zoom普段、私たちが何気なく利用しているフライト。その裏側では、一便一便を安全に、そして定刻どおりに送り出すために、多くの専門家たちが働いています。香川県立高松東高等学校の生徒8名が参加したのは、羽田空港で行われたデルタ航空の職業体験プログラム。パイロットやキャビンアテンダントだけではない、グローバルエアラインを支える多くの仕事の現場をレポートします。
このプログラムは、公益社団法人ジュニア・アチーブメント日本が実施する職業体験プログラムで、生徒が企業の社員に同行しながら仕事の様子を見学し、職業への理解を深めるとともに将来の進路を考えるきっかけを得ることを目的としています。デルタ航空は世界各地で教育活動を支援しており、ジュニア・アチーブメントの活動も支援しています。日本でこのプログラムが行われるのは今回で3回目とのことです。
zoom■ 羽田と米国を結ぶ約2時間10分の地上滞在
オフィスに到着すると、デルタ航空東京国際空港支店の牧野支店長から挨拶と当日の流れについてブリーフィングがありました。
デルタ航空は羽田とアトランタ、デトロイト、シアトル、ミネアポリス、ロサンゼルス、ホノルルの6都市を結ぶ路線を運航しています。米国から羽田に到着した機体は、約2時間10分という限られた駐機時間の中で、降機、清掃、燃料補給、整備点検、搭乗準備など多くの業務が行われ、次の目的地へ向けて出発します。1日6便の到着と出発を合わせて約3,000人の旅客を時間通りに目的地に送り届けるため、定時運航を守り抜いています。
こうした説明からも、一便を送り出すために部署を越えた連携が欠かせないことが伝わってきます。支店長の説明を聞く生徒たちは大きくうなずきながらメモを取り、終始熱心に話を聞いていました。自己紹介では「英語で質問してみたい」「地上業務に興味がある」といった声も上がりました。
zoom■ 整備は「最前線」。五感も使って守る空の安全
続いて、デルタ航空で「テックオプス(TechOps)」と呼ばれる、航空整備部門を率いる春田マネジャーが、「整備士は飛行機を修理するだけの仕事と思われがちですが、実際はお客様の目の前で働くフロントライン・エンプロイー、つまり最前線の従業員なんです」と生徒たちに語りかけました。
春田マネジャーは、整備の仕事は飛行機が離陸した瞬間から始まると説明します。飛行中に送られてくるデータをリアルタイムで分析、また飛行中にパイロットから報告される情報をもとに、部品交換が必要な場合は、飛行機が着陸する前に部品を用意して、速やかに部品が交換できる体制を整えます。不具合の報告がなくても、チェックリストに基づく点検は必ず実施されます。現場では計器が示す異常数値だけでなく、わずかな、いつもと違う「匂い」などの五感も使って異常を察知することもあるそうです。また、″Preventative Maintenance“と呼ばれる、故障が起きる前に、部品ごとに決められた使用時間内に交換を行って故障を未然に防ぐ「予防整備」を行っています。壊れてから修理するのではなく、壊れる前に手を打つことで安全と定時性を守る考え方です。
驚いたのは、航空会社の垣根を越えた協力体制でした。高額な部品を他社と融通し合う「プールパーツ」という仕組みがあります。これは競合他社であっても、安全に関わる整備に関しては互いに支え合うというものです。空の安全を最優先する現場の姿勢が伝わってきました。
春田マネジャーは、整備士が提供しているのは、お客様の立場に立った「究極のサービス」と表現しました。過去にお客様の座席をより良い席に変更したところ、お客様にはその席を選んだ理由があったといいます。それ以来、座席を変更する際には必ず理由を説明し、お客様に選択肢を提示することを徹底しているそうです。安全を守るだけでなく、お客様が機内で過ごす時間や価値観にも配慮すること。それが整備の役割だと強調していました。
「飛行機を安全に飛ばすのは当然。その先の満足までお客様に届けたい」。整備士が安全と快適さの両方を支える「最前線」の一員として、仕事をしていることが伝わってきました。「限られた時間で多くの判断を求められるため、判断の責任は重いですが、その分やりがいも大きい仕事です。将来はこの現場の半分を女性が担う時代になってほしい」と、次世代への期待を示しました。
zoom■ 運航を支える司令塔
この後、運航管理部門のブリーフィングにも参加しました。航空業界では、旅客部門を「Above Wing」、ランプや貨物部門を「Below Wing」と呼んでいます。ブリーフィングでは、その日の運航状況や注意点に関する報告が各部署から次々と入り、室内は静かな緊張感が漂っていました。いよいよ、この日のオペレーションが動き出します。
到着遅延や風向きの変化といった情報が、運航に大きく影響することも説明されました。風向きが変わると使用滑走路だけでなく、燃料搭載量や貨物の積み方にも影響が及ぶそうです。機体の重心バランスを管理するロードコントロールも含め、さまざまな調整が必要になります。また、到着が遅れれば日本出発の便にも影響するため、搭乗ゲートの変更などの判断も求められるといいます。
zoom■ 現場で体験する地上業務
生徒たちは旅客サービス部のブリーフィングにも参加しました。この日はシアトルからの到着便で機材変更があり、15名のオーバーブッキングが発生していました。そこで、シアトルで乗り継ぐ予定のお客様に対し、別の乗り継ぎ便で目的地へ向かっていただく提案を行います。それでも人数が調整できない場合は、コンペンセーション(ギフトカード、ホテル、ミールなど)を提示したうえで後続便をご利用いただくなどの対応が検討されます。こうした調整も、運航の安定を支える大切な仕事の一つです。
その後、チェックインカウンターでは、生徒たちが実際にアナウンスや接客業務を体験しました。代表の2名が英語と日本語でアナウンスに挑戦したほか、チームに分かれて全員が預け入れ手荷物にタグを貼る作業にも取り組みました。利用客の多くが外国人であるため、スタッフは英語で次々と対応しながら、シアトルで乗り継ぐ予定のお客様を見つけると事情を説明し、別の乗り継ぎ便の案内も行っていました。そのやり取りを、生徒たちは真剣な表情で見守っていました。
その後は特別な許可を得て、制限区域内を見学しました。エンジンの大きさや整備作業の様子を間近で見学し、「エンジンの大きさに圧倒された」「地面から見上げる飛行機は、想像以上の迫力だった」といった声が聞かれました。普段は入ることができない空港の裏側に、生徒たちは驚きを隠せない様子でした。
zoom■ パイロットが語る仕事の原動力
最後に、これから出発するシアトル便に乗務する機長に質問できる時間が設けられました。生徒たちは少し緊張した様子でしたが、積極的に英語で質問を投げかけていました。25年間航空機を操縦し続けてきたという機長は、やりがいについて問われると迷うことなく「共に働くクルーとお客様の存在」と答えました。操縦そのものよりも、「誰と働き、誰を送り届けるのか」という人と人とのつながりが、長く飛び続けてこられた理由だといいます。また、より良いサービスのために大切にしていることを聞かれると、「デルタ・ディファレンス」と呼ばれる企業文化を挙げました。特別な設備やマニュアルだけでなく、チームメンバー同士を尊重する文化が、結果として乗客へのホスピタリティにつながっていくという考え方です。
■ 「チームで飛ばす」を知った一日
参加した生徒の多くは、それまで航空会社の仕事といえばパイロットとキャビンアテンダントしか思い浮かばなかったと話します。しかし、一便を送り出すためには整備、運航管理、旅客サービススタッフなど、実に多くの人が関わっています。そのことを知り、「今まで何も知らずに飛行機に乗っていた。これからは感謝の気持ちを持って乗りたい」という声も聞かれました。また、チェックインカウンターではスタッフが英語でスムーズに対応する姿に、「英語でコミュニケーションを取る姿がとにかくかっこよかった。自分もあんな風になりたい」と語る生徒もいました。到着から出発まで、わずか2時間余りのバトンリレー。それぞれの部署が役割を果たしながら一便を送り出していく現場で、生徒たちは「チームで飛ばす」という考え方を実感したようでした。
■ 現場からのアドバイス
このプログラムの終盤、ある生徒から「勉強以外で、今から心がけておくべきことはありますか」という質問が投げかけられました。デルタ航空のスタッフたちは口をそろえてこう答えました。
「とにかく、いろいろな人と関わること。身近な人だけでなく、偶然出会った人も含めて。そして『誰かがやるだろう』ではなく、自分から一歩踏み出す主体性を持つことです」
航空会社の仕事はチームワークで成り立っています。しかし、その土台にあるのは一人ひとりの主体的な行動です。さらにスタッフたちは、仕事を「楽しむこと」の大切さも伝えました。困難な場面があっても、その先にある達成感を分かち合える仲間がいることが、長く働き続けられる理由なのだといいます。
「いつかアメリカへ行ってもらいたい、その時はデルタを選んでもらえたら嬉しい」。そんなスタッフたちの願いを受け、香川県立高松東高等学校の代表生徒が感謝の言葉を述べました。「航空会社の仕事の多様さを知り、語学力だけでなく、相手を思いやる姿勢やプロとしての責任感を学びました。将来の進路を考える大きなきっかけをいただき、ありがとうございました」。
プログラムを終えた8名の生徒たちは、デルタ航空のオフィスを後にしました。高松行きの出発まで少し時間があり、羽田空港限定の商品などの買い物も楽しみにしている様子でした。職場体験を通して、生徒たちは自分の夢に向けて一歩を踏み出し、これからそれぞれの道で大きな翼を広げていくことでしょう。取材を通して、航空会社の仕事がいかに多くの専門職の連携によって支えられているのかを改めて実感しました。多言語でお客様に対応するスタッフの姿も印象的で、空の旅の舞台裏にあるチームワークの力を感じる一日となりました。
取材協力:デルタ航空
撮影:大橋マサヒロ
