い焼餃子に見事なアクセントを付けてくれる。焼餃子に麻辣、そして生ビールという組み合わせは実に夏に似合う。
営業時間は午前11時から午後10時半(金曜日だけ午後11時)までで、定休日は日曜日。
「餃子といえば芭莉龍」は東京都内では他に、JR東京駅八重洲口にある飲食店街「グランスタ八重北食堂」にも店舗を構えている。橋本社長は「餃子といえば芭莉龍」を東京都心部に今後2店出店し、うち1店を2027年に、もう1店を28年春にそれぞれ開業することを明らかにした。
zoom ▽こしょう辛い手羽先の居酒屋チェーンも
同じ東京駅八重洲口にあるヤエチカ(八重洲地下街)に6月10日オープンしたのが居酒屋チェーン「世界の山ちゃん」のヤエチカ店だ。売れ筋商品はこしょう辛さが特色の鶏の手羽先「幻の手羽先」(5本660円)で、これまでに他店で何回も味わってきた私も「クセになる辛さは夏にもってこいだ」と再認識した。
東京駅に近い79席の新店は、経営するエスワイフードにとって88番目の店舗となる。「八(8)」の数字、それも重なっているのは名古屋市に本社を置く同社にとって縁起の良い節目と言えよう。というのも、丸の中に漢数字の八を書いた尾張徳川家の合印「丸八(まるはち)」は「無限に広がる力」と「末広がりで発展する」という意味が込められており、名古屋市の市章にも用いられているように特別な意味を持つからだ。
「名古屋めし」を売りにするだけに、ランチタイムにはヤエチカ店限定のメニュー「幻の味噌(みそ)煮込みうどん」(1800円)を味わえる。名古屋市の老舗店「大久手山本屋」の協力を受けてみそ、出汁、麺を名古屋市から取り寄せているこだわりの一品だ。他にも肉厚なエビフライに特製みそだれをたっぷりかけた「みそエビフライ串」(396円)や、3種の豚もつとこんにゃくを赤味噌でじっくりと煮込んだ「どて煮」(605円)などを用意している。
2016年に夫のエスワイフード創業者の山本重雄会長が急逝後、代表取締役を務めている山本久美氏は「今後は100店体制を目指して出店拡大を進めていく」と力説。27年以降は青森県、沖縄県、ハワイ州を含めたアメリカ、韓国、中国、オーストラリア、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイなどへの展開を目標に掲げている。
zoom ▽好きなだけ味わえるデザートで「涼」を
一方で夏の暑い日に「涼」をもたらしてくれるのが、夏の果実を生かしたスイーツを好きなだけ味わうことができるブッフェを2026年7月1日に始めたのが東京・西新宿の京王プラザホテルだ。2階の飲食店「オールデイダイニング<樹林>」で開かれている「サマースイーツブッフェ」で、料金は平日が大人6千円、子ども4千円、土日祝日とお盆期間はそれぞれ6300円、子ども4千円。期間は26年8月31日まで。
素材の良さを生かした「白桃のショートケーキ」、さわやかなパッションフルーツのソースに生クリームや、芳醇な香りのアマレットジュレを重ねた「メロンとアマレットのヴェリーヌ」といった有名シティーホテルらしいメニューがブッフェ台に並ぶ。
作るところを見学できる「トロピカルフランベ~ライチソルベ添え~」もマンゴーソースにココナッツミルクを重ね、リキュールの華やかな香りを味わえる夏らしい味わいだ。
注文を受けて作ってくれるかき氷も、マンゴーやピーチといった果肉とピューレを絡めた夏らしいフレーバーを用意。それらだけでも清涼感を堪能するのに十分だが、「進化系かき氷」と名付けた新たなアレンジに挑んだのは有力ホテルのパティシエの真骨頂と言えよう。
魅惑的なレパートリーにひかれながらも、私が真っ先に注文したのが「獺祭の酒粕香るエスプーマ仕立て」だ。山口県岩国市に本社を置く日本酒「獺祭」は口当たりの良さと、ワインをほうふつとさせるフルーティーな味わいが持ち味。日本からの日本酒輸出額のうち約2割を占める首位で、アメリカ東部ニューヨーク州でも清酒を醸造している。獺祭の愛飲者の1人として、かき氷とどんなハーモニーを奏でるのかが気になったのだ。
結論から言うと、獺祭を一口飲んだ時の香りがほのかに香る上品な味に仕上がっていた。酒粕のほかにクリームチーズを生クリームと合わせているため落ち着いた大人の口当たりで、スイーツをあまり食さない皆様にも喜ばれそうだ。
パティシエの山崎光行氏は「暑い季節にぴったりな、涼やかな夏のスイーツを楽しんでほしい」と売り込む。
京王プラザホテルの運営会社は、京王電鉄の子会社だ。スイーツブッフェで食の鉄分補給を楽しんだ後は、新宿駅まで歩いて行けば京王電鉄京王線、または東京都営地下鉄新宿線と相互直通運転をしている京王新線の電車に揺られての“鉄分”補給も可能だ。そうすれば、本連載コラム名「“鉄分”サプリの旅」で食レポを取り上げていることも「看板に偽りなし」と胸を張ることができる。
終わり良ければ全て良し!
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!)
