zoom兵庫県の日本海側に面した豊岡市の城崎温泉は、開湯1300年の歴史を誇る日本屈指の温泉地です。川沿いに柳が揺れる美しい景観は、岡山県の倉敷美観地区を彷彿とさせ、訪れる人々を大正ロマンの世界へと誘います。
駅から温泉街の最奥部にある宿泊施設まで、距離にして約1.6km、徒歩で20分程度というコンパクトな規模感も魅力です。今回は、効率的な外湯巡りのシステムから、文豪たちが愛した文学の街としての側面、そして宿泊した宿のホスピタリティまで、城崎温泉の魅力をお伝えします。
文豪・志賀直哉が愛した文学の街
城崎温泉は、多くの文人墨客に愛されてきた「文学の街」としての顔を持っています。その象徴ともいえるのが、大正を代表する小説家、志賀直哉です。彼は怪我の療養のために城崎を訪れ、その滞在をもとに名作『城の崎にて』を執筆しました。
街には、志賀直哉のほかにも与謝野寛・晶子夫妻などの歌碑が点在しており、歴史の息吹を感じながら散策を楽しめます。城崎文芸館前にある志賀直哉の文学碑は、本人の自筆署名が刻まれた国内唯一のもので、地元の人々の熱意によって建立されたというエピソードが残っています。
近年では、志賀直哉の来湯100周年を機に、出版レーベル「本と温泉」が立ち上がりました。万城目学氏や湊かなえ氏といった現代の人気作家が城崎を舞台にした新作を書き下ろしており、温泉に浸かりながら読める耐水性の本や、カニの脚をモチーフにした装丁の本など、城崎でしか手に入らないユニークな書籍も話題を呼んでいます。
zoom外湯巡りを支える利便性の高いシステム
この街の最大の特徴は、まち全体を一軒の大きな宿、道を廊下、外湯をお風呂に見立てる共存共栄の精神にあります。
城崎温泉が観光地として高く評価されている理由の一つに、宿泊客向けの優れたサービスがあります。JRや但馬空港からのバスで城崎温泉駅に到着した場合、どの旅館への宿泊であっても施設まで送り届けてくれるチェックインバスがあり、12時半から18時ころまで駅前で係員が待機しています。
早めに到着した場合でも手ぶらで散策を楽しめるよう、駅前の観光センターではホテルへの荷物配送サービスも実施しています。往路200円、帰路50円という非常に手頃な価格設定は、公共交通機関を利用する旅行者にとって大きなメリットです。
旅館に到着すると、宿泊者には外湯巡りパス「ゆめぱ」が提供されます。これはチェックイン当日の15時から翌日の13時まで有効で、各外湯の入り口にある端末にQRコードを読み取らせるだけで入浴が可能になる仕組みです。
城崎には個性豊かな6つの外湯が点在していますが、それぞれ休業曜日と営業時間が異なります。どのお湯から巡るか、パズルを組み立てるようにスケジュールを立てる時間も、城崎観光の醍醐味といえるでしょう。
人気の「御所の湯」では、紅葉の残る樹々のあいだから流れ落ちる滝を見ながらの露天風呂で身も心も温まります。休憩スペースで飲む「白バラ牛乳」のまろやかな味が忘れられません。
zoom温泉寺の参拝とロープウェイからの絶景
温泉街を奥まで進むと、城崎温泉ロープウェイの山麓駅にたどり着きます。これに乗車して大師山の山頂へ向かえば、温泉街を一望できるだけでなく、遠く日本海まで見渡すパノラマビューを楽しむことができます。展望Caféでコーヒータイムを楽しむのもいい考えです。
中腹には、城崎温泉の守護寺として知られる温泉寺があります。古くから、まずは参拝して「湯杓」を授かり、その後に外湯を巡るのが正しい入浴作法とされてきました。現代でも、ここで御利益を得てから湯巡りを行うことで、旅の趣がより一層深まります。
zoom冬の味覚と昔ながらの遊戯場を楽しむ
城崎の楽しみは温泉や文学だけではありません。冬のシーズンには、日本海で獲れた新鮮なズワイガニ(松葉ガニ)を目当てに多くの美食家が訪れます。温泉街には海鮮料理店が豊富に立ち並び、旬の味覚を心ゆくまで堪能できます。
さらに、街中には射的などの遊戯場が今もなお残されており、昭和の温泉情緒を肌で感じることができます。浴衣姿で下駄を鳴らしながら、遊戯場に立ち寄る時間は、旅の思い出を鮮やかに彩ってくれるはずです。
実際に「センター遊技場」で射的を楽しんでみました。500円で10発のコルク玉を求め、的を目指して打ち込みます。的の人形が落ちればカウントされ、その数によりお土産が貰えるという仕組みです。ささやかな景品のノート一冊だけでも嬉しいものです。
zoomときわ別館で体験する伝統的な日本旅館のおもてなし
今回の滞在先に選んだのは、静寂に包まれた「ときわ別館」です。この宿の魅力は、到着した瞬間から始まる丁寧な接客にあります。玄関に近づくと、スタッフの方がすぐに駆け寄り、荷物を運んでくれる出迎えの迅速さには驚かされました。
チェックインの手続きは客室で行われ、プライベートな空間でお茶とお菓子で一息つくことができます。手入れの行き届いた素晴らしい中庭を眺めながら過ごす時間は、まさに至福のひとときです。樹々には雪吊りが施され、冬支度を垣間見ることができます。
食事は夕食、朝食ともに部屋食というスタイルで、他のお客様を気にすることなく、地元の旬の食材をゆっくりと味わえます。最近では少なくなった布団の上げ下げサービスもあり、古き良き日本旅館の伝統を大切に守っている姿勢が伝わります。
夕食は料理長の名前が書かれたお品書きが添えられます。師走の献立として先付から始まりメインの鮭と但馬牛も加え、デザートまで全12品が並び、充分に満足のいく会席料理を堪能できました。蟹を追加したい場合は予約時に該当のコースをリクエストしておきましょう。
zoomときわ別館では、冬の外湯巡りを快適に楽しめるよう、防寒用の丹前や傘の貸し出しを行っています。厳しい寒さの中でも、温かな丹前を羽織れば温泉街の散策も苦になりません。
また、館内のラウンジではフリードリンクのサービスがあり、湯上がりに喉を潤すのに最適です。翌朝には部屋に新聞が届けられるなど、細部にわたる気配りが心地よい滞在を支えてくれます。
チェックアウト後も楽しむ
10時にチェックアウトしてから散策を始めると気になるCaféが見つかりました。宿泊施設「UTSUROI TSUCHIYA ANNEX」が経営する「CAFÉ AND GALLERY」です。城崎出身の日本画家「山田毅」の作品が店内に飾られ、素敵な空間を形作っていました。
店内でスマホ検索して見つけた極楽禅寺は庭園が見事で、無料見学できたのは得した気分でした。「ゆめぱ」パスの有効活用で、最後6湯目までしっかり入湯できたことで満足感が高まります。
城崎温泉は、文豪たちが愛した風景と、現代の遊び心が共存する稀有な温泉地です。歴史を紐解きながら、浴衣姿でゆっくりと街を歩けば、きっと自分だけの物語が見つかることでしょう。
