旅の扉

  • 【連載コラム】空旅のススメ
  • 2025年11月9日更新
あびあんうぃんぐ
航空ライター:Koji Kitajima

氷河特急「グレイシャー・エクスプレス」で巡る、息をのむような山岳パノラマの旅路

氷河特急1等車内でのランチタイムの様子 ホットミールを取り分けてくれますzoom
氷河特急1等車内でのランチタイムの様子 ホットミールを取り分けてくれます

 スイス政府観光局の主催による国際メディアツアーで日本から直行便のあるチューリッヒを基点として古都クールから始まる山岳リゾートの「ユングフラウ」を訪れる魅惑的な旅を体験しました。世界で最も遅い特急列車と称されるパノラマ列車「グレイシャー・エクスプレス」に乗車し、3000m級の山へ鉄路で訪問する鉄道の旅です。

グレイシャー・エクスプレスの旅
 クールから乗車した氷河特急の車窓に広がるのは、息をのむような壮大なスイスアルプスの絶景。まるで一枚の絵画の中をゆっくりと進んでいくかのようです。車内でのお楽しみは、美しい景色を眺めながら、洗練されたランチコースをゆっくりと楽しむことができることです。

1等車には既に向かい合わせの4人席と2人席にテーブルクロスが敷かれ、カトラリーがセットされています。ランチには2~4品までのコース料理があります。

この日の2品コースメニューは、新鮮な季節のサラダに続き、メインにはチキンの煮込みマッシュルームソースが提供されました。バター風味の卵麺と人参が添えられた一皿は、旅の始まりを豊かなものにしてくれる特別な味でした。走行中に3人のスタッフが大きな皿から料理を取り分けてくれるライブ感も旅の楽しみを盛り立ててくれるのです。

このグレイシャー・エクスプレスを走らせるレーティッシュ鉄道は、箱根登山鉄道と提携しており、けん引する機関車に大きく漢字での記載があるのは日本人にとっては誇らしいところ。

ユングフラウへの行程は、ブリークで下車ののちインターラーケンへ向かうのが一般的ですが、今回はアンデルマットで下車して山岳リゾートホテルに宿泊します。

山間部で郵便と旅客を運ぶ公共交通機関のポストバスへと引き継がれます。高低差のある山間部の景色を眺めながら2時間ほどの道をマイリンゲンへ向かいます。途中、険しい山々の曲がりくねった道もドライバーはスピードを落とさずに進んでいきます。

到着するとそこにはハスリベルク・ロイティにある「ホテル・パノラマ」までのバンタイプの車によるプライベート送迎が待っていました。マイリンゲン駅からホテルまでの移動も、特別な配慮が感じられる快適な時間です。

パノラマホテルから朝の絶景を見るzoom
パノラマホテルから朝の絶景を見る

幻想的な山岳ホテルで過ごす、至福の夜
 旅の疲れを癒すべく、チェックイン。このホテルは、その名の通り、素晴らしいパノラマビューを誇ります。木材をふんだんに使った温かみのある内装は、まるで伝統的なスイスの山小屋のようです。

広々としたラウンジからは、ベルンアルプスやエンギホルンの山々、そしてブリエンツ湖やトゥーン湖の一部まで見渡せる絶景が広がっています。各部屋にはバルコニーがあり、夜には満天の星空、朝には息をのむような日の出を独り占めできるのがこのホテルの大きな魅力です。

美しい夜景と山々のふところに抱かれた静寂の中の宿泊は、忘れられない思い出となりました。

ヨーロッパの頂上、ユングフラウヨッホへの挑戦
 翌朝、荷物はフロントに預けて身軽に出発します。これらの荷物はタグによって識別されて次のホテルへ直接配送されるラゲージサービスがあります。スイス観光の利便性はこのようなサービスによって成り立っています。

ゴンドラと列車を乗り継ぎ、インターラーケン・オスト(東)駅へ向かい、いよいよこの旅のハイライトの一つ、ユングフラウヨッホへ「ユングフラウ鉄道」に乗り、標高3,454メートル、天空の別世界へ旅の始まりです。

まずは標高1034mのグリンデルワルトに向かいます。乗り継ぐのは2020年に新設された「アイガー・エクスプレス」。26の座席のあるゴンドラでどんどん山の上に運びます。四方が開けたゴンドラの眺めは迫力があります。

標高2320mのアイガーグレイシャーからは車両が変わり、トンネルの中を山頂のユングフラウを目指します。途中、下車が可能とのアナウンスで展望スポットに向かうと、アレッチ氷河の波が前方に広がり、いきなり銀世界のまっただなかに放り出された気分になります。

アイガー・エクスプレスのゴンドラ内はゆったりとzoom
アイガー・エクスプレスのゴンドラ内はゆったりと

 冷たい風が頬を撫で、足元で雪が軋む音と感覚。息をのむような絶景が目の前に広がります。片側にはミッテルランドからヴォージュ山脈まで、そしてもう片側には四千メートル級の峰々に囲まれた壮大なアレッチ氷河。

ユングフラウ(4158m)、メンヒ(4107m)、アイガー(3970m)など名だたる名峰がずらりと肩を並べており、その圧倒的なスケールにきっと心を奪われることでしょう。

スイス国旗とともに記念撮影のできるユングフラウでのひとコマzoom
スイス国旗とともに記念撮影のできるユングフラウでのひとコマ

 ユングフラウヨッホでの滞在は、単なる景色を楽しむだけではありません。トップオブヨーロッパと名付けられた施設の中の「レストラン・クリスタル」では、天空の食事を楽しみました。窓から広がる白銀の世界を眺めながら食べたのは、野菜の照り焼きとワイルドライスを添えたグリルドサーモン。地上では味わえない、特別な空間での格別な一皿でした。

食事の後は、ユングフラウヨッホの景観を存分に楽しむことができます。スフィンクス展望台からの眺め、氷の宮殿の探検に加え、ジップラインやソリ遊びといったアクティビティも楽しむことができます。実際に氷雪の上を歩いたり、山々の間の氷河を間近に見ることのできる経験は、本当に貴重で、心を揺さぶられるものでした。

どこまでも続くアレッチ氷河を見下ろせる眺めzoom
どこまでも続くアレッチ氷河を見下ろせる眺め

湖上の優雅なディナークルーズで締めくくる一日
 ユングフラウヨッホでの感動的な時間を過ごし、インターラーケンへと戻ります。山岳旅の締めくくりは、トゥーン湖でのディナークルーズを体験しました。静けさの中で水面を進むひととき。トゥーン湖の深い青色の湖水が陽光にきらめき、ボートは息をのむような美しい景色の中を滑るように進んでいきます。

東岸のインターラーケン・ウェストから西端のトゥーンまで湖面を2時間で横断しました。

静けさの中、滑るように湖上を夕陽に向かって進むトゥーン湖クルーズzoom
静けさの中、滑るように湖上を夕陽に向かって進むトゥーン湖クルーズ

 食事の後は雄大な山々のパノラマを見上げる時間。湖の岸辺に広がる協会などの建物を見学しながらのクルーズは、至福の体験です。この二日間で巡った壮大なスイスの景色を思い返しながらのディナーは、旅の記憶により深く心に刻んでくれました。

スイスでは、列車にせよ船にせよ、公共交通機関での供食サービスが充実しています。日本での弁当文化も楽しいですが、スイスではできたての温かい食事でのもてなしに心休まります。

取材協力:スイス政府観光局 → https://www.myswitzerland.com/ja/では鉄道の運賃や湖船の情報など最新情報が確認できます。

航空ライター:Koji Kitajima
大阪府出身。幼少期より空への憧憬の念を持ったまま大人になった、今や中年の航空少年。
本業のかたわら情報を発信しています。週末は航空ライター兼ブロガーとして活動中。
旅のモットーは、「航空旅行を楽しまないと旅の魅力は半減です。旅の楽しみは空港から始まる」です。

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