旅の扉
- 【連載コラム】【厳選旅情報】編集部がみつけた、旅をちょっぴり豊かにするヒント
- 2025年11月4日更新
- リスヴェル旅コラム
Editor:リスヴェル編集部
紅葉に包まれる秋の魚沼旅 奥只見湖の彩りと滝雲の神秘
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- 黄金色に染まる魚沼の秋、越後三山を望む風景©魚沼市観光協会
- 東京駅からわずか90分。上越新幹線「とき」で浦佐駅に降り立つと、越後三山:越後駒ヶ岳(2003メートル)、中ノ岳(2085メートル)、八海山(1778メートル)が出迎えてくれる。山々は稜線でつながり、古くから地の人々に“山の神々”として敬われてきた存在だ。
ここは日本有数の豪雪地帯。夏の深緑が秋には燃えるような紅葉となり、やがて静寂の白銀へと変わる。稲刈りを終えた田んぼの向こうに紅葉した山々が見え、どこを見渡しても穏やかな風景が広がっている。10月中旬から11月中旬にかけて、魚沼の山々は紅や黄金に染まり、一年でいちばんカラフルな美しい季節を迎える。
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- 奥只見湖クルーズと紅葉(10月30日撮影)
- 新潟県と福島県の県境に位置する奥只見湖は、只見川をせき止めて造られた日本有数の人造湖。初夏の新緑も見事だが、湖面に紅葉が映る秋の風景は格別だ。「日本紅葉の名所100選」にも選ばれた幻想的な景色を遊覧船で巡るのが人気のコースになっている。
今回は奥只見乗船場から銀山平乗船場までの40分コースに乗船した。視界に入ってくるのは、会津駒ヶ岳、燧ヶ岳、平ヶ岳、越後三山など2000m級の名だたる山々と原生林の紅葉。デッキに立つと、澄んだ空気が心地よく、風とともに秋の気配を肌で感じられる。紅葉の見頃は10月下旬から11月上旬。2025年の遊覧は11月8日まで運航されている。
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- 奥只見シルバーラインの神秘©魚沼市観光協会
- 奥只見湖は、戦後の大規模なダム建設によって誕生した。魚沼市と奥只見湖を結ぶ「奥只見シルバーライン」は、昭和32年に奥只見ダム建設のために造られた資材運搬用道路だ。全長約22キロメートルのうち18キロメートルがトンネル、残りもスノーシェッドで覆われ、景色がほとんど見えない。オレンジ色の照明がむき出しの岩肌を照らし、車で走るとまるで地底を走っているような感覚に包まれる。
そして、長い闇を抜けた瞬間、一気に光が広がる光と紅葉の景色。この劇的なコントラストこそ、シルバーラインが「秘境へのプロローグ」と呼ばれるゆえんだ。通行できるのは雪解け後の5月下旬から11月初旬まで。徒歩や二輪車は通行禁止なので注意を。冬に閉ざされる“期間限定の道”であることも、旅の特別感を高めてくれる。トンネル好きの方は訪れることをおすすめする。
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- 上原(うわっぱら)コスモス園(10月22日撮影)
- 魚沼市吉平にある上原(うわっぱら)コスモス園は、市内を一望できる高原にある花畑。ここも秋の観光名所になっている。約4万平方メートルの敷地に100万本のコスモスが咲き誇る。見頃は9月上旬から10月中旬。晴れた日には越後三山を背景にピンクや白の花々が風に揺れる。
春は雪の上に桜が咲き、5月は芝桜、夏にはユリの花が見事に咲く。季節ごとに景色が変わり、どの花も見頃が短いのが魚沼らしい。儚さの中に、自然の豊かさと力強さを感じられる場所だ。
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- 神湯温泉倶楽部のロビー
- 旅の締めくくりは、山あいの温泉で。今回泊まったのは魚沼市清本にある神湯温泉倶楽部。四季折々の風景に囲まれた静かな温泉宿だ。泉質は「単純温泉(低張性弱アルカリ性低温泉)」で、肌にやさしく、湯上がりの肌がつるりとする。ここは、日帰りでも宿泊でも楽しめるので地域の人も多く訪れていた。丁寧に準備された朝晩の食事では、魚沼市産コシヒカリやけんちん汁がおかわり自由になっていて、美味しくてつい食べ過ぎてしまう。敷地内にはオートキャンプ場もあるので初夏から夏にかけてのアウトドア拠点としても人気だそう。2025年11月17日から2026年6月末までは改修工事のため休館予定なのでご注意を。
魚沼には湯之谷温泉郷、大湯温泉、栃尾又温泉、折立温泉、銀山平温泉など多彩な湯処がある。春の新緑、秋の紅葉、冬の雪見風呂など、四季の風景とともに湯浴みを楽しむ、その豊かさがこの土地の魅力だ。
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- 枝折峠の滝雲(10月23日撮影)
- 朝4時、宿を出て夜明け前の枝折峠(しおりとうげ)へ向かった。山頂にはすでに多くのカメラマンがベストポジションを確保して、空が明るくなるのを待っていた。ここは、奥只見湖で発生した雲海が山々を越えて谷へと流れ落ちる光景が見られる。まるで雲が滝のように流れ落ちているように見えることから「滝雲」と呼ばれている。雲は動いているので、まさに自然が見せる奇跡の瞬間といえる。
観賞できるのは6月中下旬から11月上旬の早朝。滝雲が発生しやすいのは「早朝」「晴れ」「前日との気温差が大きい」日の出前後ということだが、滝雲は自然現象のため、条件が揃っていても滝雲が発生しない日もある。魚沼市観光協会の公式Instagramでは滝雲発生予報を配信しているので参考になる。
「白銀の湯駐車場」と「大湯公園駐車場」からは、片道500円の「うおぬま滝雲シャトルバス」が運行されており、登山をしなくても車を降りてすぐ道路脇から滝雲を間近で見られる。2025年は11月4日午前9時に枝折峠(国道352号)が冬期閉鎖される予定。
魚沼の秋は短い。けれど、その限られた時間に、光と風と人の暮らしが凝縮されている。紅葉を映す湖面、谷を流れる滝雲、湯けむりに包まれる夜。そのすべてが、季節の記憶として心に残る。次の季節の訪れを待ちながら、またこの地を訪れたくなる。
取材協力:
魚沼市観光協会 https://www.iine-uonuma.jp/
小千谷観光バス株式会社 http://www.ojiya-kanko.com/