旅の扉

  • 【連載コラム】「“鉄分”サプリの旅」
  • 2026年3月27日更新
共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎

高輪ゲートウェイシティが全面開業、首都の「実験場」は非日常性の連続!

△高輪ゲートウェイシティの「モン タカナワ ザ ミュージアム オブ ナラティブズ」(大塚圭一郎撮影)zoom
△高輪ゲートウェイシティの「モン タカナワ ザ ミュージアム オブ ナラティブズ」(大塚圭一郎撮影)

 JR東日本が東京都港区の車両基地跡に設けた大規模複合施設「高輪ゲートウェイシティ」が2026年3月28日に全面開業する。オープンする超高層複合ビルと文化創造棟、賃貸住宅棟の3棟の一部を見学できる内覧会に参加すると、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」というコンセプト通りの非日常性の連続だった。

△「ニュウマン高輪 ミムレ」で造られているクラフトビールを見せるスタッフ。奥が発酵タンクと熟成タンク(大塚圭一郎撮影)zoom
△「ニュウマン高輪 ミムレ」で造られているクラフトビールを見せるスタッフ。奥が発酵タンクと熟成タンク(大塚圭一郎撮影)

 【高輪ゲートウェイシティ】JR東日本の旧品川車両基地(東京都港区)の跡地を活用した大規模再開発事業。2020年3月に開業した山手線と京浜東北線の高輪ゲートウェイ駅に隣接した南北約1・3キロの約9・5ヘクタールの敷地に、4つの街区を設けた。総延べ床面積は84万5000平方メートルに達し、総事業費は6000億円を超える。
 手始めに超高層複合ビルの街区「THE LINKPILLER(リンクピラー)1」の2棟(ノース/サウス)が2025年3月27日に先行開業して「まちびらき」をした。商業施設「ニュウマン高輪」と高級ホテル「JWマリオット・ホテル東京」、オフィスなどが入居している。
 26年3月28日のグランドオープンで出そろうのは、残る3街区の超高層複合ビル「リンクピラー2」、文化創造棟「MoN Takanawa:The Museum of Narratives(モン タカナワ ザ ミュージアム オブ ナラティブズ)」、全847戸の賃貸住宅棟「高輪ゲートウェイシティ レジデンス」(入居開始は26年4月10日)。
 高輪ゲートウェイシティは「グローバル・ゲートウェイ」と位置づけ、最新技術や文化を発信することを目指している。東京都営地下鉄浅草線と京浜急行電鉄が乗り入れる泉岳寺駅も至近距離にある。

△「ニュウマン高輪 ミムレ」2階の中央部にある神奈川の真鶴半島で採掘した直径約5メートルの岩(大塚圭一郎撮影)zoom
△「ニュウマン高輪 ミムレ」2階の中央部にある神奈川の真鶴半島で採掘した直径約5メートルの岩(大塚圭一郎撮影)

 ▽「山手線一の閑散駅」から脱却
 JR東日本が京浜東北線沿線の浜松町駅(東京都港区)から大井町駅(東京都品川区)までの計5駅の周辺で進めてきたまちづくり「広域品川圏」のプロジェクトの中核である高輪ゲートウェイシティが、ついに最終章を迎える。
 高輪ゲートウェイ駅は2024年度の1日乗車人員が1万4209人と、山手線の30駅で最少の“閑散駅”だった。29位の鶯谷(東京都台東区、2万4460人)にも大きく水をあけられていた。
 だが、JR東日本マーケティング本部まちづくり部門の出川智之マネージャーは「高輪ゲートウェイ駅の乗降人員は、まちびらき前は1日約2万人でしたが、まちびらき後は約4万人に、商業施設とホテルの開業した昨年秋には約6万人に増加しています」と紹介し、乗車人員が最下位から脱却するのは確実なのを示唆。 26年3月28日の全面開業後は「1日に約10万人が滞在する街となることを見込んでいます」と意気込んだ。

△「ロイヤルブルーティー高輪ブティック」で「京都宇治甜茶 The Uji」を持つ広報担当者(大塚圭一郎撮影)zoom
△「ロイヤルブルーティー高輪ブティック」で「京都宇治甜茶 The Uji」を持つ広報担当者(大塚圭一郎撮影)

 ▽コーヒーの先に待ち受けていた試飲は…
 既存のリンクピラー1の北隣に開業する31階建て、地下5階のリンクピラー2の2~3階の計約8000平方メートルには、8つの業態の計22店が入居するJR東日本子会社ルミネの商業施設「ニュウマン高輪 MIMURE(ミムレ)」だ。
 圧巻なのは、京都市に本社を置く小川珈琲が2階のフロア全体に展開する「OGAWA COFFEE LABORATORY 高輪」だ。抽出に最適とされる88~92度で抽出したコーヒーを味わえるコーナーにとどまらず、550度の高温の窯で一気に焼き上げたピザ、パン、洋菓子、マイナス196度で仕上げるジェラート、チョコレート、ワイン、クラフトビールなどを味わえる。
 私は小川珈琲のコーヒー豆を買うこともしばしばあるため、まろやかな一杯を心地よく頂いた。歩を進めるとワインセラーがあり、山形県上山市のタケダワイナリーのワインを「いかがですか」と薦められた。日中なのでやや後ろめたい思いをしながらも、口に含むと香り高く、フルーティーな味わいだ。
 「本当に広いお店ですね」と小川珈琲関係者に話しかけると、「準備作業が大変でしたよ。クラフトビールまでここで造っていますからね」と教えられた。ビールを提供するカウンターに案内されると、ガラス越しにはステンレス製の発酵タンクと熟成タンクが確かに並んでいる。
 感心して「これは本格的ですね」と申し上げると、「あっさりした味から、しっかりした味まで用意しています」と3種類のビールをそれぞれコップいっぱいに出してくれた。カウンターで隣になった外国人記者と乾杯をして飲み干したところ、酔いが回ってきた。

△「モン タカナワ」にある約100畳の畳空間「Tatami」(大塚圭一郎撮影)zoom
△「モン タカナワ」にある約100畳の畳空間「Tatami」(大塚圭一郎撮影)

 ▽絶好の酔い覚ましは“非日常性の極み”のお茶
 2階の中央部には神奈川の真鶴半島で採掘した直径約5メートルの岩があり、その上には日本の山々で見られる植物を自生している。3階との間は高さ約6メートルの吹き抜けになっており、植物のために天井から水がしたたり落ちている。毎時ちょうど(00分)になると「落ちる水の量が多くなる」(ルミネ)という。
 エスカレーターで3階に上がると、またもやワイン瓶が並んでいる店舗が目に入った。「まだ?(の)むのか」と自問自答しながらも、「ここはワイン専門店ですか?」と1ミリの疑いも持たずにスタッフに尋ねた。
 すると、「いえ、これらは全部お茶です」という返答で、思わず目を見開いた。ワイン瓶のような750ミリリットル瓶なのだが、確かにアルコール類は全くない。中には「3万3000円」の値札が付いている商品もあり、酔って一桁見間違えたのかと凝視したが正しかった。
 最も安い台湾産のウーロン茶でも5400円で、スーパーでペットボトル入り緑茶の価格まで比べてしまう貧乏性の私には“非日常性の極み”だ。
 この店舗は、高級茶を販売している「ロイヤルブルーティー高輪ブティック」だった。「手摘み茶だけを原材料に使い、最大で7日間かけて非加熱抽出している」と説明を受け、高輪ブティック限定のてん茶「京都宇治甜茶(てんちゃ) The Uji」(750ミリリットル瓶で8640円)をワイングラスで試飲させていただいた。甘みのあるまろやかさな味わいで、茶というよりはワインのように余韻があると感じた。そう言うと勘違いへの自己弁護のようだが、上質なお茶ですっかり酔い覚ましができた。
 同じフロアには、有名すし店「築地玉寿司」を展開する玉寿司の新業態「鮨 上ル」がある。家族連れなどでカジュアルに味わえる築地玉寿司とは一線を画し、素材にこだわった江戸前ずしを落ち着いて味わう雰囲気だ。試食したユズ味噌漬けマグロのすしは、ユズの香りがマグロの赤身の食感と絶妙に相まっている。
 職人が目の前で握る7人前の個室も用意しており、「インバウンド(訪日客)の個室需要が大きいのに対応した」(玉寿司)。個室用に提供される選りすぐりのコース「おまかせ極みコース」は1人2万2000円だ。
 なお、ミムレで流れるジャズとクラシックを中心とする専用のBGMは「同じ日ならば、一日中いても同じ曲が流れることはない」(ルミネ)という。

△「モン タカナワ」の窓外に見えたJR西日本の電気軌道総合試験車「ドクターイエロー」923形T5編成(大塚圭一郎撮影)zoom
△「モン タカナワ」の窓外に見えたJR西日本の電気軌道総合試験車「ドクターイエロー」923形T5編成(大塚圭一郎撮影)

 ▽「幸せが訪れる」とされる遭遇が!しかし…
 非日常的な「値札」は店舗だけではなく、44階建て、地下2階の賃貸住宅棟もしかりだ。最も高い3LDKの部屋(専有面積196・96平方メートル)の月額賃料は200万円に達する。
 リンクピラー2と賃貸住宅の間には、都会のオアシスと呼ぶべき“緑の回廊”が設けられた。6階建て、地下3階建てのらせん状の建物で、延べ床面積が約2万9000平方メートルの「モン タカナワ」だ。伝統や漫画、音楽、宇宙など境界を越えたテーマを扱う「文化の実験的ミュージアム」と位置づけている。
 「モン」の名称は高輪ゲートウェイシティにふさわしい「門」と、問いかけの「問」を引っかけており「訪れた人それぞれの問いをここで感じていただき、思考を巡らしていただく、そしてこのミュージアムで過ごしていただきたいという思いを込めた」(JR東日本文化創造財団コミュニケーション推進部の清水理三郎部長)という。
 約1500平方メートルの展示空間「Box1500」、ステージ全面に発光ダイオード(LED)を備えた約1000平方メートルのシアター空間「Box1000」、靴を脱いでくつろげる99畳の畳空間「Tatami」などを備えている。Box1000のこけら落としとなるプログラムは、故・手塚治虫さんが1967年に描いた漫画「火の鳥 未来編」を題材にした「マンガローグ:火の鳥」(4月22日~5月16日)。
 6階から屋外に出ると都会では珍しい足湯があり、東海道新幹線や、JR東日本の車両基地「田町車両センター」を一望できるトレインビュースポットとなっている。隣接地では、1872(明治5)年に開業した新橋(現在の汐留)と横浜(現在の桜木町)を結ぶ日本初の鉄道路線に使われた石積みの構造物「高輪築堤」の第7橋梁の遺構が見つかっており、保存施設として2028年春に公開される予定だ。
 「モン タカナワ」を巡っていると、今や1編成(7両)だけとなったJR西日本の電気軌道総合試験車「ドクターイエロー」(923形T5編成)がたまたま通りかかった。「ドクターイエローを見ると幸せは訪れる」と言われているだけに、どんな良いことが待ち受けているのだろうと自分に問いかけた。
 その後、前出の高級茶の試飲や、すしの試食などが待ち受けていた。これらの非日常性により、ドクターイエローと遭遇したことによる「幸運」は使い果たしてしまったことだろう(苦笑)。
(連載コラム「“鉄分”サプリの旅」の次の旅をどうぞお楽しみに!

共同通信社 経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員:大塚圭一郎
1973年4月、東京都杉並区生まれ。国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒。1997年4月に社団法人(現一般社団法人)共同通信社に記者職で入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。2024年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を積極的に執筆しており、英語やフランス語で取材する機会も多い。

日本一の鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。東海道・山陽新幹線の100系と300系の引退、500系の東海道区間からの営業運転終了、旧日本国有鉄道の花形特急用車両485系の完全引退、JR東日本の中央線特急「富士回遊」運行開始とE351系退役、横須賀・総武線快速のE235系導入、JR九州のYC1系営業運転開始、九州新幹線長崎ルートのN700Sと列車名「かもめ」の採用、しなの鉄道(長野県)の初の新型車両導入など最初に報じた記事も多い。

共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載「鉄道なにコレ!?」と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。

本コラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)、カナダ・バンクーバーに拠点を置くニュースサイト「日加トゥデイ」で毎月第1木曜日掲載の「カナダ“乗り鉄”の旅」(https://www.japancanadatoday.ca/category/column/noritetsu/)も執筆している。

共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。
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